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2章

白を切る

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 第3庁舎(警察署)窓口。

「申し訳ありません。
 ただいま、ロアンホーリーは重要任務についており、お会いできないと」

 ロアンくんを連れにきたんだけど、フォール・ベベの暗殺があったからだろう、禁魔札きんまふだがあちこちに貼られ、第3庁職員は大忙し。
 禁魔札は魔法を使えなくさせる効果があるね。
 この舎内に最低1人は違法魔法使いが潜んでいるわけだから。

 だからと言ってロアンくんの仕事が終わるまで待つわけにはいかない。
 許可無しだけど、こっそり侵入してロアンくんを探しちゃうよ。

 一度舎内から出た俺は、あたりに誰もいないのを確認してから天井に張り付きスライムに戻る。 
 天井の模様に体表を同化させたね。
 適当に舎内を高速移動していて10秒後、
 地下3階、薄暗い安置所で、白衣姿の医師風の男2名とロアンくんがフォールベベの死体見分を行っていたよ。
 流石は運値が1億超えだね。直ぐに見つけちゃう。

 さて。 
 本来なら天井から降りて人間の姿に戻り、まずはロアンくんたちに挨拶し、
 それから手順を踏んで説明するべきなんだろうけど、アハートさんが待っているので、もたもた出来ない。
 アイテム収納庫を展開させ、天井から触手を伸ばしロアンくんを掴んで投入口へ入れたね。

 カラン――ッ!

「……ロ、ロアンさん……ロアンホーリー1等兵?」

 ロアンが床にトレイだけを残し姿を消した。
 医師たちが手を止めて室内を見回すが、死体以外誰もいない。
 お互いが顔を見回し固唾を飲む。

「……、……」

 逃げるように部屋から出て行ってしまったよ。
 ちょっとホラーだったね。


 ◆


 宿舎の居間。
 戻ると、アハートさん、コウくん、ヒトミさんが、椅子に縛られたアシダダムを取り囲んでいた。
 その他の人はおらず、人払いがされているね。

 エースの姿は無い。
 いや、
 …………なるほど。

 天井と壁いっぱいに薄く張り付いて同化していたよ。

 エースにとって姿が見えないデーモンは不安だ。天敵と言える。
 いくらコウくんが出現を教えてくれると言っても、完璧じゃないからね。
 
 しかもエース得意の攻撃、 
 触手を剣状にさせたもので敵を切断、
 触手を敵体内に突き刺し、主要器官を潰す、
 触手を敵体内に入れ、内部を溶解、
 などの物理攻撃が効かないとくる。

 つまりエースが勝つには、デーモンが魔法を放つ前に、召喚する魔法使い本体を気絶させないといけないわけだけど、
 なかなかそうも行かないんだよね。
 俺が教えたデーモン対策は不十分と言える。

 今までのケースだと、魔法使いはデーモンの近くにいるとは限らず、
 デーモンが強くなればなるほど、魔法使いのレベルが高ければ高いほど、遠距離からの攻撃が可能みたい。
 そうなってくると、魔法使いの特定がデーモンの魔法発動より遅れる可能性があるわけね。

 コウくんがデーモンを発見し、数秒で魔法使いを特定出来なければ、攻撃よりまず逃げる。
 スライムボディに皆を包み、高速逃亡するつもりだね。

 もし発見が遅れ攻撃されても、身体を薄く広げて弱点の核が何処にあるのか分からないようにしているわけだね。

 天井に作ったエースの眼と合ったよ。
 人知れず、壁伝いに降り人間エースを形成させ、改めて入口から入ってきたね。
 アハートさんたちが、俺とエースの姿を認めて顔が緩んだ。

「アシダダムは白を切るばかりで」とアハートさん。

「この男は今年の6ヶ月間だけでも放火、殺人依頼など100件以上魔法使いに指示を出してます」
 
 ヒトミさんがアシダダムの心の奥を読み取ったよ。

 やはりな。
 アイテム収納庫からナリオールを出し、アシダダムの前でもう一度語らせるか。
 それでも白を切ったら……。

 ――む?
 嫌な予感が……。

 直後、閃光と共に稲妻が走った。
 
「な、なんな、なんですか今のはっ!」

「稲妻魔法です、アハートさん」

 カンを信じてよかったーっ。
 アハートさんたち全員を10メーターほど横へ移動させたんだよね。
 俺の立っていた周囲2メーターの真っ赤なカーペットだけが黒く焦げている。

 だけど、コウくんがキョロキョロするように、デーモンの姿はない。
 なんでだ?

「クックックッ……素早いな、ヒジカタ。速すぎるぜヒジカタさんよぉ~。全然見えねえし」

 縛られたままのアシダダムがニヤけているぞ。
 
「刺し身対決後や、商人ギルド前でもやったな。
 ただ速いだけのモンスターかと思っていたが違うな。
 テメエだろう、サキュバットを全滅させたのは。
 なんでテメエみたいなのが、人間に化けてんだよ~」

 おかしい。
 わざとゆっくり喋っているな。

 2発目が来るッ!

 バッシィィィィッ!!
 
 読み通り、俺に狙いを定め稲妻が落ちた。
 プスプスとカーペットが焦げる。

「4人同時に動かして、なお見えない速度。
 隙がないな。お見事、お見事。パチパチパチ」

 魔法攻撃には違いない。
 だけど、デーモンと魔法使いが不在で魔法が起きるわけがないよ。
 考えられるのは……床下か?

 片足をスライム化させ、床の隙間から入り込み内部を視認すると。
 
 スライムド・デーモン  L∨ 19

 暗闇の中に、目玉焼きタイプのブヨブヨスライムが触手を床上に出し、3発目の呪文を練りこんでいたね。
 身体の一部が細長く伸びていて、その先を辿ると、庭園の植木をトリミング中の庭師の肩刺さっていたよ。

 速攻でアイテム収納庫に、庭師をぶち込んだよ。
 瞬間ホースが消え、床下のスライムド・デーモンも消えていた。
 飛び回って気絶させるより、収納庫に入れるのが手っ取り早いね。
 
 確か、この宿泊施設はアシダダムの資産と言っていたな。
 他にも魔法使いが忍んでいる可能性があるね。
 俺は超高速で全従業員と宿泊客のステータスを確認してまわったよ。

 ステータス内に『魔法力』か、『魔法スキル』のどちらかでもあれば、即収納庫に放り込んだね。 10秒で総チェック完了。
 魔法使いは全部で5名潜伏していましたよ。

 軍の魔法使い、正規で入国した魔法使いも入れちゃったかもしれないけど、いちいち質問して心の声を聞いて判断する余裕なんかないよ。

 後でアハートさんに頼んで、魔法登録者リストと照らすしかないね。
 もし間違って入れてたらどうしよう……。 

 収納庫の中は時が停止していて、入った人間の記憶自体がない。
 ここは問題ないんだけど、収納庫に放り込む俺の姿はバッチリ見られているからなあ。
 収納庫から出した時のプチタイムスリップをどう説明するか……。

 リトルに頼んで忘却魔法で忘れてもらうかな?
 たしか忘却魔法で消せる出来事は10分前までだったね。
 今なら間に合うけど……、
 
 まあ、収納庫から出して知らんぷりしちゃおうかな。
 とにかく俺は早くアハートさんの部屋に戻るべきだね。

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