上 下
97 / 182
2章

SSSスライム細胞

しおりを挟む

「信じて貰えないかもしれませんが、ビンソンはアハートさんを殺そうとしています……」

 迷ったけど伝えたよ。
 知らないのはとても危険だから。

「そっ……そ、そんな……、ありえませんっ!!」

 動揺を隠せない、アハートさん。
 
「ビンソン様は礼儀正しく紳士的な振る舞いをしておられ好印象でした」
 
 アハートさんの父親が家に招いたりするほどの人物で、アハートさんも手料理を振る舞ったと言う。
 ファーストくんを自衛軍の司令官にと強く国王に推薦したのもビンソンらしい。
 
「賄賂を受け取ったり、特定業者を優遇したり。
 いえ、もちろん公務を私欲に利用するのは悪い事ですが、
 ビンソン様は殺人依頼なんてするような人では……」

 紳士的な振る舞いねえ。
 
 たぶん、お父さんがキキン国王に支持されていたからだろうね。
 そうじゃなきゃ、俺の寿司屋で暴言を吐いたりしないよ。

「私はビンソン様を信じております!」

「分かります。
 人を疑うのは良くない事だと分かりますけど、
 現実にアハートさんの家は燃やされ、逮捕された犯人がビンソンに依頼されたと言っていましたから」

 「……、……人違いと言うことも……」

 うーん。
 けっこう頑固だなあ。

「いいですか、アハートさん! 
 あなたがなろうとしているのは、キキン国を動かす重要役人ですよ。
 信じる信じないじゃなく、少しでも危険と感じたら、全力で身を守らないといけない。
 公務を全(まっと)うするだけじゃなく、自分を守るのも公務ですから」

「……そ、そうですね」

 アハートさんが少し驚いたような顔をした後、恥ずかしそうに舌を出したよ。
 
「ヒジカタさんって、意外と立派なことおっしゃるんですね」

 あのねー。
 俺をどう思ってたったんだよー。
 
 ごめんなさいね、ふふふ、と口に手を添えて笑う。
 やがて、肩を落とし遠い目をして窓の外を見たよ。
 小さな身体が、やけに悲しそうに見える。

 そういや、アハートさんは家財道具全て失ったんだな。
 着るものも、お金だって焼けてない。
 これから何処に住むんだろう。
 家族もいないよ。
 ロアンくんの家だろうか。 

「あ、あの、よかったら、このパス使ってよ」

 近くにあったサルトリーフを体内に入れて加工した物だよ。

「ヒジカタ全店共通・年間バスポート?」

「そう!
 今度、キキンの表玄関に建つ店でも使えるよ。
 俺の店なら宿屋、寿司屋、魚屋、居酒屋、どこでも1年間無料。
 宿屋なら泊まり放題、寿司屋、居酒屋なら食い放題だね。
 さっそく今日から使えますよ」

「……凄すぎませんか?
 それに、……私の名前が、もう書いてますけど……」

「あー、知人だけに使ってもらう企画なんで」
 
「……、……ヒジカタさんて、ファーストが剣の作成を依頼したときもそうでしたわね。
 嫌な顔ひとつせず、難題を引き受けて下さった。
 ……お優しい。本当にお優しい方です」

 照れるなあ。
 
 アハートさんが擦り寄ってきたよ。
 目が潤んでるけど。  
 熱い瞳っていうの、これ。ちょっとおかしいよ。
 顔も火照ったみたいに赤いし、手を伸ばすんだけど。

「ごめんなさい。さっき叩いてしまって。
 痛かったでしょう……、紅くなって…………あれ?」

 俺のほっぺをペタペタ、にぎにぎ。

 あ~あ。
 完全に戻っちゃってるんだよね。
 不自然だなあ。

「実は、言わずに黙っておくつもりだったのですが。
 さきほど眠っていたとき、ヒジカタさんと1つになっていたような。
 くすぐったいような、気持ちいいような。
 不思議な夢を見ていました」

「そ、そ~なんだあ、へーっ!」

「人間は死ぬ間際に、走馬灯が見えると言います。
 全身火だるまの私だから、見たと受け止めていましたが。
 本当にヒジカタさんと、繋がっていたと、
 そうだったんだと今確信しました」

「えー、そんな、バカな。アハハハ、冗談キツイな」

「瀕死の私を一瞬で完治させる魔法なんて、聞いたことありませんし、
 決定的なのは、…………ほら!」

 アハートさんの指先が、俺のむき出しの腕に触れた瞬間、お互いの皮膚が、グミ状に変異して吸い付いたよ。
 引っ張ると――、

 ぷっつん!
 ぷにぷに、ぷっつん!

 ――と分離する。

 う~~ん。
 全身火傷のアハートさんを包んでイメージしたとき、俺の細胞でアハートさんの皮膚を生成しちゃってたんだなあ。
 今のアハートさんの皮膚は、いや皮下細胞もごっそり、SSSスライム細胞。
 だから、触れると共鳴するんだね。

「それに、何もしないでいて、この肌ツヤ……みずみずしさ。弾力も」

 ぷるんぷるんですね。

「……素敵」

 あ、喜ばれてる。
 よかったー。

「ヒジカタさんは魔法使いじゃないでしょう。
 私たちが知らないような、なにか特別の能力を持っていますね。
 剣の作成もそう。
 たった一日で新品以上の良剣に仕上げてしまう」

 リトルに忘却魔法をかけてもらってもダメだよね。 
 一時的に忘れても、結局アハートさんの皮膚は変わらないし。
 
「本当のことを、話して下さい。ヒジカタさん!」

「は……はあ」

 困っていると、突然、リトルから連絡が入ったよ。

『ご主人様~。放火犯人のフォールが、亡くなったそうですぅ~』

 なんだって!?


 さきほど、地下牢の見回り兵が倒れているフォールを発見。
 解錠し、容体を確認するまでもなく、心音と脈が無かったそうだ。
 
 死因は心臓発作。

 ビンソンの仕業か?
 依頼をしくじり、自分との繋がりが発覚するのを恐れて殺害?
 証拠を消したわけだ。

 魔法……。
 稲妻魔法だろうか。

 断定はできないけれど、とにかく第3庁舎にもビンソンの息がかかった者がいると考えるべきだろうね。
 次は絶対にアハートさんが狙われるぞ。

「アハートさん。
 不安かもしれないけれど、疑問はあとでちゃんと説明します」

「はい」

「ただ、これだけは間違いない。
 俺は、あなたの味方です!
 絶対に守りますから!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...