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2章
ロダン家
しおりを挟むなんだろうなあ~。
情報を得られないまま、フォールは地下牢に連行されてしまった。
神父さん曰く、深くなればなるほど、《魔縛の法術》をかけやすいそうだよ。
理想は洞窟だってさ。
付いて行きたかったけど、一般人は立ち入り禁止だって。
「申し訳ないです。この第3庁舎(警察署)の取り調べ室にヒジカタさんを入れたこと自体異例中の異例ですから」
とロアンくん。
「そうなんだ」
「ありがとうございます。アハートのことで、いろいろと……、
あの……、本当にアハートはヒジカタさんと何もないんですよね」
「あたり前ですって!」
◆
速攻で地下牢のフォールを連れだし、あれこれ自白させようかと思ったけどやめた。
代わりに、リトルデーモンをロアンくんの側に残すことにしたよ。
現世界(この世界)に1年在住するリトルは、俺からどんなに離れていても、会話可能。
しかも4次元空間を移動できるから、一瞬で呼び寄せられるんだよね。
『なにかあったら、直ぐ俺に連絡するんだぞ』
『はぁ~い♪ ご主人様』
ロアンくんにはリトルは見えないしね。
俺は魚屋店舗に戻ることにしたよ。
アハートさんが生きている以上、ビンソンに命を狙われるはず。
1階。
「まだ、寝てると思うわアハートさん」
「そうですか、ありがとうございました」
店主の奥さんにお礼を言い、寿司店舗のお茶を持って3階に向かったよ。
ノックすると、ソプラノの声で返事があった。
アハートさんは俺の布団に横になっていたよ。
流石に素っ裸じゃないぞ。あたり前だけど。
涼しげなアクアブルーのワンピースのスカート丈から、真っ白い脚が伸びているよ。
「ありがとうございます、ヒジカタさん……」
起き上がり、じっと俺を見つめるアハートさん。
顔色は良い。ちょっと眠そう。
さっきまで瀕死の状態だったんだ。完璧じゃないよね。
俺の渡したお茶を飲んでくれた。
どうやって助けたのか訊ねないよ。
店主や奥さんに常々、『俺、最近、魔法が使えるようになったんだよね~』と言っていたから、奥さんが『ヒジカタさんの魔法じゃない』とアハートさんの疑問を解決したのかもしれないね。
「あの……言い難いのですが」
俺はゆっくりと、アハートさんの家が全焼したと告げたよ。
大事なことだもんね。
犯人の魔法使いは捕まり、ロアンくんが地下牢に入れたことも。
「そうですか……」
悲しそうに俯き、薬指にはめられた光る銀の指輪に触れる。
ロダン家の家紋入り指輪。
焼けてしまい、遺品と言える物は、指輪くらいなのだろう。
俺は話しを続けたよ。
ゆっくりしていられないから。
「最近、ビンソンに恨みを買う事がありましたか?」
「ビンソン? 関税とギルドを取り締まるビンソン様ですか」
「はい」
何かあるはず。
「……いえ……」
そうか……。普通はそうだろう。
貴族でもないロダン家の長女を殺しても、ビンソンは何も得しないから。
そもそも、接点があるのかな、2人は。
「あ、もしかして……私が立候補したことかしら」
「立候補?」
「はい。先日、キキン国王と面会することがあり、直接、父の役職にと」
亡くなったアハートさんの父親のことだね。
「父は、生前キキン王から絶大な支持を得ていて、自衛軍でありながら、区画整理、関税、商人ギルドを取り締まる役人に抜擢されていました」
「現在ビンソンがやっている仕事か」
「はい。父が亡くなり、急遽ビンソン様が一時的に後任されましたが」
「……が?」
「あ、いえ……」
「ビンソンの評判が悪いって、言おうとしたんだね」
「ご存知なのですか?」
「そりゃ、まあ、有名だからね」
関税ちょろまかしたり、商人ギルド長のアシダダムと結託し価格操作など、私腹を肥やしまくり。
政治に疎い1階店主ですら知ってんだもん。
「ビンソン様は悪い方ではありません。賄賂は役人なら大なり小なり受け取っています」
まあ、日本の政治家もそうだろうし。
「私は……私は父の意思を継ぎたい!」
「……お父さんの職務を、つまり役人になりたいわけだ」
下っ端役人じゃなく、ビンソンレベル。
政治に参加するキキン国の重要役人にだね。
すごいな。
外区の周囲を、内区と同じ強度の壁で囲う計画の提案者は、アハートさんの父親だと言う。
そうだったんだ。
素晴らしいアイデアだと思うよ、お父さん。
だけど、よく聞いたらスケールでかいね。
外区の密集街から遠く離れた、麻、亜麻、小麦、とうもろこしなどの農地。
牛、馬、羊などの酪地。
それらを含めた広大な半径20キロくらいの土地を、全部囲っちゃう構想だもん。
莫大なお金と人、時間が必要だね。
やりがいのある仕事だと思うけど。
「キキン外区壁建設計画は遅々と進んでいません」
まあ、そうだろうね。
ビンソン仕事しそうにないもん。
「私には荷が重いかもしれませんが、父の秘書を3年しており、父の仕事は熟知しているつもりです」
分かってきたぞ、ビンソンの考えが。
今のおいしい役職をアハートさんに奪われそうだから、火災事故に見せかけ消そうとした。
アハートさんが死ねば、自分の職位は安泰だもんな。
しかも、この世界の魔法使いは最高の暗殺者だし。
無詠唱で、ただ突っ立っているだけ。
デーモン眼を持たない限り、誰が魔法使いか分からないからな。
「生前の父の口癖は、『公務は民のためにある』でした」
「おお!」
ビンソンやアシダダムと大違いだね。
キキン王も見抜いていたから、生前のお父さんを重要ポストに置いたわけだ。
となると、キキン王も少なからず、今の体質――代々、闇ギイン家に公務の一部を任せる――、を嫌ってのことかな。
自衛軍でも有能な者なら、公務に抜擢する。
キキンの古い仕組みを変えたがっていると見たね。
「で、どうなの? 国王さんも、アハートさんにやらせたい感じ?」
「はい。色よい返事を頂きました。
来月でビンソン様が赴任1年となり、切りが良いから、そこから私にやってみろと」
「すこい! すごい! おめでとう」
「10日後におおやけに正式発表して、そのまま職務につきます」
そうか!
良い国になるぞ、キキンは。
問題はビンソンだな。
黙っているはずないね。
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