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2章
第3庁舎
しおりを挟む名衛軍第3部隊所属のロアンくんは、日本で言う警察官だよ。
懐から取り出した白いお札を、犯人の背中に貼り付ける。
そしたら、すうっと染み込んでゆき消えたよ。
「ロアンくん……。その、お札は?」
「禁魔札。24時間魔法を無効にする効果があります」
なるほど、デーモン封じだね。
いくらロアンくんが強くても、デーモンの姿は見えないから厄介だよ。
◆
キキン内区、第3庁舎。(日本の警察署にあたるよ)
2階の取調室。
男は、キャメロ・ドド。
火と稲妻のデーモンしか使えない魔法使いと言ったよ。
半年前。
高収入の仕事にありつこうと、景気が良いキキン国に来たが、炭鉱夫、農夫など、低賃金でキツイ職業しかない。
「やってられるかッ!」
どれの仕事も1~2ヶ月で終わりのパターンね。
定職もつかずにブラブラしてたら、金が底をついたんだ。
「昨夜、やたらイイ女を見つけ、犯そうとしたんだが――」
返り討ちにされたそうだ。
キキン国の自衛軍は、女性の数が圧倒的に少ないよ。
凶暴モンスターの討伐や、暴漢の取り締まり、内外区のハードな治安維持は体力的に女性は向かず、女性自衛官のほとんどが事務職か、男性自衛官の補佐役だね。
だけど、アハートさんのステータス値は、平均的な男性自衛官の数値を軽く上回っていて、特に剣技はロアンくんとほぼ同格。
ビンタにいたっては、3発食らった俺だから分かるけど、一般人だったら脳震盪を起こすレベルだよ。
魔法に頼りきっている男がレイプしようだなんて。
睡眠薬でも飲まさない限り無理だろうね。
「で、仕返しに放火か……」
「いい気味だ。焼け死んだぜ、あの女」
ロアンくんが固くにぎった拳を震わせているよ。
今にも殴りかかりそう。
「魔法使いが罪を犯した場合、刑の重さが通常人の2倍だ。
貴様は放火と殺人の罪。
《魔縛の法術》と《呪縛の法術》をかけられ、生涯キキン国に尽す事になる」
《魔縛の法術》
自分の意思でデーモンの召喚、命令ができない。
魔縛旗を持つ第三者の指示で、デーモンの召喚、命令可。
効果期間は生涯。
「さまざまな魔法が存在しますからね。
魔法使いを牢屋に入れても逃げられたり、見張り兵が殺されるかもしれない」
さまざまな魔法か……。
ステータスを確認してみる。
―――――――――――――――――――
人間 フォール・ベベ 28歳 LV 2
生命力 25/28
魔法力 98/154
攻撃力 16
素早さ 18
知能 26
運 6
『火魔法』LV 3
『水魔法』LV 2
『雷魔法』LV 5
『補助魔法』LV 5
―――――――――――――――――――
なんだよ。
『キャメロ・ドド』は偽名だし、魔法もけっこう使えるじゃないか。
信用ならないなコイツ。
誰にも分からないよう触手を床に這わせ、魔法使いの脚に接触したよ。
心の声を聞かせてもらおうかな。
『馬鹿め。
俺様が低賃金で働くわけないだろ、ロアンちゃん。
魔法使いは、それだけで引っ張りだこよ。
まあ、おおやけに明かすつもりはないがな』
魔法使いが召喚するデーモンは、灼熱の炎を出したり、一軒家を水没させたり、多種多様な能力は、仕事に応用出来そうだもんね。
20万人都市キキン国に20名しかいないそうだし、貴重な能力だよ。
確かに、引っ張りだこかもしれない。
ノックされ、取り調べ室のドアが開いたよ。
『お? 神父を呼んだな。
ふん。さっそく《魔縛の法術》か。
好きにしろよ。
俺は、ビンソンさまの依頼どおり、アハート・ロダンを殺害したんだ。
ほとぼりが冷めたら、ビンソンさまが俺を釈放して、法術も解いてくれるぜ。ばーか!』
ビンソン?
グルメグランプリ最終審査員10名に入っていた、ひょうたん顔のビンソンか。
『飲水に睡眠薬を混ぜアハートを眠らせ、家屋ごと魔法で焼却。
誰にも分からないハズだったのに、このおっさんがデーモン眼なんぞ持ちやがって……』
『おい!』
『……? あれ、声が……』
『おい! ビンソン・ギインの依頼ってなんだよ。
どうしてアハートさんがビンソンに狙われなきゃいけないんだ?』
キキン国王の側近だぞ。
『お、……おまえ、俺の心に入れるのか……』
『悪いな、ノックもなしに。
で、話しだが、
キキンの重要役人ビンソンが、なんでアハートさんを殺そうとする?
理由が知りたい』
『参ったな……、すげえんだ、お前……』
本名フォール・ベベが、ニヤッと笑った後、瞼が閉じられ、テーブルに崩れた。
「お、おいっ! どうした?!」
ピクリともしない。
ロアンくんが抱き起こすと、フォールの口端から血が流れた。
「舌を噛み切りやがったッ!」
自殺した?
なんで。
それだけ重要だからか。
ビンソンの地位が揺らぐレベルだってことか。
死んでまで隠そうとする理由が知りたい――。
試してみるか……。
神父さん、ロアンくんに見られるけど。
俺は右手をスライムに戻し、フォールの真っ赤な口に入れたよ。
切れた舌を包み込んでから、アハートさんと同じように、強く舌の形状をイメージ。
すると、ジュクジュクと再生してゆく。
「ヒ、ヒジカタさん……?!」
「な、なんと。お、恐ろしいッ。……祓いたまえッ!」
2人に正体がバレちゃったね。
3分後。
蘇る放火犯。頬を引くつかせてるよ。
『勝手に死なれちゃ困るなあ。訊きたいことが山程あるんだよね』
『お、お前……なに者だ……?』
『いろいろ出来ちゃう魚屋さんだね』
『……化け物めっ!』
ロアンくんと神父さんも眼が点だね。
『あのう……お困りですか、ご主人様?
よろしかったらですけどぉー、リトルは忘却魔法もできちゃいますけどー』
リトルが俺の頭にちょこんと立ったよ。
10分前までの出来事なら、忘れさせる事ができるらしい。
『そうなんだ! じゃ、さっそく、ロアンくんと神父さんだけ頼むよ』
『えっへん! まかせてね~』
リトルがごにょごにょ呪文を唱えて1分後。
『はぁ~い! おまたせぇ~、ぱんぱかぱーん♪』
よしよし。
うまく忘れてくれたみたい。
『さて、詳しく話しを聞かせてもらおうか、フォールよ』
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