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2章
火花 その2
しおりを挟むさっそく燃え盛る炎の境目を確認。
1メーター隣の宿屋に燃え移りそうなのに、見えない壁でもあるのかな、炎は渦巻くだけで上昇していた。
だから、隣はそのまんま。壁に焦げもない。
まるでロアイドさんの時のよう。
「ヒ、ヒジカタさん……さっきまで、いましたよね?」
あ……、いたんだ、ロアンくん。
さっきの俺の動きは見えてないよね。
人間の動体視力じゃ捉えられないはずだけど。
「やあ、えっと……、今忙しくて、詳しいことは後で話すから。
それより俺の部屋にアハートさんがいるから、寄ってみてよ」
「え?」
ロアンくんが眼を見開いて硬直したよ。
「……ヒジカタさんの……部屋に、どうして、アハートが」
ムッとしてるよ。
あ~、言い方がまずかったね。
誤解されても仕方がない。
えーと、そうだなあ、
真実は言えないし、そういや、部屋に残したアハートさんにも、どう説明すればいいだろう。
後先考えず、助けちゃったから困ったぞ。
「昨夜からアハートは、ずっと……ヒジカタさんと……、いやまさか、……そ、そんな……」
「いやいやいや」
俺がアハートさんを寝取ったみたいに思われてるぞ。
違うから!
「ちっ、ちゃんと説明してくださいッ!」
う~~~~ん。
「と、とにかく、落ち着いて! ね。ね。ね。
アハートさんは無事。そこは間違いないから。
俺とアハートさんは、ロアンくんが思っているような関係じゃないから。
ここも間違いないから、絶対!」
正しい状況だけ述べて、ロアンくんをなんとか落ち着かせようとしていると、
大勢の野次馬に混じり――、ひとりの男の肩だ。
俺の目が向いた。
なぜなら、その肩にちょこんと立ち、ストローホークをかざしている20センチほどの悪魔を発見したから。
あれって……。
間違いない!!
『おーい! リトルちゃんじゃないか』
触ってないけど、心話してみた。
『あ、あれ~~っ? お強いご主人様ぁ。み、見えるんですかリトルのこと?』
心の中で言葉を強く念じただけなんだけど、簡単に通じたね。
『なにやってるの』
『なにって……、お仕事ですよぉ~。稼がないと暮らしていけなくて』
『仕事かー、デーモンの世界も大変なんだなー』
でも仕事って、まさか……。
『アレ燃やしてんのリトルちゃん?』
『火の呪文でぇ~す! リトルは火も操れますよぉ。えっへん!』
『えっへん、じゃないからっ!! 早く消して!』
『お仕事なので、できません』
お仕事?
そうか。
ワンピース姿の男か、ヤツが魔法使い……。
リトルを召喚し、アハートさんの家を燃やした犯人。
漫画とかアニメの魔法使いは、ローブにつばの広い帽子、水晶を埋め込んだ杖を持ち、カッコいい呪文を唱えたりするけど。
この世界の魔法使いは一般人と変わらない。
『じゃあ、俺も仕事として依頼する。鎮火してよ!
鎮火料払うから。生命力1000でどう? 2000でもいいけど』
かけがえのないアハートさんの家だよ。
亡くなった父親、弟妹との思い出の詰まった――。
『え……え? ち、ちんか料2000!』
主がぎろっと怖い顔でリトルちゃんを睨んだよ。
2人がモゴモゴ言い合ってるね。
デーモンと雇い主の会話は誰にも聞こえない。
『ごめんなさい。やっぱり、一度引き受けた仕事は放っとけないの。
流石にデーモン道に反するからね。
リトルだってれっきとしたデーモンだもん、どんな好条件でも、キッパリ断ります!』
『責任感が強いと言いたいわけね』
『そう! それそれ!』
『じゃあ、その責任感を買わせて欲しい。
リトルちゃんの責任感……、そうだな。
2千とか言った俺が馬鹿だったよ、10万では?
――生命力10万だ』
『じゅうまん??』
『どうかな』
『ちょ、ちょっと待って、考えるから』
考えるんだ。
一度引き受けたとはいえ、生命力10万は魅力的だったみたい。
うーんーうーん、唸っているぞ。
『わかった、困らせた俺が悪かったよ』
『いえ、そんな』
『だから、10万ではなく、100万にする。
どう、100万では?』
『ひっ、ひゃく……!?』
『そうだ!
前に進めていた、一年契約もしてもいいぞ!』
リトルちゃんは、ブスッ! と矢印型のしっぽを引っこ抜き、ぴょんと跳ねて俺の肩に着地したよ。
『おまたせぇ~ご主人様。ずっと一緒だよ』
すりすり、むぎゅ~。
ちゅぱちゅぱちゅぱ。
変わり身早っ!
分かりやすい。
魔法使いの男が、驚いた顔して周囲を見回したよ。
リトルが無断で召喚切断したから、リトルの姿が見えなくなったんだ。
『ではさっそく、依頼するよ、あの家の火事を消して』
『あ、はい!』
リトルが呪文を唱えると、地面から水が湧き出し、水槽に水が溜まるように、アハートさんの家だけを水没させたよ。
やがて少しづつ水位が下がり2分後、完全鎮火。
黒く焼け焦げた地面。家の骨組みだけを残し、全焼していた。
身の危険を感じたのだろうか、魔法使いの男が、そそくさと人混みに消えてゆく。
逃がさないぞ犯人。
びゅん!
一瞬で男の真正面に移動したよ。
「ひっ! ひいいいいいいいいっっ!!!」
男が尻もちをついた。ビックリしてるね。
リトルが遅れて飛んでくる。
「さあ~、話してもらおうか……放火魔」
かがみ込み、目線を合わせて睨む。
「おお、お前、どうやって……?」
「どうでもいいだろう。それより、なんで燃やした。何が狙いだ?」
「見てたのか、お前?」
「ああ、全部な」
「ヒジカタさん?! あの、いま、ど、どうやって、そこ行ったんですっ!」
ロアンくんが駆け寄ってきたよ。
野次馬たちも、驚いてるね。
短い距離だけど、動いている俺の姿が見えないから不思議がって当然。
どう誤魔化そう。
「……魔法。魔法だよ」
なんでも魔法のせいね。
「移動魔法ってあったっけ?」
「補助系だろ」
「聞いたこと無いなー」
「ヒジカタさん、魔法が使えたんですか?」
「そう、最近、開眼してね」
「……、……」
信じてないなあ、その目は。
まあ、そうだろうね。
20万人都市のキキン国でも、魔法使いはたったの20人しかいないからね。
「じゃあ、見ててね」
納得してもらうしかない。
5メーターほど高速移動してみせたよ。
「おおお! すごい、ヒジカタさんっ!」
野次馬たちから拍手が上がる。
俺が消えて、5メーター先に現れたように見えたからね。
『かっこいいー、ご主人様ぁ♪』
ちなみにリトルちゃんも手を叩いてるよ。
「知らなかった。後天的に備わることもあるのか、魔法は」
野次馬たちが、ブツブツ言っていたけど、ロアンくんも含めて納得したみたい。
「それより、この男が魔法で放火したんだ」
「「「なにっ!」」」
「火魔法で放火だと?!」
「こいつも魔法使い?」
「ち、違うぜ。濡れ衣だ! バカ野郎っ」
「しらを切るわけね」
「しらじゃねえ! 俺は火事を見に来ただけだッ」
確かに、普通の人は『ステータス確認』スキルを持たないから、魔法使いかどうか判別できない。
なら、無理やり自白させるか。
「少しだけ、放火魔を借りるよ」
「放せ、クソ野郎がっ!!」
暴れる魔法使いの首根っこを掴んで引きずってゆく。
魔法使いが俺の腕を掻きむしったり、噛んだり、殴ったりしてくるが、ダメージゼロ。
逆に痛いんじゃないかな、殴った拳をさすってるけど。
「化けもんか、お前?!」
「ただの魚屋さんだけど」
「……くそっ! 吠え面かくなよ……」
男が口を吊りあげた。
すると、突然、空間に黒い亀裂が入った。
その隙間から放電光が走り、漆黒の渦巻きが出現したよ。
渦巻きには、身長50センチ、2本の角を生やした青黒いゾンビがニヤニヤしながら出てきたぞ。
『……ア……アンデット・デーモン!』
リトルちゃんが固まっちゃってる。
『アンデット・デーモンですよ、ご主人様っ!!
この人、アンデット・デーモンも召喚できるんだ……凄い!!』
『強いデーモンなの?』
『私なんかより数段上の悪魔です。
膨大な生命力を消費するので、人間で召喚できる人はそういません……き、危険です、ご主人様……』
デーモンが魔法使い男と会話し、やがて、男の肩にしっぽを突き刺し、両手を俺にかざしたよ。
殺る気みたい。
『手強いわけね』
『早く逃げたほうが良いですぅ』
ロアンくんが驚かないね。
俺にしか見えてないのか。
いちおうステータス確認。
アンデット・デーモン L∨ 8
魔法
火 15
水 11
風 21
稲妻 110
地震 1
補助 28
『ふ~ん、リトルちゃんより強いね』
『だから言ったじゃないですか!
……あ、でも、リトルも精いっぱいがんばりますよ』
『ほお……、そこのおっさん、このワシが見えるのか?』
『まあね』
『デーモン眼か。
せっかくレアスキルを持っておるのに、ウケケケッ! もうすぐ死ぬとは』
『そうなんだ』
『ウケケケッ! 後悔するのじゃな。
ワシのサンダー・トルネードを耐える人間は、いっなぁ~~~~いっ!』
『へー』
『ご主人様ぁ、早く逃げましょう』(ヒソヒソ)
『一瞬で終わらせてやる。ウケケケッ!』
一瞬か。
『あ、ちょっと付き合ってね』
『……?』
俺は魔法使いの身体を小脇に抱えて、横道に入った。
人の目はない。チャンスだね。
『ジャンプ!』
『えっ』
ギュ――――――ンッ!!
「ひえええええええええええええええっ!」
「ウワアアアアアアアアアアアアアアッ!」
5分ほど、空の散歩に付き合ってもらったよ。
着陸したら、魔法使いは立ってられないみたい。
目玉をグルグル回し、あらあら、胃液を吐いちゃった。
あれ、アンデット・デーモンは?
男の肩にデーモンの切れたしっぽだけが刺さってて、悪魔本体がないんだが。
『おーい! おーい!』
返事がない。どこ行ったんだろう。
まあ、いいか。
『ご主人様ッ! なんですか今のッ?!』
遠くから、手のひらサイズの悪魔が両足をバタバタさせて飛んできたよ。
『よかった、リトルちゃんは無事だね』
『はい。リトルは1年契約なので、しっぽ接続いりません。
ご主人様たちだけ空を飛んで、リトルは置いてけぼりです』
『ごめんね、一緒に飛びたかった?』
『いえいえ、気絶しちゃいますよー。
そうでなくても、見ているだけでびっくりして、ちょっとオシッコちびったけど』
『へー』
ぐったりしていた魔法使いが目をさました。
俺を見て、ひえええええっ! と慄いたよ。
「さーあ。正直に言え。
なんで、アハート・ロダンの家を燃やした?!」
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