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2章
月光
しおりを挟む「すーすーすー」
ね……、寝れないんだけど。
真夜中。
オレンジ色の月光が差し込む寿司店舗の板床には、長い黒髪を乱したヒトミさんが丸まって寝ているよ。
宿屋まで送ると言ったんだけど、どうしても店舗に泊まるって言ってね。
やっぱり、上位使途のケイジがいるからかな。
あいつ、ヒトミさんを狙っているみたいだし。
ヒトミさんだって、あいつを毛嫌いしているはずだし。
いけない、いけない。
実際にケイジがヒトミさんに悪さをしてわけじゃないんだし。
やったら、ケイジを大気圏外にぶっ飛ばしてやるけどね。
それに、ケイジが恋心を抱いた相手が、ヒトミさんだからって、俺がとやかく言いって良いのか?
あーもう、分からなくなってきたよ。
もやもやするなあ。
とにかく、俺はヒトミさんから数センチ離れて丸まって寝ているよ。
どうして数センチなんだって?
もっと距離をとって寝ないのかって?
はい。
俺だけ3階で寝てもいいんだけど、やっぱりヒトミさんひとりで寝てもらうのは寂しいかなって。
あ、変な意味じゃないよ。
ヒトミさんに『ぜひ、隣で寝てください、お願います』と言われたしね。
それに、ヒトミさんに背中のシャツを掴まれているから――、とは言い訳で、側にいたいからだね。
もちろんイヤらしいことはしないよ。
俺を信頼しているヒトミさんを裏切るわけにはいかないし。
てか、ヒトミさんは神眼で俺を見通しているからだろうね。
もう、ほんとに、俺だって男の性欲はあるんだぞって。
オオカミに成ったらどうするって言うんだよ。
可愛い唇だなあ。
チューくらいなら、寝てるし、してもいいかな? どうかな?
「や、やめて……。もう殴らないで……」
びっ……びっくりした。
寝言だよ。
可哀想に、老婆時代の夢だろう。
何年も受けた暴行の記憶は、そう簡単に拭えない。
頬を流れた。
まぶたに残るしずくを指で拭う。
「ありがとう……ヒジカタさん……だい、すき……」
夢に俺が登場してヒトミさんを助けたのかな?
「……子供は3人欲しいね」
夢のシーンが変わったみたい。
子供か――。
俺のかな。
いけない、いけない。
夢なら、いくらでも広がる。
だけど、所詮、俺はスライム。
人間の姿をしているけれど、スライムなんだもん。
ヒトミさんは人間で、俺たちの間に子供なんか出来るわけないよね。
変形はできても、スライムの構造(DNA)だけは変わらない。
変えようがないんだよね。
俺の目の前、窓から差し込んだ仄かな月明かりに包まれているヒトミさん。
月みたいに綺麗で、神々しくて、
だけど、彼女は現実の月と同じで、
どんに俺が触手を伸ばしても、ジャンプしても、決して辿りつけない。
つけるわけないんだよね。
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