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2章

ヴァーチェ国

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 魚屋店舗3階、俺の部屋。

 俺がスライムだと知っていても、人間の身体がゼリー状のスライムになってゆくさまは、見るに耐えないだろうね。
 そう思い、ヒトミさんには後ろを向いてもらうよう言ったんだけど。

「ぜひ、見せてください。いえ、見ていたいんです。
 どんな事が起きようとも、大丈夫ですから、私」

「うーん。そうなんだ……」

「信じてください、ヒジカタさん」

 お祈りするみたいに両手を組んで、大きな瞳でじっと見上げてくるヒトミさんの美しさに、クラッとしたね。
 
「わ、わかったよ」

 ほんとに大丈夫かな~? 
 不安だったけど、思い切って変身解除して本来のスライムに戻ったよ。
 ヒトミさんは、驚いたみたいに、大きな目を、もっと大きく見開いた。
 だけど、少しして、顔がほころんで。
 
「……かわいい」 

 とつぶやき、人差し指で俺の身体をぷにぷに、ツンツンしてくれた。
 ちょっと、くすぐったいな。

「じゃ変形するね」

「はい。がんばってください」

 出来たよ。
 アダムスキー型のUFOをイメージしてもらうと嬉しいね。
 さっそくヒトミさん乗ってもらい、フタを閉める。
 俺の速度で空を飛べば、数秒でヴァーチェ国に到着するだろうけど、人間のヒトミさんに耐えれるわけがないよね。
 
 ゆっくりで飛んでみようかな。
 出来るだろうか。




 30分後。
 
 到着しましたよ、ジャンボ機だと8時間はかかるヴァーチェ国に。
 
 早すぎるだろうって?
 はい。
 
 当初は予定どおりヒトミさんを乗せて飛んでいたんだけど、風圧と気圧、それからG(重力加速度)がかかって気絶しちゃいました。
 まあ、そうだろうねえ。
 
「困ったな~、まさかアイテム収納庫に入るわけにもいかないし」

「……アイテム収納庫?
 なんでしょうそれ、私が入れるのですか?」

「ええまあ、でも」

 アイテム収納庫がどんな物なのかを説明したよ。
 実物を見せて欲しいというので、展開してみた。

「大丈夫ですよ、私、怖くありません」

 にこっと微笑んで、
 ヒトミさん、強引にアイテム収納庫に入っちゃいました。

 確かに、人間が入っても問題はない。
 だけど、あの暗黒渦巻く投入口を見て、よく入る勇気がおきたよね。
 SSたちでもビビッて入らないというのに、流石です。

 収納庫の中は時が停止した世界。
 入ったヒトミさんには、俺が超スピードで飛行しても分からない。
 ヴァーチェ国に到着して、ヒトミさんを収納庫から出した。

「え、もう到着したのですか?」

「そうですよ」

 俺が冗談を言っていると思ったんだろうね。
 だけど、キキン国の民と違う風景に、ヒトミさんは驚きを隠せない。
 
「す、素敵です、ヒジカタさんっ!!」

「いやあ、そうかなあ」

「本当に、このような事ができるなんて。
 ヒジカタさん以外だれもいません、絶対!」

 なんだか、興奮しているよ。

「いやでも、ヒトミさんも凄いよ。
 堂々と、このアイテム収納庫に入ったんだもん」

「ヒジカタさんが困っていらしたので、
 それに私が入ったら、喜んでくれるかなと」

 ちょっと赤くなっちゃったヒトミさんも可愛い。

「なにより、ヒジカタさんが安全だとおっしゃったので、迷いはありません」

 俺を信じてくれたんだよ。
 申し訳ない。頭がさがる思いです。

「じゃあ、今度は、ヴァーチェ国を散策するから。
 収納庫じゃなく、俺の背に乗ってもらおうかな」

 世界地図だと小さいヴァーチェ国だけど、実際は広大だ。
 日本と同じだね。
 だから景色を見てもらいながら、移動する必要がある。

「はいっ!」

 凄く元気に、嬉しそうに返事をしてくれたよ。
 
 ヒトミさんが乗りやすいように、座り心地が良いように、俺自身の背中にくぼみを付けてと。
 安全ベルトも必要だね。
 
「失礼します」

「ど、どうぞ」

 俺の背に腰を落としたヒトミさん。
 温かい体温とか、血流の動きとか、そんなのが感じとれて、ちょっとドキドキするんだけど。
 不謹慎かな俺?

「スロー飛行しますね」

「お願いします」

 びゅーん!

「風が気持ちいいです」

「よかった」

「こんな世界があるなんて」

 ヒトミさんが瞳をきらきらさせ、景色に釘付けになっちゃった。





 大きな街を発見したよ。
 ヒトミさんの知らない街らしいけど、降りてみようかな。  

 瓦や板屋根の家。蔵もあり、長屋や家々が連なり、3階建の家屋もあるね。
 川のほとりには柳の木と、あっちは桜かな。
 日本でお馴染みの屋台もある。栄えてるなあ。 
 流石にちょんまげの人はいないけど、まるで江戸時代末期の町並みみたい。

「ヒジカタさん! あそこならたぶん!」

 店裏の蔵から俵を出してるね。米を升で計っているぞ。お米屋さんみたい。

「了解~」

 無事着地。
 入店したら、おにぎりを売っていたので買って食べましたよ。

「こっ……これ、ジャポニカ種だ!」

 モチモチして甘味がある。

 精米した10キロ入りの麻袋が、2000ギル(日本円で約2千円)で販売していたよ。
 破格の安さだね。本日限りらしいよ。
 お金がギルだし、ラッキーだね。

「ヒジカタさん……他の店をあたりましよう」(ヒソヒソ)

 ヒトミさんは不満みたい。

「混ぜてます、古米を。下の方は黒ずんでいました」(ヒソヒソ)

 だからヒトミさんは、袋を開けて中を見ていたんだな。
 一気に大人買いしなくてよかったよ。

「おにぎりは新米で握ったようです。それに、ここの米は相場より高値のよう」(ヒソヒソ)

 神眼で店員の心を読んだみたい。 
 ヒトミさん凄い! 
 無敵です。

「やだわ、無敵はヒジカタさんです」(ヒソヒソ)

 おっと、心を読まれてるよ。

「あ……ごめんなさい……」

 いや、そういう意味じゃないよ。
 気にしないで~。

「私……、意識しないと心は見えません。
 でも、ヒジカタさんだけは……いつも……、ご、ごめんなさい……」

 真白い顔がほんのり朱に染まる。
 かわいい……。

「……」

 ますます真っ赤になってゆくヒトミさんと、店を出て江戸みたいな町並みを歩いていると、蕎麦そばの屋台を見つけたよ。
 閃いたので、さっそく注文してみる。
 
 蕎麦の添え物――。

 このツーンとくる清涼な辛味。
 うん。予想どおりワサビだったよ。

「やったー!」

「はい」
 
 ワサビの入手先の地図まで書いてくれた店主にお礼で2000ギル渡し、山村だったのでヒトミさんを乗せて飛ぶ。
 

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