81 / 182
2章
ヴァーチェ国
しおりを挟む魚屋店舗3階、俺の部屋。
俺がスライムだと知っていても、人間の身体がゼリー状のスライムになってゆくさまは、見るに耐えないだろうね。
そう思い、ヒトミさんには後ろを向いてもらうよう言ったんだけど。
「ぜひ、見せてください。いえ、見ていたいんです。
どんな事が起きようとも、大丈夫ですから、私」
「うーん。そうなんだ……」
「信じてください、ヒジカタさん」
お祈りするみたいに両手を組んで、大きな瞳でじっと見上げてくるヒトミさんの美しさに、クラッとしたね。
「わ、わかったよ」
ほんとに大丈夫かな~?
不安だったけど、思い切って変身解除して本来のスライムに戻ったよ。
ヒトミさんは、驚いたみたいに、大きな目を、もっと大きく見開いた。
だけど、少しして、顔がほころんで。
「……かわいい」
とつぶやき、人差し指で俺の身体をぷにぷに、ツンツンしてくれた。
ちょっと、くすぐったいな。
「じゃ変形するね」
「はい。がんばってください」
出来たよ。
アダムスキー型のUFOをイメージしてもらうと嬉しいね。
さっそくヒトミさん乗ってもらい、フタを閉める。
俺の速度で空を飛べば、数秒でヴァーチェ国に到着するだろうけど、人間のヒトミさんに耐えれるわけがないよね。
ゆっくりで飛んでみようかな。
出来るだろうか。
30分後。
到着しましたよ、ジャンボ機だと8時間はかかるヴァーチェ国に。
早すぎるだろうって?
はい。
当初は予定どおりヒトミさんを乗せて飛んでいたんだけど、風圧と気圧、それからG(重力加速度)がかかって気絶しちゃいました。
まあ、そうだろうねえ。
「困ったな~、まさかアイテム収納庫に入るわけにもいかないし」
「……アイテム収納庫?
なんでしょうそれ、私が入れるのですか?」
「ええまあ、でも」
アイテム収納庫がどんな物なのかを説明したよ。
実物を見せて欲しいというので、展開してみた。
「大丈夫ですよ、私、怖くありません」
にこっと微笑んで、
ヒトミさん、強引にアイテム収納庫に入っちゃいました。
確かに、人間が入っても問題はない。
だけど、あの暗黒渦巻く投入口を見て、よく入る勇気がおきたよね。
SSたちでもビビッて入らないというのに、流石です。
収納庫の中は時が停止した世界。
入ったヒトミさんには、俺が超スピードで飛行しても分からない。
ヴァーチェ国に到着して、ヒトミさんを収納庫から出した。
「え、もう到着したのですか?」
「そうですよ」
俺が冗談を言っていると思ったんだろうね。
だけど、キキン国の民と違う風景に、ヒトミさんは驚きを隠せない。
「す、素敵です、ヒジカタさんっ!!」
「いやあ、そうかなあ」
「本当に、このような事ができるなんて。
ヒジカタさん以外だれもいません、絶対!」
なんだか、興奮しているよ。
「いやでも、ヒトミさんも凄いよ。
堂々と、このアイテム収納庫に入ったんだもん」
「ヒジカタさんが困っていらしたので、
それに私が入ったら、喜んでくれるかなと」
ちょっと赤くなっちゃったヒトミさんも可愛い。
「なにより、ヒジカタさんが安全だとおっしゃったので、迷いはありません」
俺を信じてくれたんだよ。
申し訳ない。頭がさがる思いです。
「じゃあ、今度は、ヴァーチェ国を散策するから。
収納庫じゃなく、俺の背に乗ってもらおうかな」
世界地図だと小さいヴァーチェ国だけど、実際は広大だ。
日本と同じだね。
だから景色を見てもらいながら、移動する必要がある。
「はいっ!」
凄く元気に、嬉しそうに返事をしてくれたよ。
ヒトミさんが乗りやすいように、座り心地が良いように、俺自身の背中にくぼみを付けてと。
安全ベルトも必要だね。
「失礼します」
「ど、どうぞ」
俺の背に腰を落としたヒトミさん。
温かい体温とか、血流の動きとか、そんなのが感じとれて、ちょっとドキドキするんだけど。
不謹慎かな俺?
「スロー飛行しますね」
「お願いします」
びゅーん!
「風が気持ちいいです」
「よかった」
「こんな世界があるなんて」
ヒトミさんが瞳をきらきらさせ、景色に釘付けになっちゃった。
大きな街を発見したよ。
ヒトミさんの知らない街らしいけど、降りてみようかな。
瓦や板屋根の家。蔵もあり、長屋や家々が連なり、3階建の家屋もあるね。
川の辺りには柳の木と、あっちは桜かな。
日本でお馴染みの屋台もある。栄えてるなあ。
流石にちょんまげの人はいないけど、まるで江戸時代末期の町並みみたい。
「ヒジカタさん! あそこならたぶん!」
店裏の蔵から俵を出してるね。米を升で計っているぞ。お米屋さんみたい。
「了解~」
無事着地。
入店したら、おにぎりを売っていたので買って食べましたよ。
「こっ……これ、ジャポニカ種だ!」
モチモチして甘味がある。
精米した10キロ入りの麻袋が、2000ギル(日本円で約2千円)で販売していたよ。
破格の安さだね。本日限りらしいよ。
お金がギルだし、ラッキーだね。
「ヒジカタさん……他の店をあたりましよう」(ヒソヒソ)
ヒトミさんは不満みたい。
「混ぜてます、古米を。下の方は黒ずんでいました」(ヒソヒソ)
だからヒトミさんは、袋を開けて中を見ていたんだな。
一気に大人買いしなくてよかったよ。
「おにぎりは新米で握ったようです。それに、ここの米は相場より高値のよう」(ヒソヒソ)
神眼で店員の心を読んだみたい。
ヒトミさん凄い!
無敵です。
「やだわ、無敵はヒジカタさんです」(ヒソヒソ)
おっと、心を読まれてるよ。
「あ……ごめんなさい……」
いや、そういう意味じゃないよ。
気にしないで~。
「私……、意識しないと心は見えません。
でも、ヒジカタさんだけは……いつも……、ご、ごめんなさい……」
真白い顔がほんのり朱に染まる。
かわいい……。
「……」
ますます真っ赤になってゆくヒトミさんと、店を出て江戸みたいな町並みを歩いていると、蕎麦の屋台を見つけたよ。
閃いたので、さっそく注文してみる。
蕎麦の添え物――。
このツーンとくる清涼な辛味。
うん。予想どおりワサビだったよ。
「やったー!」
「はい」
ワサビの入手先の地図まで書いてくれた店主にお礼で2000ギル渡し、山村だったのでヒトミさんを乗せて飛ぶ。
0
お気に入りに追加
776
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました
うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。
そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。
魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。
その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。
魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。
手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。
いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる