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2章

その後

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 その日の夕方。

 ~アンフィニ大司教がツェーン迷宮の結界強化を成し遂げた~

 との一報がキキンの街中に駆け巡り、大司教はキキン国王に呼ばれ、たいそう褒められたそうだよ。

 キキン外区に出没するモンスターは、確認されているだけで、ひと月だいたい100匹。その半数がツェーン結界を抜けたモンスター。
 内区の住人は高い壁に囲まれて安全だけど、筒抜けの外区は結界が弱まるにつれ、ヒヤヒヤだったよ。
 モンスターの出没が増えると言うより、ツェーン迷宮地下2階より下、未知の強いモンスターが、襲って来る可能性があるから。

 外区では、――大司教『結界の強化』が出来るか否か――と賭けまで発生。注目度はすごいもんだったね。
 ちなみに比率は、成功20%、失敗80%、と皆シビア。

 だけど、結界が強化出来てよかった、よかった。
 アンフィニ大司教は、キキンの治安を上げただけでなく、外区のヒーローになったね。
 迷宮のモンスターを倒す必要もないから、俺もこれ以上レベルが上がらない。
 よかったよ。 
 



「「「いらっちゃいませ~♪」」」

 大司教さんが、上位の使徒4人を連れて俺の寿司屋に足を運んでくれたよ。
 瞬間、ランちゃんが注文を放ったらかして入口までぶっ飛んで行き、「ひさしぶりだねぇ~、アンちゃん♪」と大司教さんにハグしたよ。
 
 大司教さんは、もう俺たちを怖がってないね。
 違う意味でランちゃんにビビッている、いや、困っているよ。

「コラ娘よ! 司教さまに馴れ馴れしいぞッ!」
「よいか、こちらにおわす方は、キキン国の危機を救ったアンフィニ大司教であらせられるぞ」

「シャレ? おじちゃん」

 水戸黄門みたい。

「な、なにを無礼なっ!」

「これこれ、ランさまは我の大切な人であるぞ」

「「「え?」」」

 上位使徒4人とランちゃんが、いろんな意味で固まった。
 
「やっぱり、あたちに超ラブだったのね、アンちゃん。
 しょうがいがあると、もえるって聞いたけど、ほんとうだったのね」

 ランちゃん、勘違いすごい。
 上位使徒たちは、「大司教さま、いつの間に」「いや、5歳児でもストライク?」「ロリも拒まない境地とは……」「恐れ入ります」などとヒソヒソやっているよ。

 額に汗をかきかき、おろおろしている大司教さんは否定する間もなく、ランちゃんに強引に引っ張られ着席。
 その座った大司教さんの膝の上に、ランちゃんが背中を密着させて座ったよ。

「どお。アンちゃん。むねむねする?」

 どきどきだね。
 知らない人だったら、孫とたわむれるおじいちゃん。(本国に妻子がいるだろう50歳)

「ランちゃん、お客さんの邪魔したらいけないよ」

「アンちゃんはお客ちゃんじゃないよ~、ねーっ♪」

「「「……、……」」」

 問題発言だったみたい。
 毎日ランちゃん目当てで来店する小太りヲタク風冒険者が青ざめて、巻きずしを落としたぞ。
  

 ◆


「……アンちゃん♪」

 SSのランちゃんがつぶやき、長い息を吐いたよ。
 見つめられ司教さんは食べにくいだろうね。

 ついに自分の巻き寿司をランちゃんの口へ。
 
「あーん。もぐもぐ……。おいちーね、アンちゃん」

 苦笑いしながら、同意する大司教さん(本国に妻子はもちろん、孫までいるかもしれない50歳)。
 
「ランちゃん、こっちこっち! 僕も注文するよー」

 小太りヲタク風男が、ランちゃんを呼び戻そうとするけど、

「ごめんなちゃい。いま手が離せないの」

 撃沈。
 
 カウンターの角の席でクスッと笑ったのは、俺がスライムでも驚きもしない美女ヒトミさん。
 妹のメグミさんと一緒に寿司を食べに来てくれたよ。
 
 いつもの光景だけど、今日は少し違う。
 司教さんから頂いたのですが、変でしようか? とはにかみながら訊ねたヒトミさんの洋服は、薄い青色に白い水玉模様のワンピース。
 清潔感溢れていて、それに、話しながら寿司を楽しむふたりはキラキラ輝いていたから。
 扱いは奴隷だけど、束縛されず自由に会話ができる。
 それだけでハッピーだよね。

 それに使徒たちが、急に優しくなったらしい。
 大司教さんの指示もあるだろうけれど、絶対にみんな可愛いいから、特にヒトミさんが美人だったからだと思う。
 イヤらしいね、ほんと! 

「うん。美味いね~♪ ヒトミさん、分かるかい? これがアジだよ」

「はい。アジですね」

 そのイヤらしい使徒の1人も来店してるよ。
 ヒトミさんを叩いた男だ。名前はケイジ。年齢は俺と同じで35歳くらいかな。
 
「《呪縛の法術》が消えた現在、奴隷を管理するのは誰だ? 私だろう。私以外にあるまい。奴隷が逃げ出さないよう、いや、大切な奴隷を守るためにも、私が同行しなければなるまい」

 ちゃっかりヒトミさんの隣で、熱く語っているね。
 男っぽさをアピールかな。ヒトミさんをじっと見つめたり、わざとらしいねー。
 守らなきゃいけない奴隷は、ヒトミさん以外にもたくさんいるぞ。
 
 おっ、この魚はアジだな、そろそろ美味しい時期になるな――、などとウンチクをヒトミさんに披露してるんだけど。

「最近、内区で美味しいピザ屋を見つけたんだよ。ヒトミさん、夕食にお連れしますよ、今夜ね」

「……今夜……ですか……、あの、妹は……?」

「今回はヒトミさんと俺だけ……、ねっ。良いでしょ? きっと楽しいですよ」

 ウインクしたケイジに手を握られたヒトミさん。

「……は、はい……」

 拒まない。
 『神眼』で下心が分かってるのにだ。
 長年の奴隷制、従属関係、乱暴に扱われていたからだろう。
 急に優しくされたからって、はっきりと意思表示できるわけがない。

 今まではヒトミさんたちの顔が老婆だったから、性的な虐待はなかっただろうけど、これからは違う心配が増えたな。
 ケイジだけじゃないだろう、他の使徒も、可愛くなった奴隷たちを狙っているかもしれない。
 俺の考えすぎならいいけど。

 ヒトミさんの逸らされた視線は、俺に向けられる。

「わたし……、ヒジカタさんの、お寿司……だ、大好き、……です……」 
 
「いつもありがとうございます、メグミさん、ヒトミさん」

 渋めの声で言ってみたよ。
 巻き寿司をカットしながらだから、ヒトミさんの顔は分からないけど、もじもじしているね。
 
「いえ……」

「あ……っ、おねえちゃん。顔赤いけど、まさか……」

「なに、変なこと言わないでよ!」

「怪しいなあ」

 使徒ケイジが気に入らないって感じで、鼻を鳴らした。


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