72 / 182
2章
アンフィニ大司教さん その2
しおりを挟むランちゃんの手を引いて輪を抜けたよ。
ずいぶん先に行ってしまった黒ローブ集団に駆け寄り、年配の使徒から説教を受けているお姉さんに話しかけた。
「さっき、教えてくれて、助かりました。ありがとう」
振り返ったヒトミさん、俺と目が合い、揺れる瞳で微笑んでくれたけど、その頬は使徒に叩かれた手の形で、赤黒く腫れていた。
奴隷のまとめ役だろう、年配の使徒が俺を睨みをぶつけ、口元を緩めた。
「なんだぁ? 文句あるのか」
文句あるのか?
その単語の中に含まれている意味は――、
奴隷をどう扱おうが、取得者の自由。
仲間でもないお前に言われる筋合いはない。
――だろう。
その通りだと思う。
思うけど、話すだけなら、忠告するなら構うまい。
「俺は赤の他人だ。
だから強くは言わない。強制もしない。
だけどね、もう少し、優しくできないか?」
「ああ? ……奴隷をか」
なにをバカなって顔をする。
「そう。あんたらが奴隷と呼ぶこの女性たちも、あんたらと同じ人間だから。生きているんだから」
「ふっふふ……、……あっはっは!
真面目な顔で何を言うのかと思ったら、綺麗事かぁ~?」
騒ぎに他の使徒も俺たちに注目しはじめ、金棒の音が消え、ついに、集団の歩みが止まった。
「誰じゃ、我らの邪魔をするのは?」
堂々とした野太い声が響いた。
その声は停止した人力車からだ。
貴金属を大量に身につけた小太りなおじさんが振り向き、目を細めたよ。
アンフィニ大司教だ。
「そこの男よ!
我らはキキン王の命により、世界でも類を見ない最強SSSレベルのダンジョン・ツェーン迷宮の結界強化の途中であるぞ!
精神集中の妨げになるような行為は慎めよ!」
威厳に満ちた表情で話す。
「まあよい。それで何の用だ?
お布施か? なら、静かに渡せばよい。わざわざ我に――」
そこまで言って止まったアンフィニ大司教。
何かに気づいたのか瞬き、苦笑いした後、指で目を擦ってから俺を凝視。
半開きの口のまま小首を傾げ、懐から取り出した丸メガネをかけて、もう一度、たっぷり5秒かけて俺を睨みつけた。
「あ……ひ……っ、……ひええええええええええええええええ!!」
大司教は大きく仰け反って、腰から落ちた。
俺に向けている指が、ブルブル震えているよ。
動揺を押さえられないって感じだけど……まさか。
弟子100人がザワつく。
なんとなく司教のステータスを覗いたら、人間、モンスターを通して初めてになる、アンフィニ大司教も『ステータス確認』スキルを持っていた。
なるほどなあ~。
そりゃびっくりするだろうよ、俺と小さな女の子まで《スライム》と表示されているわけだから。
しかも俺の方は、ただのスライムじゃなく、ステータス値が天文学的数字だもんね。
たぶん生まれて初めて見たんじゃないのかな、ここまでの数値。
びっくりついでに、これも見せようか。
俺はヒトミさんの頬に手を伸ばす。
「少しだけ触ります。……大丈夫、安心して」
頷くヒトミさん。
腫れた頬に手を添えると、ゆっくりと炎症が消えてゆく。
「あわわわわわわ」
大司教だけ俺の凄さが分かるみたい。
使徒たちは、司教の狼狽が心配で、おろおろしているぞ。
完治すると、ヒトミさんとメグミさんの目がパチパチ。驚きのジェスチャーをしていた。
もちろん大司教さんもね。
俺はゆっくりと大司教に歩み寄る。
内緒にしてもらえるかな?
俺たちがスライムだってことを。
でないと困るんだよね。
もちろん周囲の使徒数名が、狼藉者(俺のことね)を捕まえようとしたけど、俺に触ることすら出来ないよ。
「ちょっと上がるね」
「あたちも」
了解も得ずに人力車に乗ったよ。
「おじちゃん、あたちたちの、見てるでしょ」
ランちゃんが先に話しだしたよ。
「あわわわわ」
「えっち!」
「ひえええええ」
「ひえぢゃないわよ、見たでしょ。しきじょうに言いなちゃい!」
「『正直』だね」
身長180センチほどの大司教が、5歳児の一言にビビリまくってるんだけど。
あわあわ言っているアンフィニ大司教さんに、ランちゃんが耳打ちしたよ。
「今度、アフターしてあげるから、内緒にしてよ。
じゃないと、食べちゃうよ」(ヒソヒソ)
「ひえええええええええええええ!」
0
お気に入りに追加
776
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる