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2章

アンフィニ大司教さん その2

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 ランちゃんの手を引いて輪を抜けたよ。
 ずいぶん先に行ってしまった黒ローブ集団に駆け寄り、年配の使徒から説教を受けているお姉さんに話しかけた。

「さっき、教えてくれて、助かりました。ありがとう」

 振り返ったヒトミさん、俺と目が合い、揺れる瞳で微笑んでくれたけど、その頬は使徒に叩かれた手の形で、赤黒く腫れていた。
 奴隷のまとめ役だろう、年配の使徒が俺を睨みをぶつけ、口元を緩めた。

「なんだぁ? 文句あるのか」

 文句あるのか?
 
 その単語の中に含まれている意味は――、
 奴隷をどう扱おうが、取得者の自由。
 仲間でもないお前に言われる筋合いはない。
 ――だろう。

 その通りだと思う。
 思うけど、話すだけなら、忠告するなら構うまい。
 
「俺は赤の他人だ。
 だから強くは言わない。強制もしない。
 だけどね、もう少し、優しくできないか?」

「ああ? ……奴隷をか」

 なにをバカなって顔をする。

「そう。あんたらが奴隷と呼ぶこの女性たちも、あんたらと同じ人間だから。生きているんだから」

「ふっふふ……、……あっはっは! 
 真面目な顔で何を言うのかと思ったら、綺麗事かぁ~?」

 騒ぎに他の使徒も俺たちに注目しはじめ、金棒の音が消え、ついに、集団の歩みが止まった。
 
「誰じゃ、我らの邪魔をするのは?」

 堂々とした野太い声が響いた。
 その声は停止した人力車からだ。
 貴金属を大量に身につけた小太りなおじさんが振り向き、目を細めたよ。
 アンフィニ大司教だ。

「そこの男よ! 
 我らはキキン王の命により、世界でも類を見ない最強SSSレベルのダンジョン・ツェーン迷宮の結界強化の途中であるぞ!
 精神集中の妨げになるような行為は慎めよ!」

 威厳に満ちた表情で話す。

「まあよい。それで何の用だ? 
 お布施か? なら、静かに渡せばよい。わざわざ我に――」

 そこまで言って止まったアンフィニ大司教。

 何かに気づいたのか瞬き、苦笑いした後、指で目を擦ってから俺を凝視。
 半開きの口のまま小首を傾げ、懐から取り出した丸メガネをかけて、もう一度、たっぷり5秒かけて俺を睨みつけた。
 
「あ……ひ……っ、……ひええええええええええええええええ!!」

 大司教は大きく仰け反って、腰から落ちた。
 俺に向けている指が、ブルブル震えているよ。

 動揺を押さえられないって感じだけど……まさか。
 弟子100人がザワつく。

 なんとなく司教のステータスを覗いたら、人間、モンスターを通して初めてになる、アンフィニ大司教も『ステータス確認』スキルを持っていた。

 なるほどなあ~。 
 そりゃびっくりするだろうよ、俺と小さな女の子まで《スライム》と表示されているわけだから。
 しかも俺の方は、ただのスライムじゃなく、ステータス値が天文学的数字だもんね。
 たぶん生まれて初めて見たんじゃないのかな、ここまでの数値。

 びっくりついでに、これも見せようか。
 俺はヒトミさんの頬に手を伸ばす。

「少しだけ触ります。……大丈夫、安心して」

 頷くヒトミさん。
 腫れた頬に手を添えると、ゆっくりと炎症が消えてゆく。

「あわわわわわわ」

 大司教だけ俺の凄さが分かるみたい。
 使徒たちは、司教の狼狽が心配で、おろおろしているぞ。

 完治すると、ヒトミさんとメグミさんの目がパチパチ。驚きのジェスチャーをしていた。
 もちろん大司教さんもね。

 俺はゆっくりと大司教に歩み寄る。

 内緒にしてもらえるかな?
 俺たちがスライムだってことを。
 でないと困るんだよね。

 もちろん周囲の使徒数名が、狼藉者(俺のことね)を捕まえようとしたけど、俺に触ることすら出来ないよ。

「ちょっと上がるね」
「あたちも」

 了解も得ずに人力車に乗ったよ。

「おじちゃん、あたちたちの、見てるでしょ」

 ランちゃんが先に話しだしたよ。

「あわわわわ」

「えっち!」

「ひえええええ」

「ひえぢゃないわよ、見たでしょ。しきじょうに言いなちゃい!」

「『正直』だね」

 身長180センチほどの大司教が、5歳児の一言にビビリまくってるんだけど。
 あわあわ言っているアンフィニ大司教さんに、ランちゃんが耳打ちしたよ。
 
「今度、アフターしてあげるから、内緒にしてよ。
 じゃないと、食べちゃうよ」(ヒソヒソ)

「ひえええええええええええええ!」 
 
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