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2章

刺し身の構想

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 さて問題は何の刺し身で行くかだ。

 鯛、ヒラメ、スズキ、この世界には日本の魚に酷似した魚が多いから――。
 いや、鮮度が良く旬の魚であれば、どの魚でも脂がのって美味いよ。
 旬の魚で刺し身を造るか……。

 ただ、ここは日本でなく異世界だよ。

 この世界の魚の旬が、四季で変化する日本の魚と同じだとはとても思えないね。

「四季? 魚の旬? えっと旬ってそもそもなんです?」

 旬を知らない?
 店主に訊ねた俺がバカだったのかな。
 いや、そもそもこの世界に旬が存在していないとか。
 んなわけないよね。
 言葉が違うのかな?

「季節によって、魚の味が変化するじゃないですか、つまり旬とは、魚が一番美味しい時期のことですよ」

「あーなるほど」

 分かってくれたよ。
 よかったよかった。

「悪いがヒジカタさん。知らない」

「へ?」

「あんまり気にせず、市場にある安い魚を買ってきて売ってるだけだから」

 気にしようよ店主さん。
 安く売る為に、仕入れ値段を落とすのも商売では需要なポイントだけど、
 美味しい時期の魚を売ることのほうがもっと大切だと思う。

 お客さんに美味しい魚を食べてもらいたい、その気持ちがないと、お客さんには何も伝わらない。

「ヒジカタさんの住んでいた地方では、季節により魚の味が変化していたのかもしれないけど、
 このキキン地方は年から年中寒冷で変化はない。だから魚も味が一定しているけど」

「そうなんだ。
 まあ、たしかに、寒い地方の魚は往々にして味に変化が少なく美味しいね。
 寒いから身体に脂を貯めこむ性質なわけだ。
 だけど、それでも、美味しい時期、『旬』はちゃんとあるはずなんだけどね」
 
「そうなんですか」

「例えば産卵期を終えた魚は、やせ細ってたりしない?」

「あー、そういや、ガリガリのヤツがいたりするなー」

「ぎゃくに、調理してて、やけに包丁に油分がつくとかない?」

「あるある、ありますよ」

「そういう事だよ。
 寒い地域でも、ちゃんと旬はある。
 俺たち魚屋さんは、一年の流れの中で変化する魚の状態を知る、知ろうとする事が大切。
 知らないのは問題あると思うよ」

 ちょっと話が、脱線したなあ。
 
 まあでも、四季がある日本に比べて、この国の気候に変化がすくない。
 魚の状態変化も少ないだろうね。

 う~~ん。
 素材選びで差を付けられないとなると、どこでアシダダムと差をつけるかだな。

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