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1章

仕組み

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「サキュバットのボスって『エインシェント』じゃないの?」

「はい、そうです」

 オーガにへんげしていたサキュバットが言うには、『エインシェント』はツェーン迷宮の最深部に眠る古竜で、サキュバットとは無関係のモンスター。

 最上部(1層目)には、『ボーンキラー・ウルフ』『べーゼ・ラミアフィッシュ』『サキュバット』の3種だけが生息しており、サキュバットが最も数が多い。
 サキュバットのボスは女王蜂みたいに、産卵で数を増やすと言う。
 俺の母ちゃんと同じだね。

 ラミアフィッシュは、モンスターと言うより魚に近く、交尾で産卵し数を増やすね。
 ボーンキラー・ウルフだけが特種だそうだ。(これは後ほど説明)
  
「へーっ、てっきり『エインシェント』が全モンスターのボスかと思ってたよ」

「モンスター同士、稀に共存する種もいますが、ほとんどが敵です。私が知るのは、この階層と直ぐ下の階層だけなので、なんとも言えませんが」

「なるほど、じゃ下の階層から侵略して来ることもあるんだ」

「いえ、今のところ階層ごとに結界が張られていて、強いモンスターやレベル(各階層ごとに数値が異なる)により、通過できません」

 洞窟の入口にあったゴムみたな膜が各階層を仕切り、強いモンスターが上がって来られない仕組みね。

「だけど、近年その結界が弱くなっており、何年か後には無くなると予想され、困っています」

「困る? 
 ……ああ、上がってきた強いモンスターに、サキュバットは間引きされるってわけか」

「はい。なので、外界に本拠を移す計画がありまして……」

「それがキキン国の支配ね。キキンの自衛軍、総サキュバット化なわけね」

「はい……」

 結界の弱体化。
 こりゃあ、人間にとっても深刻な問題だな。
 下のモンスターが地上に出てきたとき、人間だけで対処できるだろうか。 
 
「じゃ、1番下にいる『エインシェント』は、相当強いんだな」

「だと思います。見たことないのでなんとも言えませんが」


「なに話ちてるの」
「ちゃんと飛ばないと」

「そうですね~、はい」

 このサキュバットは、SSたちに頭の触覚みたいなのを引っ張られても、にこやかだなあ。
 内心でムカついてるって感じもしない。
 自衛軍に化けていたサキュバットとだいぶ違う。

 そうか、このサキュバットはレベル7。
 洞窟の結界を通過できないレベルだから、洞窟勤務なんだ。
 洞窟勤務って、なんか、言い方が変だね。
 いちおう訊ねてみるか。

「ギガントオーガに『ヘンゲ』してたけど、以前俺を脅したのもキミなのか?」 

「あ、はい。そうです」

 正直だな。
 つまり洞窟に踏み込んで来た人間(外敵)や、ボーンキラー・ウルフを始末したことはあるだろうけど、外に出てキキンの民に危害を加えていないわけだ。
 と言っても、キキン国の支配計画を影で支えていたわけで……やっぱり同罪? 
 うーん。

「脅せと仲間に命令されたのか」

「まあ、そうですね。脅す役は、みんなやりたがらないので、よく振られますね、ははは」

「……」

 コイツって、頼まれるとNOと言えない性格なんじゃないのか? 

「さっき、どうして逃げなかったんだ?」

「いちおう任されたので」

「仲間が逃げたのに?」

「ええ、まあ」

「普通、自分より強い敵に襲われたら、さっさと逃げるだろう。律儀に任務を遂行して死んだら元も子もないぞ。変なとこで真面目だなキミは」

「まあ、ははは」

 コイツ、いつも損な役回りを引き受ける性格か。
 サキュバットにもいるんだなあ、俺みたなヤツが。

「なあ、キミの名前はなんだ」

「私ですか? ポラリスと言いますが、どうかしましたか」

「どうかしましたって、ただ名前を訊ねただけだよ」

「ああ、そうですね……」

 サキュバットの表情は分かりづらい。コウモリだもんね。
 だけど、なんとなく暗いオーラが漂っているよ。

 ああ、そうか。
 
「確かに俺は、ボスとの話し合いの結果により、全サキュバットを収納庫送りにするかもしれないけど、ポラリスくん、キミが生涯人間に危害を加えないと誓うなら、このまま洞窟にいてもらうよ」

「えええええっ!」

 驚き、背中を丸めてしまったポラリスくん。うっかりSSたちを落としてしまう。
 慌てて転んだSSを起こすけど。

「「「ぶーぶー」」」

「あー、みんな。そんなに刺しちゃダメだって!」

「「「ぶーぶー」」」

 SSたちは金串みたいにさせていた触手を、しぶしぶスライムボディに収めたよ。
 
「なにやってるの、ポラリス!」
「ちゃんとしないと、ぐるぐるに入れちゃうからね」

「ごめんねえ、みんな」

 ポラリスと呼び捨てにされても、苦笑いして頭を下げているよ。
 刺された脚や腕から血が流れ、痛いだろうに、無理して。

「しかたがないなあ」
「ゆるしてあげるね」
「こんどはやさしく飛んでよね、ポラリス」

 SSたちが再びポラリスくんに飛び乗ったよ。
 
「人間に一生尽くしますので、よろしくお願いします」

「いや、そこまでしなくても良いから」

「……はい、でも」

 ポラリスくんは舎弟の気質があるのかな。

「はやくしてよね」

 SSが触覚をクイクイ引っ張ったよ。

「あ、あの……、手綱たずなじゃなので」

「気にしなきゃいいじゃん」
「けちんぼ」
「きゃっきゃっ♪」

 人間に尽くす以前に、SSたちにおもちゃにされているんだけど。
 気の毒だなあ。

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