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1章
ぶーぶー
しおりを挟む翌朝。
「必ず生きて帰るのですよ、ファースト、アリシア」
「大丈夫。今回は洞窟の偵察と拠点をづくりが目的だって何度も説明しただろう」
「そうだよ。お姉ちゃん。深部には入らないんだから」
アハートさんが心配そうに、弟と妹を見送っているよ。
3人の右手の薬指には銀色に輝く指輪。ロダン家の家紋入りだね。
初めて見たけど、大切な時にだけはめる指輪なんだろう。
「だけど、もしもの事があるかもしれないわ。慎重に行動してくださいね」
「はいはい♪」
『もしものコトは、もう起きてるんだけどね、イヒヒヒ』(ヒソヒソ)
『聞こえるぞ』(ヒソヒソ)
ファーストとアリシアがロダン家を出たのを見て、俺は魚屋店舗に戻ったよ。
「困りますよヒジカタさん! 外泊するなら言ってくれないと」
店主さんが目を赤くしているよ。
心配してくれたんだ。
「ごめんなさい」
「「「ビィィィ~~~~ッ!!」」」
SSたちが抱きついてきたよ。
両足にひとりづつ、背中にふたり、胸にひとり、肩車でひとり。
「……重いんだけど」
「昨夜は、この子たちの泣き声が凄くて」
そうか、寂しがるSSたちと一緒に寝てくれたんだ。
寝てないから目が赤いんだね。
◆
お昼になると大勢の自衛軍が、キキン国王に見送られながら街を出発したよ。
街道にはたくさんのキキンの民が、手を振って最後の分かれを惜しんでいる。
俺もSSたちと店先で自衛軍の行進を見ていたけど、
「「「ぶーぶー」」」
SSたちに評判が悪いなあ。
あ。
サキュバットだらけじゃないか。
こいつら全部そうか?
「ファースト司令官が選んだ名誉ある第一陣、185名よ」と涙ぐむお客さんが教えてくれたよ。
「そうなんですか」
「私の息子も参加してるの。「国のために尽くしたい」そう願い、自衛軍に入隊したわ」
「……立派な息子さんですね」
「ああ……無事に帰って欲しい」
「……」
見間違いかもしれない――。
彼らのステータスをもう一度確認したけど、お客さんが「ほら、あの子なの」と教えてくれた好青年も、無骨な笑顔で敬礼したあのおっさんも、選抜された自衛軍185名全部が人間の姿を被った――サキュバットだった。
つまりキキン国に潜伏中の全サキュバットが洞窟入りする。
集団里帰りかな?
てっきり人間を何名か連れて洞窟に入り、中で殺すと思っていた。
まあ、俺にとっては好都合だけど。
どうせ、どうでもいいモンスターの死体の一部を持ち帰り、頑張って討伐したように見せかけるだけ。
ヤツらの狙いは、自衛軍2000人をサキュバット化し、キキン国の征服だから。
SSたちに気づかれないよう、店主に昼から仕事を休むと言ったよ。
「今日もですか? 今夜も外泊って? どうされたんです。休み、別の日じゃダメですか」
「今日でないと」
そう、今日がベスト。
今日を逃すと、今度はいつになるか。
「ぜひ、今日で」
「もしかして、毎朝来る美人さんですかぁ」
「はい?」
「……良いです。わかりましたよ。せっかく春が来たのに、野暮でしたね。頑張ってください」
店主さん、勘違いだって。
まあ、いいけど。
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