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1章

足音が

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 そんなとき、遠くで草を分け、土を踏む音。

 ……人間? 
 SSたちがビクッと身体を揺らしてスライムに戻ったよ。
 俺の頭に登ってゆくんだけど。
 
「だから、トーテムポール止めようね」

 ……間違いない。
 人間の足音、二人分だね。

 現地の人は近寄らないツェーン迷宮に、どうして人間が来るんだろう。
 しかもこんな夜に?
 とにかく木陰に隠れ、6匹のSSたちには俺の頭の上じゃなく、木の枝に擬態させて様子を伺うことにしたよ。
  
 少しすると、雑木林の奥に小さな明かりが動く。
 近づいて来るのは、背負ったロングソードが不釣り合いな、身長140センチくらい、小学6年か中学生くらいの、あどけない顔をした軍服姿の美少年と、その後ろには――魚屋店主?! 
 仕事着の魚屋店主が、不安そうな顔でランプを照らしているんだけど。
 なんで、どうしちゃった?
 
「で、そのヒジカタは本当にツェーン迷宮に行くと申したのか?」

「はい。『ツェーン近くの池や川で、美味しい魚が穫れるらしいから見てくるね』と、今朝がた出たっきりで……」

「うむ……、しかし、これだけ探しても見つからない。迷宮付近にはモンスターが頻繁に目撃されている。……最悪の場合かもしれん」

「そ、そんな……。ヒジカタさ――んっ! ヒジカタさ――んっ!」

 あっちゃー! 
 店主さんは、俺を心配してここまで来たんだよ。
 悪いことしたなあ。

 前を行く青年は、ファーストくんと同じ自衛軍だろうね。
 店主が俺の捜索を依頼したんだ。
 ついに二人は俺が隠れている大木まで来たよ。

「洞窟には入っていないと思うが」

「ヒジカタさん……。今朝、出かけるときに、無理にでも引き止めておけばよかった……っ」

 ドドドドドドドドドド――――、
 と突然、俺の後ろの洞窟から、軽自動車ほどもある巨大なオオカミが3匹、地を蹴り飛び出してきた。
 腰を抜かした店主、その落としたランプ目掛けて突進する。 

 あぶないっ! 
 俺が瞬時にスライム化したら、青年が長剣を抜き、店主の前で中段に構えたよ。
 3匹とも倒すつもり?

 
 ボーンキラー・ウルフ Lv 2 ☓ 3匹

 
 テロップされたのは、俺が洞窟に入って直ぐに倒したモンスター、そのレベル2だね。
 だけど、小柄な少年が3匹も処理できるとは思えないけど。
 きっと、殺される。

 俺が助けなきゃ! 
 高速でウルフ3匹の頭部に触手を突き刺し、直ぐにここに戻る。
 ……そう、俺の本気の速度なら、素早さ11392なら、誰にもスライム化した姿は見られない。 
  
 地面を蹴ろうとした、その時。
 走ってきた小柄な少年が、ウルフに向かってロングソードを縦にひと振り。

 ――ザンッ! 
 と空気を切る音がしたと同時に、ウルフの巨体が真っ二つに割れる。
 さらに、横にふた振り目で2匹目のウルフの首が飛ぶ。
 高くジャンプした少年が、突進してくる3匹目の背中へ剣(ソード)を突き刺すと、ウルフが絶叫し崩れるように倒れたよ。
 
 少年は乱れた真っ白いサラサラの短髪を整え、ロングソードを紙に挟みゆっくりと抜く。残血を拭い取り背中の鞘(さや)に剣を収める。

 な、なんなんだ……あの子供?
 剣技凄すぎなんだけど。


―――――――――――――――――――

 人間 ロアン・ホーリー 18歳 LV6
  
 生命力 35/35   

 攻撃力  56
 素早さ    38 
 知能       46
 運          26

 剣術  132
  柔術     84
  槍術     98
  弓術     83

――――――――――――――――――― 


 身長140センチで、18歳なんだ。
 でも、めちゃくちゃ強いぞ。
 
「大丈夫ですか、店主殿」

「……だ、大丈夫です」

「むっ?!」

「どうされましたロアンさん?」

「……まだ、残っておるようだ、モンスターが」

「ええっ!」

「あの……大木のあたりから強い気を感じる……」

 ヤバっ。
 見つかっちゃった俺?

 
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