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1章
未知の味
しおりを挟むさて、先を行くかな。
「……」
そう思ったんだけどね。
じゅる……。
じゅるじゅるじゅる。
ごっくん!
死んでいるボーンキラー・ウルフが気になって仕方がないよ。
オーク以来だね、お腹が空いているわけじゃないのに、死んだモンスターを食べたい気分になったのは。
そう言えば、人間の姿をしているときは、死んでいるもの(例えば売り物の魚とか)に食欲なんか沸かなかったな。
まるで死ぬ以前の自分に戻ったみたいな、日本で魚屋さんをやっていた自分じゃないかと、錯覚するほどだったね。
でも、こうやって、久々にスライム本来の姿に戻ってみると、気分は爽快。
あまりに心も身体も身軽なんで、ちょっと驚いているくらいだね。
今までは、人間という鎧を着ていた感じかな。
人間に変身すると能力値がセーブされるように、スライムの本能とかいろんな部分が押さえられ、人間部分が強く出ていたんだろうね。
そういえば人間のとき、疑問に思ったら教えてくれる機能《SSSレア特典の解説付き》が表示されなかったな。
店主と対峙した時や、ファーストくんが怪しい言動をした時、他にもアハートさんのこととか、本人を前にしていろいろ想像しても、テロップは流れなかった。
あれもスライム部分が変身により無効化されていたんだろうね。
だから今、本当の姿に戻った俺は――、
じゅるじゅるじゅる。
ごっくん!
スライムの本能まっしぐら。
倒したこのモンスターの肉が無性に食べたいよ。
スライムは往々にして森の掃除屋さん、つまりハイエナ行動をとるモンスター、強くはないけど、傷ついて死んだモンスターや、弱ったモンスターを取り込んで消化吸収しちゃう。
まだ食べたことがない未知の味。
オークと違う、もしかしたらすごく美味しいかもしれないよね。
むにゅ~っ。
むにむに。
むにゅ~むにゅ~。
ボーンキラー・ウルフの前足をゼル状の身体に飲み込ませ、
じゅくじゅく。
……じゅわわわ~。
消化してみたよ。
広がる肉の甘味。生ハムに似た旨味だね。
足先は豚足ほどじゃないけど、ゼラチンがコリコリして油身が旨いね。
俺は軽自動車サイズのボーンキラー・ウルフをずっぽり包み込み、せっせと消化。
「ごちそうさまでした」
何にも残ってない、ただ、軽自動車サイズのしずくゼリーがいるだけね。
食ったら、でっかくなっちゃったね!
ボーンキラー・ウルフぶん、容量が増したよ。
食欲も満たされたことだし、奥に進んでみようかな。
ずりずりずり。
「あれ」
ずずずずずっ。
ずーり、ずず、ずーり。
身体が重いッ。
体重が増えたからだね。
それに壁の岩に身体が引っかかるよ。
そういや新しい能力『分裂』を獲得していたね。
使えないかな。
~分裂~
身体を二分の一に分裂可能。
そのまんまだね。
ほとんどのスライムが分裂して増えるけど、俺は産卵タイプだから、新しい能力になるよ。
やってみようかな。
そう思ったら、ぷりんっ、と身体が半分に分かれたよ。
自分そっくりのが、もう一匹ふるふる揺れているね。
核もちゃんとあり、説明テロップには、『SSレア・スライム レベル1』。
分裂したらSが1つ少ない。劣化して増えるんだな。
「まだ大きいなあ」
それぞれ2分の1に分裂してサイズ合わせだね。
SSレア・スライムが分裂したら、Sレア・スライムができると思ったんだけど、SSレア・スライムのままだったよ。
「前と同じサイズだな」
「「「うん」」」
3匹の俺が、身体の一部を盛り上げて合図してくれたよ。
会話ができるって楽しいな。
それにメチャメチャ頼もしいよ。
強いモンスターが向かってきても、4匹いれば安心だね。
「奥に行くから、ついてきてね」
「「「了解したよ」」」
俺が進むと、残りの3匹がドラクエのプレイ画面みたいについてくるよ。
可愛いな。
それぞれ勝手に行動するかと思ったけど、分裂個体は俺に忠実なんだ。
西遊記で孫悟空が自分の分身を作るけど、そんな気分だよ。
~分裂後の各個体特性~
1、分裂個体は分裂元(親)に従う。(例外あり)
2、分裂個体が獲得した経験値は、分裂元(親)に同じ値還元される。
テロップの説明だと3匹は忠実みたい。安心した。
「いいかい、スライム同士で共食いしちゃ絶対ダメだからね」
「「「はーい」」」
素直なスライムたちで良かったな。
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