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1章

アハートさんひとりだけ 

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 翌朝。
 自分の部屋にいると、白い軍服姿のアハートさんが差し入れを持ってきてくれた。

「ヒジカタさまのお口に合えばいいんですが」

 渡されたバスケットを開けると、焼きたてクッキーのいい香りがしたよ。
 早起きして作ったのかな、少し眠そう。
 
「あ、ありがとうございます」

「よかったわ」

 女神さまのような微笑みをされると、つい吸い込まれそうになるね。

 でも、これをわざわざ俺のため?  
 ってないない。そんなの。

「無理難題を押し付けてしまい、ヒジカタさまには申し訳なくて」

「そんな、俺なら大丈夫ですよ。いきなり剣2000は無理ですけど、出来る限り希望に添えるようしますから」

「まあ! 何年もかかるというのに……。な、なんてお優しい……」

 アハートさんが両手を大っきな胸の前で組む、お祈りポーズをしたよ。

「弟がヒジカタさまを崇拝するのが分かった気がします。
 家で弟はヒジカタさまの話しばかり。尊敬しているのです。ダメな弟ですが、これからもよろしくお願いします」

 そう言いアハートさんは、ギターでも入りそうな大きな包を差し出した。

「約束の品です」

「やくそく?」

「……えっ。弟から持って行けと」

 包を開けると、錆びて所々欠けた長剣が10振り。
 
「あー、そうだった、そうだった!」

 取り敢えず、これだけ名刀に加工するわけね。
 ファーストくん早いなあ。

「ヒジカタさまが剣を作るのに必要だとかで、今日から毎日届けて欲しいと」

「えっ! アハートさんが毎日、ここに来てくれるんですか」

「そうですけど? あ、そうそう、誰にも分からないよう極秘だとも言ってましたわ」

 剣を毎日10振りづつね。
 無理のない数だな。

「ヒジカタさま、本当でしょうか。このような使い物にならない品が対エインシェント用の剣になるのでしょうか」

 え?
 ちょっと、いったい何処まで話しているのファーストくん。
 

 ◆

 
 アハートさんにいろいろ訊ねたら、詳しい事は全然知らなかったのでホッとしたね。

「では、また明日の朝、寄らせてもらいますので」

 店舗の外までお見送り。
 本当はずっと先まで見送りたかったけど、

「ここで、大丈夫です。私たち、お外では親しくしないほうが。そう弟が」

「そうですよね。極秘だもんね」

「はい。私たち極秘ですわ」

 微笑むアハートさんが丁寧にお辞儀をすると、黒髪が朝日を滑らせキラッと光ったよ。

 これから毎朝、アハートさんが俺の部屋へ……。
 そう思っただけで、朝が楽しみになるなあ。
 今日は玄関先でのやり取りだったけど、いつか勇気を出して部屋に誘おうかな。
 
 あ、変な意味じゃないよ。
 もっと仲良くなりたいし、今度作ってみようと思う寿司を食べてもらいたいんだよね。

 いい香りを残して帰ってゆくアハートさん。
 姿が完全に見えなくなるまで手を振り続けた俺は、店主に今日仕事を休むと告げたよ。

 ツェーンの迷宮に行く。

 本腰入れて対エインシェント用の剣を作ろうかなと思ってね。
 だったら敵を知らないと話にならないもんね。

 アハートさんにイイとこ見せたいからじゃないよ。
 いや、まあ、ちょっとあるけど。えへへ。

 あ~、なんか、ファーストくんの術中にハマったのかな俺。
 ファーストくんは、俺がこうなると考えてアハートさんを寄こしたのかな。
 まあ、いいや。

 それより、迷宮には宝箱があるってファーストくんの話しだよ。
 伝説の剣や伝説の防具、伝説の金属オリハルコンや、とにかく貴重な物が入っているそうだよ。
 
 伝説の剣なら、そのままアハートさんにプレゼントすれば喜ぶだろうな。

 あ、ダメだ。
 俺の頭がアハートさんだらけになっているね。
 アリシアちゃんが羨ましがるかな。


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