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1章
アリシアちゃんとアハートさん
しおりを挟むツェーン迷宮。
そのボス『エインシェント』が迷宮から出てくる前に、何としても倒しておきたいと言う若者は、ファーストと名乗った。
「いままでは結界が張られ、ツェーン迷宮のモンスターが出てくることはなかったのですが、近年、その結界の力が弱まっているのです。
このままではキキン王国が危険にさらされます。
防衛軍としては早急に迷宮のボスを倒す必要があります」
「そうなんですか」
真剣に聞いている風を装いつつ、俺はファーストくんの両隣が気になって仕方がなかった。
さっきファーストくんを3階に案内しようと、勝手口から外に出た。
俺の3階へは外の階段でないと行けないからね。
そしたら、ファーストくんの部下なのか、若い美女が二人もついてきたわけ。
びっくりしたね。
実のところ、この世界に来てから目にしたのは、スライムだのオークだの、人間もむさ苦しい店主や、40歳くらいの奥さん、お客さんもおばさんやおじさんばかりで、若い女性は初めてだったのよ。
衣服も、この世界の人たちがよく着ている落ち葉色のワンピースじゃなく、二人とも白を基調としたお嬢様学校の制服みたい。
清楚で、華の香りがしてきそうなんだよね。
それで今も、ファーストくんの両隣で、美女二人が正座しているのね。
気になって迷宮の話しは、右から左なんだよね。
ちなみに気になるのは、女の子たちがミニスカートだからじゃないよ。
二人が余りのも愛くるしいからだね。
ひとりは童顔で黒髪をサイドテールで垂らした妹系の可愛い系美女だね。
正座して足がシビレたのかな、もじもじしちゃってるよ。
もうひとりは、長い黒髪をした色白の巫女さんみたいな清楚系美女だよ。
ファーストくんより年上かな。20歳くらいで、大っきな胸をしているよ。
どちらも甲乙つけがたいね。
ファーストくんの彼女だったら、ぶっ飛ばしてやりたいけど。
「お願いします。お兄ちゃんに力を貸してください」
「え? ……お兄ちゃん」
妹系の美女がぺったんこの胸の位置で両手を合わせたよ。
「はいっ!
あたしのお兄ちゃんは、『ヒジカタさんに剣を作ってもらう』重大な任務を任されているの。もし剣を作ってもらえなかったら、お兄ちゃん困っちゃうの!」
俺の剣って、そんなに凄いかな?
過大評価だと思うけど。
「私からもお願いします。ぜひ弟を助けてください!」
間髪入れず、色白の美女も頭を下げたよ。
サラサラの黒髪が肩を流れ、できた襟の隙間から、豊かな胸チラを見てしまったよ。
ちょっとクラッとしたね。
「ヒジカタさましかいないのです」
そんなわけないと思うよ。
良い剣は他にもいくらでもあるよね~、と思ったけど、
「弟……? ……あ……、どちらもファーストくんの姉妹さん?」
「はい。あたしが妹のアリシアだよ」
「私が姉のアハートです」
「そうなんだ……」
兄妹そろって美男美女なんだ。
ふたりとも上着の襟にファーストくんと同じワッペンが付いてるよ。
鳥が2羽、左右に向いて飛ぶマーク。
キキンの国旗と似てるね。
「3人揃って自衛軍なの?」
「「「はい、そうです」」」
ハモったね。
息がピッタリだね。
自衛軍って、外敵から国を守る仕事なわけだよね。
ファーストくんは男だから仕方がないとしても、アリシアちゃんとアハートさんは危険なことはして欲しくないなあ。
「ぜひ、剣作りをお願いします」
改めてファーストくんが頭を下げたよ。
アリシアちゃんとアハートさんが、じ~っと俺を見つめているね。
良いカッコしたいわけじゃないけど、
「まあ、仕方がないなあ、じゃ、ファーストくんとアリシアちゃんとアハートさんに免じて、1振り作ってみるよ」
ちょっぴり恩着せがましかったかな。
二人の喜ぶ顔を思い浮かべたけど、ファーストくんが後ろめたそうに背中を丸めたよ、あれれ?
「すいません……ヒジカタさん。1振りでなくて」
「ああ、そうか、そりゃそうだよね。美人の二人も合わせて3人分ね」
美人って言っちゃったね。
恥ずかしいな。
「いえ、自衛軍全部の――」
「はいっ!?」
なにそれ。自衛軍全部って!
「すいません。ヒジカタさまッ!」
「お兄ちゃん、言ってなかったの!」
「ああ、ちょっと言い難くて」
「バカ、バカ、お兄ちゃんのバカっ!!」
アリシアちゃんがファーストくんをぽかぽか叩いているね。
姉のアハートさんが「ごめんなさいね」と俺に謝り、アリシアちゃんを止めに入ったけど、胸がぶるんぶるん揺れて、目のやり場に困ったね。
アリシアちゃんが座ったまま動きまわり、ミニスカ―トの中身が見えちゃうのにも困ったね。
いろいろ困ってしまって、この兄妹たちの微笑ましい光景を見ていると、引き受ける気になったね。
無謀かもしれないけど、頑張ればなんとかなると思う。
「わ、分かったっ! 分かったから、バタバタしないでね!」
3人が停止したまま俺を見たよ。
「で、その自衛軍全部の必要数はどれくらい?」
難しい顔をしたファーストくんが、控えめに指を2本立てた。
「200か……」
どんなに早く作っても、せいぜい30分に1振りかな。
一日16振り作れたとして、14日はかかるぞ。
それも魚屋を手伝わないでの計算だから、かなりきついな。
「あの……」
「ん?」
「あのですね……」
その困った顔は……、まさか。
「す、すいませんッ! ……2000です」
2000?
一度も作ったことがない、戦闘用の剣を2000!
いや~、いい加減、剣に頼るのはよそうよね。
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