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☆高校教師
しおりを挟む「おっおおっ! 山柿先生! お手製のミニハンバーグですね。分かりますよ。冷凍をち~んしたんじゃなくて、一から作ったものですなこれは! いいですな~山柿先生は」
「ええ、いやー」
「私なんか、お手製のお弁当を食べたのは、もうかれこれ20年以上も前……、しかも……、母のです。ほんと羨ましいですな~」
職員室で弁当を広げたら、隣のベテラン教師(45歳・国語担当)が覗きこんできたのだ。
「橋本先生。本当に羨ましいのはお弁当じゃないでしょ」
他の教師が口をはさむ。
「そうそう、橋本先生が羨ましいのは、そのお弁当を作っている、女の子ですよねーっ!」
「自分の高校の生徒をこういっちゃなんですが、めちゃくちゃ可愛いですからねー」
「当たり前でしょ。誰を捕まえて可愛いって言ってるんですか? 国民的美少女ですよ。あいりんですよ!
人気があり過ぎて、一年交代のトキメキTVを3年間も続けた子なんかいましたか? 初版のあいりん写真集はプレミアがついて100万円で取引されてるんですよ」
「川口先生。やけに詳しいですな。今でも隠れファンだったりして」
「ばっ、ばかを言え。山柿先生の前で失礼だろ!」
「あっ、そ、そうでした。す、すいません。お、奥さんの手料理、美味しそうです」
「い、いえいえ」
K大学を卒業した僕は念願の教師になった。
現在赴任しているのが、僕と岩田が通った広水高校だ。
僕と愛里の関係が明るみになってもう6年。
当初は批判されることも多かったが、あいりんファンは減るどころか逆に増えていった。
あいりんを応援するブログやツイッター、ファンクラブ内などの活動が起因となってついに真実が明るみになり、AHHテレビと綾小路グルーに苦情が殺到。視聴率は激減。綾小路は引退。AHHテレビは倒産して今はもうない。
元相撲取りも引退し、最近自叙伝『綾小路の表と裏・政財界にまで通じていたドンの末路』を出したが売れてないそうだ。
人格統合したばかりの愛里は、口癖にしても行動にしてもばらつきがあったが、日が経つにつれ徐々に安定してゆき、中学生になった頃にはすっかり普通の女の子になっていた。
そして愛里が16歳になるのを待って僕たちは結婚した。愛里は僕のお嫁さんであり、この広水高校2年の生徒でもある。
――ガラガラガラ。
職員室の戸が開いた。
「おっ、来ましたよ山柿先生。今日は超ミニスカートにぴちぴちキャミソールですっ! いや、ほんと羨ましい」
隣の橋本先生がまた羨ましいを言った。
「困ったな~」
「大丈夫ですよ。奥さんには内緒にしときますから」
「いや、そういう問題じゃなくてね」
胸をぶるんぶるん揺らし、そいつは側までやってきて「おまたせしましたー!」と僕が食べているお弁当の横にコーヒーと苺ショートケーキを置いた。
「今日はねー。ウチ特製の苺ショートケーキだよ。ウチの愛液をブレンドしてるからね!」
「止めてくれないか、相川さん」
相川桃花。
以前は柏樹セナとしてSM界のトップAV女優だったが僕がK大学を卒業すると同時に引退し、地元の呉地市のケーキ屋に就職した。
そうして毎日昼食憩の時間になると、この広水高校へ頼んでもないケーキとコーヒーを持ってやってくるのだった。
「媚薬のほうがよかった?」
「なんの話だよ」
「はい。お隣の橋本センセにもおすそ分け」
聞いちゃいねーし。
「あっ、ありがとうございますっ!!」
ケーキを貰って橋本先生はニコニコだ。セナさんは鼻歌を歌いながら周囲の男性教師に配り終え戻ってきた。
「セナさん」
「なにかな山柿センセ」
「いちおう僕はね、ここで教師をしているんだ。それに結婚もしている。ここの先生たちはセナさんがどういった事情でやってくるのか理解してくれているとは思うけど、何も知らない生徒たちに見られでもしたら、変に誤解されてしまうよ」
「なにその変な誤解って? 山柿センセとウチが放課後ホテルでエッチしまくっている……とか」
「いや、そこまでは言ってないけど……、てか、エッチなんかしてないぞ!」
「じゃーなに、ウチを毎晩縄で縛って肉便器のように陵辱し、ついに性奴隷に仕立て上げた……とか?」
「酷くなっているだろ! いや、そっちに話しをもっていかないでっ!」
「じゃたまに不倫している、とか?」
「そう、そのレベル。いや、もう止めて」
「なんだ、たまに程度の誤解なんだ」
不満なのかよ。
「そうね、ウチら不倫願望はモンモンとあるのに、あんたの特異体質のお陰で、できずにいるんだかんね」
「ウチらって、僕を加えないでくれるか?」
「「「特異体質?」」」
興味深い単語が飛び出したので教師たちが食いついた。
「なんです、その特異体質って」
「あら、聞きたい?」
「ええ、まあ」
「言っていいの山柿センセ?」
「ご自由に」
何を言うのか、何となく分かる。
とにかく、僕はもう自分のことで隠し事は止めたんだ。
「山柿センセは、幼女限定、小学生以下にしか興奮しないんだわ」
「「「えーっ」」」
無視を続けていた女性教師が、ハッとして僕を凝視した。みるみる嫌悪感を露わにする。
「いや、正確に言いますとですね、小学生以下ってわけじゃないんです。僕は愛里にしか興奮しないわけでして、つまり純愛なわけです、はい」
「愛里にしか興奮しないって、つまり女子高生とヤッているってこと?」(ヒソヒソ)
「当たり前だろ。夫婦なんだから」(ヒソヒソ)
「うわ~、あいりんと山柿先生を想像しちまったよ」(ヒソヒソ)
うわ、泥沼になった。
「セナさん……僕はもう疲れたよ」
「なにそのフランダースの最終回みたいな言い方」
「とにかく、そろそろ帰ってくれない?」
「なにソレ? なにソノ言い草? 気に入らない」
セナさんがずんずん威圧してきた。そのでっかい胸が鼻先に迫る。
「今までウチがどれだけ坂本くんに援助してきたか。見も心も全てを捧げてきたのに、若い愛里ちゃんとちゃっかり結婚しちゃって、それでもウチは我慢してきた。せめてコーヒーを届けるくらい、1日一度会いに来るくらいいいじゃないの! そうでしょう皆さんっ!」
隣の橋本先生他、男性教師がうんうん、としみじみ頷いている。
その中のひとり、イケメン教師(30歳)がセナさんの肩を抱いた。
「相川さん。落ち着いた良い雰囲気の店があるんです。私でよかったらいつでも愚痴を聞きますよ」
「香川センセ……」
「光栄だなあ、名前を覚えていてくれてたんですね」
「気安く触らないでくれる?」
「え?」
「ウチが触って欲しいのは、このロリコン犯罪野郎だけだから。突っ込んで欲しいのはこいつのマックス君だけだから。香川センセにケーキ食わしてんのはついで。ついでだから」
つ……、と香川教師は絶句した。
「セナさん……」
「あら、ウチの愛に感動したの山柿センセ? 放課後スル?」
「むしろ萎えた。放課後は岩田と剣道だ。もっと言わせてもらえば、学校でエッチな行為を想像させるような言動はしないように」
「はーい、はいはい」ムッとしたセナさんが僕に投げキッスをしてみせ「山柿センセイがつめたいから、帰るーっ!」と言った。
「そうかそうか、いつもコーヒーありがとうね、今度なにかお返しするから、じゃあね」
「愛里ちゃんのお手製のクッキーとかヤダ」
「けっこう美味しいのに」
「幸せそうで胸くそ悪くなる」
「そういうことね。じゃ、他になにか考えとくよ。リクエストある?」
「精子ちょうだい、濃厚なやつ特盛で」
「……だから、そういうこと言わないのっ!」
「愛人1号は精子も貰えないのか」
「それも言わない!」
なんだよ愛人1号って。
「はいはい」
やっと職員室から出て行ってくれた。
やれやれ。
「お疲れ様です。だけど、どうしてこう山柿先生は美人にばかりモテるんです? なにか秘訣があるんですか」
「さー、どうしてなんだろうか」
顔は激怖なんだけどね。
午後の授業が始まった。
2年のクラスに行き、名前を呼び上げる。何人がやり取りを終え、
「山柿さん」
「はいっ!」
青い瞳がキラリと輝く。愛里が返事をしたのだった。
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