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★愛里ワールド(アイリ降り立つ)
しおりを挟む勇者さまが……あたしのお部屋を気持ち悪いって言ってる……。
あたしのことも不気味だって……。
今までウソをついていたのです、騙していたのです。
勇者なんかじゃなくて、ただ優しいだけの人。山柿さんだけは違うんだって特別だって思い込んでいたけど、本当は兄さんがもうひとりいただけだったのです。
突然目の前が真っ暗になって、気がついたら、ジメジメした地面にうつ伏せで倒れていました。
どうやら気を失っていたみたい。
どれくらい眠っていたんだろ。ここは何処かな?
雑木林みたいだけど、山の上公園じゃない。だって見たこともないシダ植物がいっぱい生えてて、お空はセミ色だもの。
秋なのにセミがぎゃんぎゃん鳴いているし、それよりなにより、この流れている音楽は、大好きなメロディは♪
何回も遊んでいるドラクエのBGMじゃないですかっ。フィールドを歩くときのやつだ。
ふと見上げると、空中にもドラクエそっくりな半透明な表示がありました。
こんな感じ。
――― アイリ ――― ――――――――――
| あいどる || ちから: 5|
| せいべつ:おんな || すばやさ: 6|
| レベル: 1 || たいりょく: 3|
| HP:15 || かしこさ: 5|
| MP: 0 || うんのよさ: 9|
――――――――――― |さいだいHP: 19|
――――――――――― |さいだいMP: 0|
|E ふつうのワンピース|| こうげき力: 6|
|E ふつうのクツ || しゅび力: 8|
| ||Ex: 0|
| || |
――――――――――― ――――――――――
なんかすごーい!
ここはゲームで、あたしゲームのキャラになったのかな。
立ち上がって歩くと、ザッザッザッと音がして、本当にゲームと同じ。
あっ、これ毒の沼地を歩いた時の音じゃない。
右上の表示のHPが歩いたぶんだけ少なくなってるーっ。
もしHPが無くなったら死んじゃうのかな? 『しんでしまうとはなさけない…』と神父さんに言われたりするのかな?
まあ、どうせあたしはまだ寝ていて、夢の続きを見ているだけなんだろうけど、でもとってもリアルだからすっごーく嬉しいっ!
さて、取り敢えずこの世界をいろいろ探索したいんだけど、この毒の沼地をどうしようかな。一歩も動けないじゃないの。《HP:0》はイヤだなー。
薬草でも持ってないのかな。
―― コマンド ―――
| |
| はなす じゅもん |
| つよさ どうぐ |
| そうび じらべる |
| |
―――――――――――
そう思ったら、コマンドが出てきて、クリックできました。
→どうぐ ピコッ!!
な~んにも持ってないや。始まったばかりだもんね。
しかし、ゲームスタートしたら、いきなり毒の沼地って、製作者は性格悪いなあ。
なにかないかな、と見渡したら、遠くで可愛いらしいスライムさんがぽよんぽよんと弾んでいました。
お――っ!
だけど、茂みにガイコツさんが剣を構えて隠れていて、間違いなくスライムさんを狙っています。
シャ――――ッ!!
上から大蛇が振ってきて、そのガイコツさんにかぶりつき、グムグム丸呑みしちゃいました。
すごーい!
ところがシーソーみたいに大っきなムカデさんが、その大蛇をガッバーッと口開けて食べてしまいました。
なんというバイオレンス!!
夢の世界だけど、ものすごくリアルです。
メキメキ音をたててお食事をしている大蛇を観察していると、
「アイリさま~~~っ!!」
お空から誰かの声がしたかと思ったら、自動車ほどもある巨大なミンミンセミが飛んできて、あたしの側で着陸しました。
セミさんの両サイドにある複眼がキラリン光ってます。
「よくぞもどられましたセミ。お久しぶりでございますセミっ!」
大きい……。喋っている……。
セミかな、これ?
自分でセミって言ってるんだからそうなんだろうけど、まあ、そうせ夢なんだから、いいんだけどね。
「あたしを知っているの?」
「もちろんですセミ」
セミさんが言うには、この世界にはあたしのお家もちゃんとあって、さっそく連れてってくれるそうです。
ほんとかな?
「そんな眼でみないで欲しいセミ~っ! ボクはアイリさまの味方ですセミ~っ!」
ミーンミーン、信じて~セミっ、と鳴くのでした。
「分かったよ、信じてあげる」
「やったーっ!」
突然、またまたドラクエのBGMが鳴り出し、
―――――――――――――――
| |
| ミンミンが仲間になった! |
| |
―――――――――――――――
と空中に表示されました。
「じゃ、ボクの背中に乗ってよセミ」
「おじゃましまーす!」
「しっかり掴まっててね」
ぶーん、と垂直上昇したミンミンは、あたしを背にして焦げ茶色の空を飛びました。
すると、ずっと向こうのお空に眩い明かりが差し込んでいました。
「あれは窓ですセミ」
「まど?」
「外の世界を観ることができるセミ」
外の世界?
なにそれ。
あたしのお家に行くのは後回しにして、その窓とかに向かってもらいました。
近づくにつれ、さながら天空城みたいに地面が空中に浮いていて、その中央にナメクジの形に似た映画のスクリーンほどの大きな窓が2つありました。
その窓には……。
さっきまで寝ていた大阪ホテルのあたしのお部屋です。まるで乗り物に乗っているみたいに外の景色が動くのです。
ドアが開く音がしたと思ったら、ぐいーんと景色がスライドして――、
「勇者さま……」
大画面に勇者さまが映り、停止しました。
わーなにこれ、すごーい♪
「勇者さまーっ! あたしはここにいるよーっ!!」
両手を振って大声で呼びました。
さっき勇者さまに不気味だって言われてショックで意識を失ってしまったけど、だけど、よくよく考えたら普通の人ならそうなんだから、兄さんだってそう思っているんだから、仕方がないと思う。
それよりあたしを病院に連れていこうとか、あたしの性格を公表するべきだとか、とにかくあたしを大切に想ってくれているのは凄くわかる。嬉しい。
「無駄だセミ。聞こえないセミ」
「えーっ、なんで?」
「それはセミ――」
ミンミンが言いかけた時に、声が響いたのですが、
『……何しに来たんですか。山柿さん』
あたしそっくりの声でした。
勇者さまは驚いたお顔をしました。
そりゃそうです。
あたしが言っていると勘違いしても変じゃない。
それとは別なのですが、気がついたら近くに黒くて透明な風船みたいなのがプカプカと浮いていて、その風船の中には色々な文字が入ってありました。
(嫌)(悪)(怖)(醜)
なんだろ、これ?
つんつんしてみたら、パチンと音がして消えてなくなりました。
へんなの。
『ご用がないんだったら、出て行ってくれませんか』
あっと、ダメダメ、それどころじゃありません。
あたしの声が勝手に変なこと言っちゃってる。勇者さまが困った顔して、わーわー、止めて~~っ!
『テレビが気になるなら、他所で観てもらえませんか?』
うっわ~~っ、なに言ってるのこの声?
勇者さまも、あたしだと思っているよぉ。
ダメダメ、この声はあたしそっくりだけど、あたしじゃないんだから――っ!!
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