一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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☆公表したい

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 秋のサスペンスドラマの収録で公園に来ている。
 昼休憩に入り俳優とスタッフさんたちは近くの人気飲食店に向かう。ミッチェルさんと愛里も付いていこうとしていたので、僕は急いで声をかけた。
 ミッチェルさんは愛里の秘密を守る為に監督がつけた愛里の専属マネージャー。トイレと寝る時以外は愛里に付きっ切りだ。僕が愛里にした行為(2度も愛里とトイレで抱き合った)も詳しく知っている。

「一緒に食べるデスカー?」

 いつもエッチなセクハラをしてくる月光優花ちゃんが今日は居ないのだ。だから愛里と落ち着いて食事ができる。
 
「わーい! 勇者さまとランチ。なに食べようかな♪」

「弁当を買って、ロケバンで食べませんか?」

 折角のチャンスだ。出来ればスタッフと離れて3人だけで話がしたい。
 大事な話しだ。

「愛里チャンを食べてはダメデース。分かっていマスカ坂本? 約束できるならOKデス!」

「はははは」

 また下らない冗談を。

「えっ、あたしを食べるの?」

 愛里がビクッと身体を震わせたが、直ぐに「すごい。……バイオレンスかも」と恥ずかしそうにもじもじした。
 喜んでいる。どんな想像をしているのだろうか。

「強く噛んでもいいからね。少しくらいなら血が出ても平気かも。あたし、縄持って来てたかな、どうだったかな」

 毎度の事なのだろうミッチェルさんが薄く笑う。

「食べると言っても意味がチガイマース」

「そなの?」

「ワタクシが言った食べるは楽しむコトデース」

「楽しむ……?」

「ミッチェルさん。説明するのはソコじゃないでしょーに」

 とにかく、近くのコンビニで弁当とカルピスウオーターを買ってロケバンに入った。

「さっきワタクシが言ったのは、勇者サマにトイレプレイみたいなのを控えくだサーイネ、と注意したのデスヨ」

「えっ。そうだったんだー。勇者さまも楽しかったんだ。あたしと同じだったんだ。うれしい」

 愛里がじっと僕を見つめる。

「止めて下さいよ、ミッチェルさん。あれは偶然だったって、何度も言いましたよね」 

「アラ。偶然デハなくて、運命だと愛里は思ってマースネ」

 こっくんする愛里。

「坂本サンもそうなんでスカ?」

 顔を真っ赤にして僕を見上げた。大きな眼をぱちぱちさせ、じっとじっと待っている。

「アラ? 黙っちゃダメデースね、勇者サマ。ちがうんでスカ?」

 困ったぞ。
 もちろん愛里がトイレの出来事を美しい出会いだと思っていることくらい承知の上だ。
 だけど――。 
 だけど、僕にどう返事を?

 監督には僕が愛里に引けをとらない人間、つまり俳優で成功するまで愛里と関わりあうな(くっつくな!)と言われている。
 それはつまり、愛里の熱狂的なファンの一人でいろ、と命じているのだ。だから『僕も運命だと思っている!』なんて言えない。愛里に告白じみたことはできないのだ。
 ミッチェルさんも分かっているだろうに、本当に意地悪だ。

 いや、そうでなくとも愛里はブラック羽沢くんや月光優花ちゃんの前では僕の彼女のつもりでいるし、母親から『坂本氷魔への恋心は秘密だからね』と注意されているのに、
『内緒にしてれば何してもいいんでしょ? あくしょんカルピスだって、カメさん遊びだって、勇者さまと二人っきりだったらいいんでしょ?』と、愛里都合で受け取っているのだ。
 もし言ったりしたら大変なことになる。恐ろしいことになる絶対に。
 最近は愛里と二人っきりになったことがトイレ以外に無いので分からないが、想像するにエッチレベルは優花ちゃんの遥か上だろう。SMチックな行為はもちろん、大人のオモチャにも興味深々だから、怖いもの知らずだから、いやいや、怖いもの好きだから……。
  
 それに僕はスタッフの間で愛里の身体を狙っているロリコンだと噂されている。
 ネットに公開された僕のおちんちん画像の騒ぎはまだ収まっておらず、こうして食べている今も、真意を突き止めたがる週刊誌の記者が眼を光らせているのだ。
 
 しかし、しかし、愛里がじ~~~っと僕を見続けていた。
 だから仕方がない。

「僕も大切に思っているよ……」

 今はこれがいっぱいいっぱい。
 花が咲いたみたいに愛里の顔が明るくなった。
 続きをもっと聞きたいみたいだけど、
 
「さー食べようか。もうお腹空いちゃったよ」

 誤魔化して、僕は弁当の蓋をあけて両手を合わせた。仕方なく愛里も弁当を開けて手を合わせる。
 ふたり一緒にいただきまーす! と言って食べた。


「トイレにイッテキマース! 勇者サマも後から入ってクルカ?」

「行くわきゃねーだろっ!」

 ミッチェルさんなりに気を利かせてくれたのだろう、やっと愛里と二人っきりになれた。
 最初はもじもじしていた愛里も、徐々に慣れてきて会話が弾み、最大の疑問をぶつけた。

 どうしてセミの殻で部屋を覆っているの――?
 
「だって、かっこいいでしょ?」

「……なるほど、そうだね……」

 僕がバカだった。登山家にどうして山に登るのかと訊ねたと同じだ。
 
「僕がプレゼントしたぬいぐるみだけど……、あれは?」

 切った形跡があり、ズタボロだったのだ。

「あくしょんばいおれんすしちゃったの。マムちゃんごめんなさーい♪」

 分からない単語が出てきたので、説明してもらう。
 愛里にとって、少しの暴力は愛情表現になるのだ。ヘビのぬいぐるみを僕だと仮定して、ばいおれんす(暴力)をする――、甘咬みみたいなものだ。つい暴走してしまって首を切断してしまい、後から縫ったそうだ。うーん、怖い。
 僕に縄で縛られたいSM願望は、そのまま僕から愛情を注いで貰いたいからになるわけだ。
 
「いま、結び方を覚えているところだよ。もう少し待っててね」

 覚えなくていいけど。
 待ってもないけど。

「勇者さまってムチで叩かれたことあるの?」

 にっこりと、小首を傾げて愛里は訊ねた。素朴だ。

「いいや、ないけど」

「じゃ、今度あたしが勇者さまを縛って叩いてあげるね。ロウソクを垂らすと凄いんだってー♪」

 表情に嫌らしさの欠片もないが、言っていることはハードSM。

「どど、どうかな……。熱いだけだと思うけど……」

 小学4年生に調教されてしまうのか僕は。

「大丈夫だよー。最初だけだってセナお姉ちゃんが言ってたよ。じきに気持よくなるって」

 セナさん、頼むから小学生につまらんエロ学を教えないでっ!
 マジで僕が開発されたらどうすんだよ。
 
「あの、もしかしてだけど、SM本を読んだ?」

「ううん。まだ。ミッチェルさんが買ってくれないの。18禁だとかで」

 そりゃそうだ。

「あたしも早く大人になりたいなぁ」
 
 子供に訊ねた《早く大人になりたい》理由ランキング・ワースト1位だろうな。

 しかし、どんどんコアな道に進んでいるぞ。何にも知らないのに、どうしてこう奇行系に興味が向くのだろうか。
 愛里の感覚と一言で終わらせるには何かが、僕のまだ知らない何かがきっと愛里にはある。

「でも、まさかと思うけど……、いま言った事は誰にも話してないよね」

「うーん。……どうだったかなー」

 おいおい。

「あっ、恋愛賢者の美咲ちゃんに、ちょっとだけ自慢した」

 自慢になるんだ。

「お友だち?」

「うん同じクラスの子だよ」

 まずいな。

「ダメだった?」
 
「うーん……。ちょっと、危険だと思うよ」

 愛里が、きょとんとした。

「どうして? 美咲ちゃんはあたしの親友だよー。口はかたいよ。誰にも言わないでって言っといたよ」

 分かってないのだ。もし世間に知れたら、あいりんの全てが終ることを。

「いいかい愛里ちゃん。もう絶対に誰にも言っちゃダメだからね」

 うん……、と一応頷いた愛里は小さな口を尖らせて俯く。不満なんだな。

「勇者さまも、ママと同じことを言うんですね……」

「い、いや、そうじゃないよ。監督との約束だから。僕は素晴らしいと思うけど……」 
 
「素晴らしい……」

 愛里がキラキラ瞳を輝かせ始めた。

「やっぱり山柿さんはあたしの勇者さまーっ」

 凄い感激しているぞ。
 お盆にセミ部屋で愛里の感性を褒めた時もそうだった。嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねて、押入れの恐怖グッズをお披露目してくれた。

「素晴らしいって言ってくれるのは勇者さまくらい……」

 僕くらい?
 
「誰かに愛里ちゃんの部屋を見せたことはないの?」

「……うん。まだない。ママに言われているから仕方なく内緒にしているの」

 そうなのか。
 僕はてっきり友だちに見られて酷い事を言われた経験があったのかと思っていた。

「でもね。どうしてセミさんをお部屋に飾ったらダメなのかな? どうしてあたしが好きなことを隠さないといけないのかな?」

「隠さないと……」

 隠さないとあいりんが終る――。
 バカにされるだろう。気持ち悪がられるだろう。誰も近寄ってこなくなるだろう。この怖い顔で悩んでいた僕より、遥かに大きな悩みを抱えるだろう。
 だからだ――。
 そうだからだ。
 まだ幼い愛里に打ち明けるのは、余りにも気の毒で不憫で。
 だけどそれが現実。悲しいけど、それが事実なんだ。

 でも愛里なら、
 強い愛里なら――。

「隠さないと……」

「うん……」

「……、殆どの人は……あの部屋を気持ち悪いと思う。愛里ちゃんの好きな事や物も……気持ち悪いと思う。隠さないと、愛里ちゃんを気持ち悪いと思う。……何にも悪いことしてないのに気持ち悪いと思う」

 愛里は弁当のおかずを箸でつまんで口に入れた。
 もぐもぐもぐもぐ……。
 黙って、静かに、少し物悲しそうに咀嚼した。

 言うべきじゃなかった――。
 親でもないのに、兄でもないのに。

「ごめんね……山柿お兄ちゃん……」

「え?」

 なんで謝る。
 僕こそ、後悔していた。現実だからって。

「言い難かったでしょ。辛かったでしょ?」

 いや……まさか、そんな……。
 だったら愛里は。
 
「分かってた……?」 

「うん……知ってた。気付いてたよ。
 ママや兄さんが、愛里のことを気持ち悪いと思っているの」

 やっぱり、自覚していた……。

 僕が今ごろ気付いたように思うかもしれないが、愛里部屋を見たあの日から薄々感じていた。
 だって、愛里がいきなりあの部屋を作り上げたわけじゃなく、過去から、それこそ父親が生きていた頃からの影響で、今の愛里の感性が出来上がりあの部屋に至ったわけで、そう考えれば愛里が一番辛かったのは他人の声じゃなく、一番長い時間を共に過ごしてきた肉親からの視線なのだと思う。
 岩田や監督が露骨に毛嫌いするわけないが、ちょっとした言葉や態度の端々に考えていることは現れるものだし、岩田家に他人を招かないルールも、別の理由をつけて愛里に説明しているようだが、小学生が感じ取っていても不思議じゃない。

 知っていたのだ愛里は。
 セミ部屋の作成に参加した兄の苦しい気持ちも。 

 大変な娘に育ったものだ――、
 こんな娘でも、せめて家の中ではやりたいようにさせたい――、
 出来上がった部屋を褒める母親の落胆の声も。  
 
「でもね、それでも良いよあたし」

 なんか、泣きそうになる。
 自分の感性は、どうしょうもできない。好きなものを嫌いな振りして生きていくのは辛い。
 だけど、だからといって愛里の全てを公表してしまって、周囲から変人扱いされるくらいなら、やっぱり隠し続けたほうが……。今やっている監督のやり方のほうが……。

「僕は愛里ちゃんが苦しむのは見たくないよ」

「ううん……あたし平気。ぜんぜん大丈夫♪」

 僕がこの顔でどれほど悩んでいたかを、愛里は知らない。
 分かってないんだ。周囲の視線がどれほど辛いかを。
 同じことを愛里に体験させたくはない。

「勇者さまがあの部屋を良いって言ってくれたから、勇者さまが凄いって褒めてくれたから、それでじゅうぶん。勇者さまさえ、あたしを分かってくれたら、周りからなにを言われても大丈夫です」

 愛里は眼を弧にして微笑んだ。すがるような表情だった。

 勇者さまさえ分かってくれたら――。

 僕なんか……。

 嬉しいけど、――心苦しい。
 それは僕が愛里を騙しているから。
 迂闊だったと思う。あのセミ部屋で愛里の不安そうな顔をみていると、素晴らしいと褒めずにはいられなかった。本心を出さないのが愛里の為だと、優しさだと勘違いしていた。だから凄いと絶賛してしまった。その場しのぎの無責任な言葉だ。
 それを愛里は僕の本心だと思い込んでしまっている。 
 僕は岩田や監督と同じ偽善者だ。 
 愛里が僕の本意を知ったら、きっと悲しむ。
 ああ……。

 ◆

 ◆

 僕の両親は、成長するにつれて怖い顔に変貌していく僕を晒そうとした。
 隠そうとはせず、どんどんお使いに行かせ、僕がマスクをして外出しようとすると引っぺがし、例え女の子が気絶しても『大変だったわね~♪』と笑って終わりだった。
『何事も経験よ』
『あなたを知って貰えばいいのよ』
 僕が落ち込んでいると、この2つが母さんの笑顔に添えての返事だった。


 ――僕が愛里に出来ることはなんだろうか。  

『あら、電話なんて珍しい。どうしたのさとし

「いや、じつはね母さん。大切な人趣味というか感性が変わっていてね、それを隠したままで生活するかどうかで、悩んでいるんだけど」

『あー、なんだか昔の聖を思いだすわね。心配だったわ母さんも』

 母さんたちも僕の顔のことで悩んでくれていたのか?

「そんな風には見えなかったけどなー」

『バカね。親が一緒になって落ち込んでどうすんのよ!』

「そ、そうか……」

 僕が苦しんでいたときに、母さんはあっけらかんとしていたけど、明るく振る舞っていたけど、本当は僕が心配でならなかったんだ。

『で、その人は女の子?』

「えっ? ど、どうでもいいじゃないか! それよりどうなんだよ、やっぱり傷つくから、隠したままがいいかな?」

『バカね。公表するのよ』

 やっぱり……。

「でも、批判されて……ショックが大きいかも……」

『当たり前じゃない。だから貴方が側にいるんじゃないの?』

「えっ?」

『大切な人なんでしょ』

「そうだけど」

『他人から受けるショックよりも、身近な人にちゃんと信じて貰えるだけで、頑張れるものよ。強くなれるものよ』

 母さんらしい。

「……そうだね……」

『母さんは、貴方の顔が大好きよ。世界中の女性が貴方の顔が怖くて気絶しても、母さんだけは大丈夫。貴方が批判されても、母さんだけは賞賛よ。それで良いじゃない』

「うん」

 そうだ。そうだね。
 
『貴方は貴方なんだから、堂々と生きればいいんじゃないの? 他人から叫ばれて、心が強くなれば良いじゃない。何事も経験よ。あなたを知って貰えばいいのよ』

 あれ……、いつの間にか、僕のことになっている。
 それだけ母さんが僕を心配してくれているということだろう。

『今度いつ帰ってくるの? 冬休みはいつからなの? 変な女には注意するのよ』

「あー、また電話するから、じゃーね!」

 話が長くなりそうだったので、電話を切った。
 
 ありがとう母さん……。

 本当の愛里を公表するように、監督に頼んでみるよ。



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