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☆A∨撮影
しおりを挟む6回生を返り討ちにした別人格の愛里を、どう例えればいいか、取り敢えず愛里マークⅡと呼ぼうか。
その愛里マークⅡの疑問が解けないまま夏休みになった。
夏休み。
岩田監督との約束のA∨《キノコの旅》の本格的に撮影が始まった。いや、結果的には僕の約束は守れなかった。
「ダメですよ監督~っ! コイツ肝心な場面になると全然役立たずだもん」
大阪TJスタジオから少し離れた場所に建てられた大阪TJA∨スタジオは、岩田監督の作品を中心に数多くのアダルト作品を作成している。その撮影の一室は、スタッフが特別に作り上げた架空の世界に仕上がっていた。
キノコの着ぐるみを着た僕がおちんちんだけ露出して、A∨女優と濡れ場撮影なのだが――――、
正直無理なのだった。
ピクリとも反応しないのだった。
もちろん下半身。息子のことだ。
3台のカメラが向けられ、たくさんのスタッフに見られ、ガチガチに緊張してしまっているのだ。おちんちん以外。
僕が童貞だから始めてだから、女性のアレを、生アレを、モザイク無しのアレを目前にして、それどころではないのだった。
休憩をはさんでもみた。別室で一人になり心を落ち着かせる。
セナさんが優しく協力をしてくれたのだけど、まったくふにゃふにゃ状態。
こんなだったら、あの時……セナさんがホテルに誘ってくれた時、ちゃんと教えて貰っておけばよかった。
僕が経験していれば、こんな事体にはならなかった……たぶん。
「ED薬を投与してみるか? 無理にとはいわないが……」
様子を見に来た監督がスタッフに呟いた。
そうですね。と納得したスタッフが僕の側へと歩み寄る。
「あ、いや、待て……。……他の役者で撮影する。茂木は控えているのだろう」
「はい」
「やつで妥協だ」
インポテンス治療薬として有名なED薬は、強制的にマックス君になる便利な薬だけど、副作用もあるらしい。そこまで素人にさせるのはどうかと考えたのだろう。
だけど……。
「あの……監督。構いません僕は。薬でもなんでもいいので、注射してください」
スタッフと変更の打ち合わせをしている監督が振り返った。そして、
「うむ……、坂本氷魔よ、そのやる気だけで結構だ。キミの頑張りは別の作品で見させてもらう」
とさっぱり分からないことを言い、打ち合わせに戻った。
別の作品って……これがダメなら別のに出演させるつもり?
A∨は全般的にダメなような気がする。期待してもらって、監督に悪い気分だ。スタッフにも迷惑をかけている。
現場のことは何も分からない僕だけど、今日の予定が狂ってしまったことくらいは分かる。
申しわけない。本当に申しわけない。
セナさんが僕の肩を叩いた。
「あんたデリケートなのねー。まーしゃーないけど。クソ真面目な坂本くん! カッカッカッ!!」
笑ってくれた。笑い飛ばしてくれた。
ありがとう。嬉しい。
愛里マークⅡの騒ぎがあった翌日にセナさんからメールが届いた。
『悪かったわね。だけどウチはあんたを諦めないから。相手が日本一可愛い子でも負けないからね』
その文面の通り、以前にも増してセナさんは僕の世話を焼くようになった。
今も自分の出番じゃないのに、僕の撮影に付きっ切りだ。
「あっそうだ。もしかしたら……」
セナさんはバッグからスマホを取り出し、「これはどうかな~? まさかね」と苦笑いしながら僕に向ける液晶画面には、愛里の下着姿が映し出されていた。
腰まである長く艷やかな黒髪が、雪のような白い身体を更に引き立たせ――、まるで妖精。
しかも可愛いパンツを穿いているだけ。
上半身裸だから、ペッタンコの胸が丸見えなのだ。『お姉ちゃん、どうしたの?』なんて可愛く小首を傾げている。
なんという無防備。いや、同性のセナさんだから、そうなのだろうけど……。
しかし、これって……トキメキTVの衣装に着替えてる最中に撮影したものじゃないのか?
愛里の控え室に自由に出入りできるセナさんだからなせる技だ。
「や、止めてくださいっ!!」
スマホを手ではらったが、セナさんはニヤニヤしながら僕を見ている。僕が嫌がるのが面白いのだろう、性格悪いな。
「ちょっと目を逸らしちゃダメ! 遊びじゃないんだから。おちんちんを元気にさせる為! そうでしょう監督!」
汚れない妖精のような愛里、その愛里の写真を僕のきかん坊をマックス君にする為に使うだって??
バチが当たるだろう。悪ふざけにしても質(たち)が悪い。
それに僕は少女の裸に興味はない。愛里は好きだけど、ロリコンでは断じてない。
「監督の前で、愛里ちゃんの裸を見るのは不謹慎だろう。破廉恥だろう」
「なにバカなこと言ってんのよ! アンタがこれからするのが、その破廉恥行為の極めA∨じゃない! ほら、監督だってOKだしているじゃない。ほらほらほらーっ」
監は頷き苦笑だ。
「わかった……。だけど見せても無駄だ。全く無駄だ。逆に心が浄化されるくらいだ」
「はいはい。いやらしいと思わないんだったら、見たってなんともないでしょう」
「もちろん! どうせ見たって何が変わ――――」
眼に入れた愛里のセミヌード。
一瞬で全身に鳥肌が立つた。どっくんどっくんどっくん、と血が逆流した。
「……、……あ」
「ふーん。……なにこれ……。プロがあらゆる手段を使っても反応しなかったのに、小学生の画像だけで、こんなんなっちゃって……。逆に引くわ。マジ腹が立つわね」
レベルマックス。完璧だった。
返す言葉がない。それは分かる。
でもどうしてこうなってしまうのか、自分でも分からない。恥ずかしいやら、情けないやら。顔面が急激に熱くなった。
「どこが良いの? 訊くまでもないか……。やっぱ愛里ちゃんだもんねー」
「よし! じゃ急いで撮影だ!」「はい!」
スタッフさんたちは笑いを堪えながら撮影準備に取り掛かった。しかし、立って少し歩くと萎えた。レベル1に後退した。
「あらまー! じゃー待ってよ~。はいはい」
セナさんが愛里画像を僕の目の前に出した。
「おーっ! 分かりやすーい! このまま、そーっと、はい、こっちこっち~」
即マックスになった僕をスマホ片手に、撮影場所まで誘導する。まるでニンジンを鼻先にぶら下げられた馬状態だ。
「そのまま前進前進、そのまま~。いい子ね。大きいままでいてね~。女優さんスタンバってーっ!」
なんとか女優さんの側まで来た僕は、真横に座る。即座にカメラが回りだし演技が始まった。
数行のセリフを交わしつつ、身体が触れようとしたその瞬間。
「なんで、あたしだと萎えるのよー!」
「……、……すす、すいません……」
愛里が見えなくなるとレベル1。
「なんだ、これ?」
スタッフ一同、おかしいけど笑うわけにもゆかない。どうする?
女優さんの顔に愛里の裸写真を貼り付けてヤルわけにもいかない。
不思議なモノだなあ、と上下する我が息子を見下ろした。
結局、僕はカラミの無い悪の組織のボス役で参加をし、僕の代役はプロのA∨男優が務めることとなった。
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