上 下
122 / 221

★バレちゃったイタズラ

しおりを挟む

 賑やかな昼食が終わり、午後からの収録までまだ少し時間があります。
 勇者さまともっとお話がしたかったのですが、兄さんと綾部さんに重大な話しがあるからと連れてゆかれ、残されたあたしは仕方なくセナお姉ちゃんと一緒に控室に戻りました。
 ママは「仕事がちょっとある。すぐ戻るから」と何処かに行っちゃいました。
 
 衣装部屋のロボちゃんはあのままかな~。
 ぴくぴくしたままかな~。勇者さまはお話ししているから、まだ予備カバーを被せてないでしょうね。
 ママが衣装部屋に行かなければ良いけど。
 ああ……。 

「キノコちゃん大丈夫かなあ~」

「……キノコ?」

 うっかり呟いてしまったセリフに、セナお姉ちゃんがビクンと振り向きました。

「なになになに、キノコちゃんってなに? 詳しく教えてよ愛里ちゃん」

 ニコニコと興味深く、まるであたしの衣装部屋でのイタズラを知っているようにも思えます。
 そこまででなくとも、探していたキノコカバーに予想外な人物が関わっていたからでしょうか。
 ――キノコロボのことは誰にも言わない――、そう勇者さま(うさぎさん)と約束しちゃったのに、ああどうしよう……。

「えっと、あのぉ……」

「昼食前に衣装部屋で見たんじゃない? どう?」

「あの……」

 広島に来たときは必ずあたしがリクエストしたお土産を買ってきてくれるセナお姉ちゃん。
 一緒に虫取りだってしてくれる優しい人。
 だから、出来るならウソは言いたくない。
 でも、勇者さまと……。
 あたしが困り果てていると、「そう……何かあるのね……。でも大丈夫よ、秘密は守るから、キノコちゃんのこと詳しく教えてくれない?」そう優しく頭をなでなでしました。
 
 ――秘密は守る――。
 セナお姉ちゃんだったら間違いないでしょう……、だけど、だけど、それでもやっぱり、勇者さまとの約束が……。
 
「もしかしてコレのことじゃないかしら?」

 ハンドバッグから取り出し、見せてくれたのは――。

「ああ――っ!! そそ、それっ??」 

 タオルハンカチ――いえいえ、違う。キノコレバーにかぶさっていたカバーです。 

「なんだー。やっぱりそうなのね。実は坂本くんに頼まれて持ってたんだけど」

 やってしまいました。
 知らないフリしていたら誤魔化せたかもですが、もうこうなっては遅いわけで。 
 でも……なんだー。
 勇者さまの頼みで予備のカバーを持ってきたのですね。
 ついさっきの出来事なのに、もう彼女さんまで話しが伝わっている。
 もちろんあたしの事は伏せてくれてるでしょうけれど、2人の仲が良いのを改めて見せられたわけでなんだか微妙な気持ち。

「ありがとう……お姉ちゃんが持って来てくれたんですね」

「え? ……あ、そうね……そう。うん」

「そうだったんですね」

「やっぱりさっき衣装部屋に入ったのね愛里ちゃん」

 もう隠し通せません。

「あ、はい」

「ウチらが出た後でしょ」

「……うん」

「そっか――っ! そうかそうかーっ! それでキノコを見たんだ。
 でも、これってキノコの……その……『アレ』でしょ。取れちゃった……ってわけ?」

 やっぱり勇者さまは単にカバーが無くなったとしか言ってなかったのですね。

「ご、ごめんなさい……。ついお姉ちゃんたちの後をつけて、居なくなった隙にこっそり衣装部屋に入ったの。
 それでね。キノコロボが凄く可愛かったから、つい抱きついたり、すりすりしたりしてたら、ロボのレバーが動いちゃって」

「えっ? キノコ……ロボ?」

 なにかマズいことでも言ったでしょうか、少し驚いたセナお姉ちゃんは大きな瞳をくりくりさせます。

「はい。キノコロボちゃん。あたしが知らず知らずにロボちゃんの身体の何処かにあるボタンを押しちゃったんだと思うんです。だからレバーが上がっちゃって。戻そうといろいろ触ったんですが、どんどん熱く硬くなるし、ぴくぴくするだけで…………あれ、お姉ちゃん? セナお姉ちゃんどうしたんですかー?」 

 ぽけーっとしていたお姉ちゃんが、お顔を振ってから嬉しそうにしました。

「そうかーっ。ロボちゃんのレバーがびくんびくんしたのかーっ!」

 びくんびくん? 
 ちょっと違うけど、まあいいけど。

「触ったんだー」

「うん。塩っぱかった」

「な、舐めちゃったの――っ!!」

「そうだけど……だめだったの?」

「あ、いや……そうじゃないんだけど。いや~」

 最後に白いノリみたいなのが吹き出さなかった? とお姉ちゃん嬉しそうに言うので、そんなのは出なかったと答えました。

「そっかー。カルピスみたいなのが出るんだけどな」

 カルピス!!!
 あたしの大好物です。
 いつもあのどろどろの原液を直接ぺろぺろしちゃいたいと思っていますが、勿体無いのとママにレディのする事じゃないと注意されそうで我慢しています。ロボちゃんがカルピスも蓄えているとは、流石はハイテクロボ。今度会ったら出るまで頑張ってみようかな。

「愛里ちゃん愛里ちゃん。よかったらそのロボちゃんのこと、もっと詳しく教えてくれない? お姉ちゃん知りたいなあ~」

「あ、いいですけど……?」

 ロボちゃんのレバーをどうしたのかとか、『うっ』とか『あっ』とか機械音は無かったかとか訊ねられました。
 正直に話しているとママがやってきました。

「監督監督、実はですね~」

 すぐにママに耳打ちするセナお姉ちゃんは、「大丈夫だから」とあたしにウインク。

 本当に大丈夫かな~。
 撮影で使う大切なお道具、それも人工知能搭載のハイテクロボを勝手にイタズラしちゃったんですもん、怒られて当然。
 ママのお顔が子鬼に変わるかもとドキドキしつつ見上げていると、「ほう……。なるほど……愛ちゃんがな……」と深く頷いたり口元を緩めたり、怒っていると言うより喜んでいるようです。
 はて、何処に面白い場面があったでしょうか。
 ついに「くくく……」とママがツボに入った時の笑い声まで漏らしているので、きっと大人にしか分からないシュールな面白さなのでしょう。
 ひと通り話しを聞き終わり。

「愛ちゃん。反省しているようだから、もう何も言わないわ。だけど何処が悪かったか、ちゃんと分かっているかしら?」

「え? えっと……ロボちゃんにイタズラしちゃったこと……です」

「違うわ」

「あれ?」

「悪いのは2つだけ。
 1つ目は、衣装部屋に黙って勝手に入ったこと。
 衣装部屋が他人の家だと考えてみなさい。愛ちゃんのやった事は泥棒と同じ。
 2つ目は、収録を放ったらかして⑥スタジオを離れたこと。
 約束を破った事になるわね。つまり嘘つき。
 キノコにいろいろした事は、大したことじゃないわ。そうねえ~、もしママやセナだったら、あんなもんでは済ませないわ。もっともっと凄い事をしているわね……くくく……」

「ですよね――っ。監督!」

 ママとセナお姉ちゃんは楽しそうです。

「愛ちゃん。立派なレディだったら、どうするのか? あなたはもうアイドル。子供だけどレディなんだと思って、信頼を失うような行為をしてはダメ。分かったかしら?」

「はい……ごめんなさい」

「OKよ。事情は分かったからもう悩まないで。あなたはトキメキTVの収録に集中しなければいけないわ」

「はい。ママ」

 ママが許してくれました。
 よかったよかった。

「しかし……そうか、レバーか。なるほどなあ~」

「受け取りかたが様々ですねー監督」

 ママとセナお姉ちゃんが向かい合って、なんだろう感心しているみたいですけど、はて?

「知識が無いからこそ起こる展開だな。うーむ……」

「あっ! 何か閃きましたか?」

「無知シーンから派生する作品はどうかと……」

「無知なキャラ設定でのA∨ですか?」 

「うむ。現存作品では、ほとんど扱ってないし、あっても良作はまだない。
 どうしても幼女を対象にした後味の悪い陵辱物にかたよるからだ。
 根本の発想を変えればコミカル風でもイケるな……。
 それに無知のまま徐々に快楽に溺れる、拒否からの合意物もアリだ。次回作のアイデアに組み込もう」

「無知A∨ですか。凄いですねー。新しいA∨ジャンルが出来たりして」

 なんのことやらさっぱり分かりません。
 午後の収録が始まるとスタッフの方が来たので、ママとセナお姉ちゃんを控室に残して⑥スタジオに向かいました。





しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...