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★バレちゃったイタズラ
しおりを挟む賑やかな昼食が終わり、午後からの収録までまだ少し時間があります。
勇者さまともっとお話がしたかったのですが、兄さんと綾部さんに重大な話しがあるからと連れてゆかれ、残されたあたしは仕方なくセナお姉ちゃんと一緒に控室に戻りました。
ママは「仕事がちょっとある。すぐ戻るから」と何処かに行っちゃいました。
衣装部屋のロボちゃんはあのままかな~。
ぴくぴくしたままかな~。勇者さまはお話ししているから、まだ予備カバーを被せてないでしょうね。
ママが衣装部屋に行かなければ良いけど。
ああ……。
「キノコちゃん大丈夫かなあ~」
「……キノコ?」
うっかり呟いてしまったセリフに、セナお姉ちゃんがビクンと振り向きました。
「なになになに、キノコちゃんってなに? 詳しく教えてよ愛里ちゃん」
ニコニコと興味深く、まるであたしの衣装部屋でのイタズラを知っているようにも思えます。
そこまででなくとも、探していたキノコカバーに予想外な人物が関わっていたからでしょうか。
――キノコロボのことは誰にも言わない――、そう勇者さま(うさぎさん)と約束しちゃったのに、ああどうしよう……。
「えっと、あのぉ……」
「昼食前に衣装部屋で見たんじゃない? どう?」
「あの……」
広島に来たときは必ずあたしがリクエストしたお土産を買ってきてくれるセナお姉ちゃん。
一緒に虫取りだってしてくれる優しい人。
だから、出来るならウソは言いたくない。
でも、勇者さまと……。
あたしが困り果てていると、「そう……何かあるのね……。でも大丈夫よ、秘密は守るから、キノコちゃんのこと詳しく教えてくれない?」そう優しく頭をなでなでしました。
――秘密は守る――。
セナお姉ちゃんだったら間違いないでしょう……、だけど、だけど、それでもやっぱり、勇者さまとの約束が……。
「もしかしてコレのことじゃないかしら?」
ハンドバッグから取り出し、見せてくれたのは――。
「ああ――っ!! そそ、それっ??」
タオルハンカチ――いえいえ、違う。キノコレバーにかぶさっていたカバーです。
「なんだー。やっぱりそうなのね。実は坂本くんに頼まれて持ってたんだけど」
やってしまいました。
知らないフリしていたら誤魔化せたかもですが、もうこうなっては遅いわけで。
でも……なんだー。
勇者さまの頼みで予備のカバーを持ってきたのですね。
ついさっきの出来事なのに、もう彼女さんまで話しが伝わっている。
もちろんあたしの事は伏せてくれてるでしょうけれど、2人の仲が良いのを改めて見せられたわけでなんだか微妙な気持ち。
「ありがとう……お姉ちゃんが持って来てくれたんですね」
「え? ……あ、そうね……そう。うん」
「そうだったんですね」
「やっぱりさっき衣装部屋に入ったのね愛里ちゃん」
もう隠し通せません。
「あ、はい」
「ウチらが出た後でしょ」
「……うん」
「そっか――っ! そうかそうかーっ! それでキノコを見たんだ。
でも、これってキノコの……その……『アレ』でしょ。取れちゃった……ってわけ?」
やっぱり勇者さまは単にカバーが無くなったとしか言ってなかったのですね。
「ご、ごめんなさい……。ついお姉ちゃんたちの後をつけて、居なくなった隙にこっそり衣装部屋に入ったの。
それでね。キノコロボが凄く可愛かったから、つい抱きついたり、すりすりしたりしてたら、ロボのレバーが動いちゃって」
「えっ? キノコ……ロボ?」
なにかマズいことでも言ったでしょうか、少し驚いたセナお姉ちゃんは大きな瞳をくりくりさせます。
「はい。キノコロボちゃん。あたしが知らず知らずにロボちゃんの身体の何処かにあるボタンを押しちゃったんだと思うんです。だからレバーが上がっちゃって。戻そうといろいろ触ったんですが、どんどん熱く硬くなるし、ぴくぴくするだけで…………あれ、お姉ちゃん? セナお姉ちゃんどうしたんですかー?」
ぽけーっとしていたお姉ちゃんが、お顔を振ってから嬉しそうにしました。
「そうかーっ。ロボちゃんのレバーがびくんびくんしたのかーっ!」
びくんびくん?
ちょっと違うけど、まあいいけど。
「触ったんだー」
「うん。塩っぱかった」
「な、舐めちゃったの――っ!!」
「そうだけど……だめだったの?」
「あ、いや……そうじゃないんだけど。いや~」
最後に白いノリみたいなのが吹き出さなかった? とお姉ちゃん嬉しそうに言うので、そんなのは出なかったと答えました。
「そっかー。カルピスみたいなのが出るんだけどな」
カルピス!!!
あたしの大好物です。
いつもあのどろどろの原液を直接ぺろぺろしちゃいたいと思っていますが、勿体無いのとママにレディのする事じゃないと注意されそうで我慢しています。ロボちゃんがカルピスも蓄えているとは、流石はハイテクロボ。今度会ったら出るまで頑張ってみようかな。
「愛里ちゃん愛里ちゃん。よかったらそのロボちゃんのこと、もっと詳しく教えてくれない? お姉ちゃん知りたいなあ~」
「あ、いいですけど……?」
ロボちゃんのレバーをどうしたのかとか、『うっ』とか『あっ』とか機械音は無かったかとか訊ねられました。
正直に話しているとママがやってきました。
「監督監督、実はですね~」
すぐにママに耳打ちするセナお姉ちゃんは、「大丈夫だから」とあたしにウインク。
本当に大丈夫かな~。
撮影で使う大切なお道具、それも人工知能搭載のハイテクロボを勝手にイタズラしちゃったんですもん、怒られて当然。
ママのお顔が子鬼に変わるかもとドキドキしつつ見上げていると、「ほう……。なるほど……愛ちゃんがな……」と深く頷いたり口元を緩めたり、怒っていると言うより喜んでいるようです。
はて、何処に面白い場面があったでしょうか。
ついに「くくく……」とママがツボに入った時の笑い声まで漏らしているので、きっと大人にしか分からないシュールな面白さなのでしょう。
ひと通り話しを聞き終わり。
「愛ちゃん。反省しているようだから、もう何も言わないわ。だけど何処が悪かったか、ちゃんと分かっているかしら?」
「え? えっと……ロボちゃんにイタズラしちゃったこと……です」
「違うわ」
「あれ?」
「悪いのは2つだけ。
1つ目は、衣装部屋に黙って勝手に入ったこと。
衣装部屋が他人の家だと考えてみなさい。愛ちゃんのやった事は泥棒と同じ。
2つ目は、収録を放ったらかして⑥スタジオを離れたこと。
約束を破った事になるわね。つまり嘘つき。
キノコにいろいろした事は、大したことじゃないわ。そうねえ~、もしママやセナだったら、あんなもんでは済ませないわ。もっともっと凄い事をしているわね……くくく……」
「ですよね――っ。監督!」
ママとセナお姉ちゃんは楽しそうです。
「愛ちゃん。立派なレディだったら、どうするのか? あなたはもうアイドル。子供だけどレディなんだと思って、信頼を失うような行為をしてはダメ。分かったかしら?」
「はい……ごめんなさい」
「OKよ。事情は分かったからもう悩まないで。あなたはトキメキTVの収録に集中しなければいけないわ」
「はい。ママ」
ママが許してくれました。
よかったよかった。
「しかし……そうか、レバーか。なるほどなあ~」
「受け取りかたが様々ですねー監督」
ママとセナお姉ちゃんが向かい合って、なんだろう感心しているみたいですけど、はて?
「知識が無いからこそ起こる展開だな。うーむ……」
「あっ! 何か閃きましたか?」
「無知シーンから派生する作品はどうかと……」
「無知なキャラ設定でのA∨ですか?」
「うむ。現存作品では、ほとんど扱ってないし、あっても良作はまだない。
どうしても幼女を対象にした後味の悪い陵辱物にかたよるからだ。
根本の発想を変えればコミカル風でもイケるな……。
それに無知のまま徐々に快楽に溺れる、拒否からの合意物もアリだ。次回作のアイデアに組み込もう」
「無知A∨ですか。凄いですねー。新しいA∨ジャンルが出来たりして」
なんのことやらさっぱり分かりません。
午後の収録が始まるとスタッフの方が来たので、ママとセナお姉ちゃんを控室に残して⑥スタジオに向かいました。
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