上 下
121 / 221

★昼食で全員集合

しおりを挟む

 お腹ぺこぺこだけど、
 個性的なおじさまファンの方々にサインを書いて、ついでに大好きな虫たちも描いていたら寝てしまったあたし。
 気付いたらうさぎさん(セナお姉ちゃんの彼氏さん)の姿はもう何処にもなく、兄さんがおんぶしてくれていまいた。
 1階の食堂に入りテーブルに座りました。
 
「さー。なにを食べる? 母さんが来るまで悩んでてね」

「うん……」

 はっきりと目覚めていない頭ですが、例えようもない違和感がします。
 いるのです、勇者さまの彼女さんが。たしか綾部とかいう名前だったはず。
 ただいるだけなら良いでしょう。だけど兄さんの隣にちゃっかり座り、ニコニコ楽しそうに話しかけたり、兄さんが要らないと言うのに、変な理屈をつけてお水を進めたりしているじゃないですか。まるで世話女房です。
 この人はあの勇者さまに選ばれた、ラッキーな彼女さんではなかったのでしょうか?
 成りたくてもなれない彼女さん。
 
 彼氏以外の男性と会話をしてはダメという法律には無いでしょうけれど、勇者さまがいないのを良いことに、兄さんに浮気をしているみたいで、どうも嫌な感じなのです。

「愛ちゃん。お待たせーっ! お腹すいたでしょう」

 ママがセナお姉ちゃんを連れてやって来ました。 
 あたし、兄さん、彼女さんの順で横並びしているテーブルに、向かい合って座ります。

「打ち合わせが長引いちゃってね」

 勇者さまの彼女さんが、急に無口になり怒ったみたいな顔をしました。
 どうしちゃったのかしら?
 あっ、セナお姉ちゃんを睨んでいる。
 なんで?
 セナお姉ちゃんは、ニコニコしながら返しているけど……??

「建(けん)くん、こちらのお嬢さんは?」

「呉地道場の娘さんで、高校のとき同級生だった――」

「はじめまして、綾部トモコです。岩田くんにはいろいろお世話になっています」

「あぁ。キミが綾部さんか。建くんからよく聞いているよ」

「まあ! わ、私の話しをご家庭でっ!!」

「うむ。山柿くんの彼女だとか」

「えっ! ……ま、まあ……そ、そうですけど……」

 彼女さんは困ったようなお顔をして、ニヤニヤしているセナお姉ちゃんを恨めしく睨んでいます。
 はて?
 勇者さまの彼女さんって言われて困るような事があるのでしょうか。
 誇らしいと思うのですが……。
 
「久しぶりだねー建成! 元気しちょったかー?」

「はっ、はい! セナさんも元気そうでなにより……、……」

「そうかそうか。……ん、どうした? ウチの顔に何かついてるか」

「いいい、いえっ! べべ別になにも。ただ相変わらずお綺麗だなーと。……はい」

「あっはっはっ! 嬉しいこと言ってくれるなー。ありがと」

「い、いえ……」

 兄さんはセナお姉ちゃんの前ではいつもこう。別人みたい。
 じいーっとセナお姉ちゃんを見ては、目が合ったらワタワタとしちゃって緊張しているのがはっきりと分かる。
 やっぱりあくしょんばいおれんす女優は一般人と違います。
 ちょっと視線を向けるだけで、兄さんの落ち着きがなくなるのですから凄い。
 綾部とかいう彼女さんがムッとしています。横目で兄さんをじろじろ睨んでいますが、はて?
 
「そうそう。もっと綺麗なウチを観てみる? 今度新作出るよ。なんならDVD送るけど」

「えっ! ええっ。そ、そんなっ! 良いんですか!!」

「18歳になったんだからもうOKだよ。ねえ、監督っ!」

「場所を考えろ。愛ちゃんがいるんだぞ」

「そ、そうでした。すす、すいません監督……」

 なんなんでしょう。アニメのDVDは観たことはありますが、兄さんもまだ観たことがなく、18歳以上にならないと無理という厳しい縛りがあるDVD。
 A∨(あくしょんばいおれんす)女優の作品ですから過激なのは分かりますが視聴を制限するほどとは。
 どれほど過激なのか想像もつきません。

「どうだ? そろそろ何を食べるのか決めたらどうだ? 今日は私がおごろう。遠慮せず注文してくれたまえ」

「アザース! 監督。じゃーウチは『特上うな重』で!」

「ふっふっふ。だが遅いな坂本氷魔(さかもとひょうま)は」

「連絡はしたんですけど、着替えに手間取っているんでしょう。そろそろ……、あっ! 来ましたよ監督。噂をすればですね」

 セナお姉ちゃんが「お~い! こっちこっち」と手を上げると、坂本さんはぎこちなく口を開きました。
 ゴーグルみたいな大きなサングラスをしているのでお顔がよく分かりませんが、本当に勇者さまに似ておられます。
 テーブルを挟んであたしの前にはママ、セナお姉ちゃん、坂本さんの順で座りました。

「坂本氷魔……」

 兄さんがほつりと呟きました。

「そうだ坂本くん紹介しょう。この愛想悪いのが息子の建成(けんせい)、T大学生だ」

 紹介されたのに、なぜか兄さんはブスッとしたままで言いました。

「何をいている、何を……」

「いゃあ……。バイトで」

 坂本さんは苦笑いしています。

「ん? 2人とも知り合いなのか」

「こいつが俺の親友の山柿ですよ、母さん」

「ほう……。そうだったか」

「ええええ――――っ!!!」

「ど、どうしちゃったの愛里ちゃん??」

「あっ、いえっ。べべべ、別にっ!!」

 ままままさかの勇者さまっ! 似てる似てると思っていたけれど、やっぱりそうだったのですねーっ!!
 つまりあの優しいうさぎさんは勇者さま。あたしがキノコロボにイタズラしちゃって、レバーカバーまで無くしちゃったことまで相談した相手が勇者さま??
 知っていたなら、あんな相談をするんじゃなかったのに。
 やんちゃな子だなと、幻滅されたかも……。

 いえいえ、えっとえっと、待ってください……そんな事よりセナお姉ちゃんが、坂本さんを自分の恋人だと言ってましたけど。
 つまり勇者さまの恋人はセナお姉ちゃんなのっ! 
 いや、おかしいおかしい。もしそうだったら、あの綾部さんはなんなのでしょう……彼女じゃなかったの?
 確かさっきママが『綾部さんは山柿さんの彼女』と言っていたのを否定しなかった。
 あっ! 綾部さんが困ったようなお顔をしてセナお姉ちゃんを見ていた理由が分かりました。
 そうか、つまり、自分が真の彼女ではないからです。
 きっとセナお姉ちゃんが真の彼女で、綾部さんはその次の彼女、つまりナンバー2なのです。
 あの恨めしく睨んでいたのは、嫉妬。あくしょんばいおれんす女優に勝てるわけない、真の彼女になれない悔しさでヤキモチを焼いていたのです。
 あたしにとっても、意外な人が恋のライバルだったのでショックですけど。
 だけど本当に凄いのは勇者さま。
 その偉大な魅力で、セナお姉ちゃんと綾部さん2人も彼女――RPGでいうところの『パーティー』に加えていらっしゃるとはっ!!
 フィールド移動中の並びは、《勇者》《A∨(あくしょんばいおれんす)女優》《女子大生》でしょうか。
 最後尾でもいいから、ぜひあたしもパーティーに入りたいっ!
 だけどあたしは、彼女にも認定されていない単なる小学生。
 あぁ……。

「す、すいません監督。いつまでも隠しているつもりだったわけではないんですが――」

「あーいや、無用だ坂本くん。私は全く不快には思っていないよ。むしろキミが息子と親友でとても喜ばしいことだ」

「えっ?」

「キミの事は息子から聞いてよく知っている。いろいろあったようだが、その事に関しても不満はないよ。今まで通りに息子と仲良くしてくれ。トキメキTVのファン、あいりんのファンでいてくれ。そして私とも宜しく頼むよ」

「そんな……、あの……、す、すいませんでした。こここ、こちらこそ、本当にどうぞ宜しくお願いします」

 テーブル越しにママが手を差し出し、勇者さまがおずおずと握手。
 みんな驚いています。

 すごいすごい!! 
 勇者さまがママに気に入られてます。
 やった! これで遠慮せず勇者まさがあたしのお家に来れる。
 お誕生会だってクリスマス会だってお正月だって!

 






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ファーティング・マシーン

MEIRO
大衆娯楽
薄暗い明かりが照らすそこは、どこにでもあるような、ただのゲームセンターだった。その空間の奥には、謎の扉があり、その先へと進んでみれば、そこには――。人気のないその場所へ、本日も一人、足を踏み入れていく。※下品なお話ですので、タグをご確認のうえ、閲覧の方よろしくお願いいたします。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

処理中です...