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★昼食で全員集合
しおりを挟むお腹ぺこぺこだけど、
個性的なおじさまファンの方々にサインを書いて、ついでに大好きな虫たちも描いていたら寝てしまったあたし。
気付いたらうさぎさん(セナお姉ちゃんの彼氏さん)の姿はもう何処にもなく、兄さんがおんぶしてくれていまいた。
1階の食堂に入りテーブルに座りました。
「さー。なにを食べる? 母さんが来るまで悩んでてね」
「うん……」
はっきりと目覚めていない頭ですが、例えようもない違和感がします。
いるのです、勇者さまの彼女さんが。たしか綾部とかいう名前だったはず。
ただいるだけなら良いでしょう。だけど兄さんの隣にちゃっかり座り、ニコニコ楽しそうに話しかけたり、兄さんが要らないと言うのに、変な理屈をつけてお水を進めたりしているじゃないですか。まるで世話女房です。
この人はあの勇者さまに選ばれた、ラッキーな彼女さんではなかったのでしょうか?
成りたくてもなれない彼女さん。
彼氏以外の男性と会話をしてはダメという法律には無いでしょうけれど、勇者さまがいないのを良いことに、兄さんに浮気をしているみたいで、どうも嫌な感じなのです。
「愛ちゃん。お待たせーっ! お腹すいたでしょう」
ママがセナお姉ちゃんを連れてやって来ました。
あたし、兄さん、彼女さんの順で横並びしているテーブルに、向かい合って座ります。
「打ち合わせが長引いちゃってね」
勇者さまの彼女さんが、急に無口になり怒ったみたいな顔をしました。
どうしちゃったのかしら?
あっ、セナお姉ちゃんを睨んでいる。
なんで?
セナお姉ちゃんは、ニコニコしながら返しているけど……??
「建(けん)くん、こちらのお嬢さんは?」
「呉地道場の娘さんで、高校のとき同級生だった――」
「はじめまして、綾部トモコです。岩田くんにはいろいろお世話になっています」
「あぁ。キミが綾部さんか。建くんからよく聞いているよ」
「まあ! わ、私の話しをご家庭でっ!!」
「うむ。山柿くんの彼女だとか」
「えっ! ……ま、まあ……そ、そうですけど……」
彼女さんは困ったようなお顔をして、ニヤニヤしているセナお姉ちゃんを恨めしく睨んでいます。
はて?
勇者さまの彼女さんって言われて困るような事があるのでしょうか。
誇らしいと思うのですが……。
「久しぶりだねー建成! 元気しちょったかー?」
「はっ、はい! セナさんも元気そうでなにより……、……」
「そうかそうか。……ん、どうした? ウチの顔に何かついてるか」
「いいい、いえっ! べべ別になにも。ただ相変わらずお綺麗だなーと。……はい」
「あっはっはっ! 嬉しいこと言ってくれるなー。ありがと」
「い、いえ……」
兄さんはセナお姉ちゃんの前ではいつもこう。別人みたい。
じいーっとセナお姉ちゃんを見ては、目が合ったらワタワタとしちゃって緊張しているのがはっきりと分かる。
やっぱりあくしょんばいおれんす女優は一般人と違います。
ちょっと視線を向けるだけで、兄さんの落ち着きがなくなるのですから凄い。
綾部とかいう彼女さんがムッとしています。横目で兄さんをじろじろ睨んでいますが、はて?
「そうそう。もっと綺麗なウチを観てみる? 今度新作出るよ。なんならDVD送るけど」
「えっ! ええっ。そ、そんなっ! 良いんですか!!」
「18歳になったんだからもうOKだよ。ねえ、監督っ!」
「場所を考えろ。愛ちゃんがいるんだぞ」
「そ、そうでした。すす、すいません監督……」
なんなんでしょう。アニメのDVDは観たことはありますが、兄さんもまだ観たことがなく、18歳以上にならないと無理という厳しい縛りがあるDVD。
A∨(あくしょんばいおれんす)女優の作品ですから過激なのは分かりますが視聴を制限するほどとは。
どれほど過激なのか想像もつきません。
「どうだ? そろそろ何を食べるのか決めたらどうだ? 今日は私がおごろう。遠慮せず注文してくれたまえ」
「アザース! 監督。じゃーウチは『特上うな重』で!」
「ふっふっふ。だが遅いな坂本氷魔(さかもとひょうま)は」
「連絡はしたんですけど、着替えに手間取っているんでしょう。そろそろ……、あっ! 来ましたよ監督。噂をすればですね」
セナお姉ちゃんが「お~い! こっちこっち」と手を上げると、坂本さんはぎこちなく口を開きました。
ゴーグルみたいな大きなサングラスをしているのでお顔がよく分かりませんが、本当に勇者さまに似ておられます。
テーブルを挟んであたしの前にはママ、セナお姉ちゃん、坂本さんの順で座りました。
「坂本氷魔……」
兄さんがほつりと呟きました。
「そうだ坂本くん紹介しょう。この愛想悪いのが息子の建成(けんせい)、T大学生だ」
紹介されたのに、なぜか兄さんはブスッとしたままで言いました。
「何をいている、何を……」
「いゃあ……。バイトで」
坂本さんは苦笑いしています。
「ん? 2人とも知り合いなのか」
「こいつが俺の親友の山柿ですよ、母さん」
「ほう……。そうだったか」
「ええええ――――っ!!!」
「ど、どうしちゃったの愛里ちゃん??」
「あっ、いえっ。べべべ、別にっ!!」
ままままさかの勇者さまっ! 似てる似てると思っていたけれど、やっぱりそうだったのですねーっ!!
つまりあの優しいうさぎさんは勇者さま。あたしがキノコロボにイタズラしちゃって、レバーカバーまで無くしちゃったことまで相談した相手が勇者さま??
知っていたなら、あんな相談をするんじゃなかったのに。
やんちゃな子だなと、幻滅されたかも……。
いえいえ、えっとえっと、待ってください……そんな事よりセナお姉ちゃんが、坂本さんを自分の恋人だと言ってましたけど。
つまり勇者さまの恋人はセナお姉ちゃんなのっ!
いや、おかしいおかしい。もしそうだったら、あの綾部さんはなんなのでしょう……彼女じゃなかったの?
確かさっきママが『綾部さんは山柿さんの彼女』と言っていたのを否定しなかった。
あっ! 綾部さんが困ったようなお顔をしてセナお姉ちゃんを見ていた理由が分かりました。
そうか、つまり、自分が真の彼女ではないからです。
きっとセナお姉ちゃんが真の彼女で、綾部さんはその次の彼女、つまりナンバー2なのです。
あの恨めしく睨んでいたのは、嫉妬。あくしょんばいおれんす女優に勝てるわけない、真の彼女になれない悔しさでヤキモチを焼いていたのです。
あたしにとっても、意外な人が恋のライバルだったのでショックですけど。
だけど本当に凄いのは勇者さま。
その偉大な魅力で、セナお姉ちゃんと綾部さん2人も彼女――RPGでいうところの『パーティー』に加えていらっしゃるとはっ!!
フィールド移動中の並びは、《勇者》《A∨(あくしょんばいおれんす)女優》《女子大生》でしょうか。
最後尾でもいいから、ぜひあたしもパーティーに入りたいっ!
だけどあたしは、彼女にも認定されていない単なる小学生。
あぁ……。
「す、すいません監督。いつまでも隠しているつもりだったわけではないんですが――」
「あーいや、無用だ坂本くん。私は全く不快には思っていないよ。むしろキミが息子と親友でとても喜ばしいことだ」
「えっ?」
「キミの事は息子から聞いてよく知っている。いろいろあったようだが、その事に関しても不満はないよ。今まで通りに息子と仲良くしてくれ。トキメキTVのファン、あいりんのファンでいてくれ。そして私とも宜しく頼むよ」
「そんな……、あの……、す、すいませんでした。こここ、こちらこそ、本当にどうぞ宜しくお願いします」
テーブル越しにママが手を差し出し、勇者さまがおずおずと握手。
みんな驚いています。
すごいすごい!!
勇者さまがママに気に入られてます。
やった! これで遠慮せず勇者まさがあたしのお家に来れる。
お誕生会だってクリスマス会だってお正月だって!
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