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★吐く

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 翌日。学校での休憩時間での事。
 
「愛里、愛里っ、見てるよ。知ってた?」

「なによ美咲。何がよ」

 やって来た美咲が怪訝そうに赤いメガネを押し上げ、指差す廊下側の窓。
 
 ――ブラックでした。
 後ろの入り口の所から、じとーっと一点に注目しています。その方角、もちろんあたし。……うわっ。

「おっかしーなーっ。昨日先生に注意されてコリているはずなのに」

 そうです。先生に言われ山柿さまにも言われて、それでもなお登場する精神。
 その凄いの別の事に向けなさいって、成功するからっ。

「でもまあ、遠くから見ているだけだから、許すしかないわね。アイツ、愛里に話しかけてこないでしょ?」

「うん。一応……」

 実は、今朝あたしが山柿さまの部屋を見ようと山の上公園に上がった時もブラックはいたのです。約束通りに離れてだけど。(お部屋は今日もカーテンが引かれていて、立派な勇姿を拝見できずじまいでした)
 それから追跡されて、一時間目が終わっての休憩時間も来てたし、二時間目も、そして今も……。

「怖いんだけど、美咲ぃ~~~っ」

「大丈夫だって、あたしがついていつからねっ!」

 あたしが美咲に抱きつくと、美咲は嬉しそうにむぎゅーってしました。
 大きな胸……羨ましい……。

 ◆

 ◆
 
 お昼の休憩時間が終わって次の体育の授業。
 ドッジボールです。楽しくプレイしていたのですが、どういうわけか急にお腹が痛くなったあたしは、先生に申し出て保健室で休む事にしました。
 その前にお着替えを済ませてからにしようと教室に向かうと、誰もいないはずの3-2の教室に子供がひとり。
 そのシルエットは、

 ――――ブラック。
 にちゃにちゃ王子ブラックですっ!!

 あたしはドアを開けて入るのを止め、廊下からじっとその様子を伺いました。

 あんたの教室は3-3でしょ。今は授業中なのに何やってんのっ!!

 ブラックはキョロキョロと辺りを見回し誰も居ないのを確認してから、机の横にぶら下げてあるサブバックを開けてます。

 あれ、あの机はあたしのっ。あたしのバッグ。中に手を入れてごそごそしてます。
 うっわ。あたしの縦笛です。
 持ち上げて……どうするのよ。
 えっ! わっ! ちょ、やめ。

 唖然です。
 最悪です。
 信じられません。
 軽蔑です。

 もうあの笛、気持ち悪くて吹けない~~~っ。

 あたしは回れ右をして保健室に向かい、そのままベッドで休ませてもらいました。
 お腹はもう痛くないのですが、次の授業もそのまま休み、最後の授業だけは受けました。

 ◆

 ◆
 
 放課後。
 ランドセルを背負って、置きっぱなしにしていたサブバッグを持って美咲と学校を出ました。

「あれ? 愛里は笛を置いておかないの?」

 もう絶対に置きっぱなしにはしません。例え笛を使う日だとしても、笛から離れる時は、口の部分だけでも取り外して何処かへ行きます。

「うん」

「便利なのに。いちいち持って来るの面倒臭くない? 置いとけばいいのに」

「あのね美咲。実はね……」

 ブラックが仕出かした悪行を打ち明けると、

「真剣(まじ)?」

「うん」

 美咲がパタリと立ち止まり、明るかった表情はみるみる青ざめてゆき、

「げええええ――――っっ!!」

 吐きました。
 何も出てませんが、相当気持ち悪そうにしているので背中をさすってあげました。
 
「美咲って、想像力あるんだね。自分の笛がされたわけじゃないのにね」
 
「いや、その、なんてーか……。ととととにかく、許されん事をしてくれたもんだ」

「そうだよね」

「たまたま愛里が今日目撃しただけで、前からずっとやってたかもしれないじゃない」

「そうなのよ」

「それを思うと……」

「あっ、美咲大丈夫っ!」

 あたし以上にショックだったみたいで、美咲は再び吐きました。
 それから、丁度分かれ道の所に差し掛かった所で、「「ばいばい」」といつになく弱々しく交わして、美咲は自分の方向にフラフラ歩いて行きました。

 ありがとう美咲。
 あたしの事をそんなに想ってくれていただなんて……やっぱり親友。
 
 帰宅するなり、あたしは兄さんを探しました。何処にもいなくて、だから兄さんのお部屋をノックしました。

「はい……」

「愛里です」

「待って」

 お返事があったので、下がって待ちます。
 ガチャガチャと解錠の音がしてからドアが、ぎいぃぃぃ~~っと開きました。

「どうした?」

 少しやつれた見たいな兄さん。ハードなお勉強をされているのでしょう。頑張ってください。

「あのね、兄さんにお願いがあって……」

「なんだい?」

「兄さんが小学生の時に使っていた縦笛なんだけど。まだ持っている?」

「あると思うけど……」

 探してくれ、理由も聞かずにあたしに渡してくれました。
 ありがとう、兄さん。
 
 自分のお部屋に戻って、兄さんの笛の口の部分を取り外し、あたしの口の部分と入れ替えます。
 
 あぁ、よかったーっ。同じサイズです。
 
 ぱっと見は入れ替えたとは分かりません。
 それはそうですよね。小学校で使う笛なんて、どれも同じでしょうから。
 兄さんには悪いのですが、水洗いしてこのまま返しました。
 
 ごめんなさーいっ!
 

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