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★橋(セミの折り紙の巻)
しおりを挟む自宅の自分のお部屋。
閉めきったカーテン、照明も灯さず、学習机に座っていたら、ため息がこぼれました。
昨日作ったセミの折り紙を見つめます。
折り紙はラブレター。
昨日勇者さまが出されたラブレターらしき代物。
渡してくれず帰りましたが、マネて折り紙の裏面に、
『大好きです。付き合ってください。死ぬまで』
と書いてセミに折り込みました。
怖くて最高の愛を表現したのですが、どうでしょう。
『セミの折り紙は珍しいでしょー』と黙って渡すつもり、普通の折り紙だと思われてもいいのです。
ラブレターと告げる勇気は無いから。
勇者さまなら捨てず、お部屋に飾ってくれるでしょう。それで十分。
でも意味ない。
逆立ちしてもパルプンテを唱えても敵わない彼女さんが居るから。
「風邪はどうだい、愛里」
兄さんがお部屋に入ってきました。
「うん……。もう元気」
「そうか? まだ顔色悪いし、元気そうに見えないけど」
顔にでるほど、考えていたのですね。
「病院でお注射したから、もう平気っ♪」
努めて元気に腕をくるくる回してみせたら、兄さんが微笑んで、頭をなでなでしました。
今日は頭を撫でられる日です。
「しかし、病院の後、何処に行ったんだ? 帰るの遅かったし」
わっ。不味い……。
最近兄さんは学校から帰るのが早いのです。
さて、どう言う。あたしが勇者さまと会うのは嫌うし。
「谷病院に電話をしたが、二時前に帰ったと」
病院に電話したの?
「知り合いの家にも電話したけど来てない。
愛里がよく行くスーパーと商店街の店にも片っ端から電話してみたけど」
あわわわ……。
「分からなくて、冴羽さんに電話してみた」
冴羽さんってお巡りさんじゃないですかっ! そそそこまで……。
兄さん、兄さん。大切に思ってくれるのは嬉しいですけど、愛が強すぎて逆に怖いです。
「そしたら愛里が山の上公園へ行くのを見たと」
「……、……そ、そうなんだー」
「その先には山柿が美人と歩いていたとか」
なんという情報網。
ぞくぞくする背筋。風邪は治ったのに、ぶり返しでしょうか。
「どうして、山柿をつけたんだい?」
兄さんはニコニコして、優しいんですけど……、
終わりました。正直に話すしか道はありません。
「あのね、兄さん……」
「なんだい愛里」
今日あった事を話し、恐る恐る兄さんのお顔を見たら、
「ふーん……そうか……」
機嫌悪そう。
勇者さまに近寄らない、話しはしない約束。
ごめんなさい兄さん。ごめんなさい。
「あのね。もし山柿お兄ちゃんがあたしを見つけてくれなかったら、今頃お庭で凍えて死んでるかも。
それにお財布も一生懸命探してくれたんだよっ!」
なんかいい感じで言えてる。
「嬉しかった。山柿お兄ちゃんはすっごく良い人、感謝してるんだから」
あたしの勇者さまだし……。
彼女さんがいたとしても。
兄さんに話してて、もやもやが吹っ切れたみたい。
「いいかい、愛里……」
「はい、兄さん」
「山柿を褒めて、兄さんも嬉しいがな、愛里は仲良くならないでくれ」
そう言って又もや頭を撫でました。
「何度も言うがアイツとは会わない、話さないこと。約束してくれるかい」
あたしは、ぽっかーんとお口を開けました。
勇者さまがロリコンという食材系だからでしょうか、あたしダイコンの桂剥きは出来ませんがヒーラーを使用するので大丈夫です。
瞳がうるうるしてきました。
「ああ、もう。愛里っ!」
むぎゅっと兄さんに抱っこされ、頭をなでなでです。
いや、もう何度目?
頭撫でるの止めて欲しい。ペットじゃないんですから。
「いいんだよっ。愛里は怖い物が大好きだったね。
ムカデやヘビみたいなのが好きだったね。
山柿の怖い顔を鑑賞したいだけなんだよね、分かるよ。うんうん」
分かってないですって!
ムカデやヘビとは全然違うんですからっ!
「そうか、そうか、じゃー、遠くから見るだけで我慢するんだよ。
あまり話しもしないように、あいつは危険だから」
危険ってなに?
意味不明。
でも一応勇者ウオッチングを許されたので、ありがとう。
あたし頑張る。頑張るだけ兄さんに怒られそうだけど、がんばるーっ!
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