23 / 221
☆三度目の岩田家訪問 その2
しおりを挟む
愛里……愛里……君はとっても……、
「か、かわいい……」
理性ではない、ほぼ本能。勝手に口からこぼれてしまっていた。
すると、愛里は口を丸めてカチッとフリーズ。白い小顔がアルコール温度計みたいに紅色にぐんぐん上昇してゆく。
「山柿。きっ貴様っ!」
響いた怒号に、はたと状況を理解したが、時既に遅くて、飛んで来た岩田に首根っこを掴み上げられていた。
ぶんぶん首を揺すられる僕。
く、苦しい……っ!
岩田は妹の事になると敏感に反応してしまうが、実際に行動したのは今が初めてだ。
愛里は顔色を変え、ばたばたとキッチン奥へと背中の羽根を揺らしながら駆けて行き、テーブルの横からひょいと顔だけ覗かせている。
「落ち着け岩田。違うだろ! 褒めただけだろ。『可愛いね、トキメキTVの最終選考大変だったね』と労をねぎらおうと思っただけで――」
これくらいで岩田が瞬間湯沸かし器になるのなら、謝罪文を公開したら僕は殺されるかもしれない。
「貴様から、劣情を感じたっ!」
「違うって!」
激しくもみ合っていたが、襟を掴んでいた岩田の手を振りほどく。
岩田は真っ赤な顔だ。直ぐに壁に駆け寄って、掛けてある日本刀を握ると腰の位置で構えた。すうっと息を吐き冷静を確保。右手はいつでも刀が抜けるように柄に添えたまま、足先をじりじりとカーペット上に滑らせる。
「本気か、おい……」
冗談なんかではない。どう見ても本気だった。
慌てて両手で万歳のポーズを作って見せる。
「僕がそんな感情を抱くと思っているのかっ? 大親友の妹を可愛いと思っただけで、それ以上の感情が宿るはずがないだろ」
岩田の目は据わったままだ。
愛里の事だとここまで感情が振り切れるのか? 異常だ異常だ。
「僕がこの子に何かしたか? 可愛いと褒めただけだろ?」
頼む冷静になってくれっ!
「僕とお前は中学校から続いている親友じゃないか。一緒に喜んだり悔しがったりした仲じゃないか。お前が嫌がる事を僕がすると思うか? 岩田よ」
「うむ。そうだな……」
岩田がぽつりと呟いて、大きく息を吐く。何度か肩で呼吸して、
「悪かったかもしれん。……いや、確かに親友を疑った俺が悪かった」
頭すら下げはしなかったが、日本刀を壁に戻してくれた。
愛里は遠くキッチンのテーブルから、恐る恐る顔を覗かせてこちらの様子を伺っている。
どうしょう……。
つい流れで愛里に何もしていないみたいな事を言い切ってしまった。
正確にはもうやってしまっているんだけど、取り返しのつかないような破廉恥行為を、やらかしちまっているんだけど……。
謝るつもりだったのに、岩田のママに土下座して謝罪するつもりだったのに、これじゃー言いにくいなんてもんじゃーないっ!
「愛里~ぃ。驚いたかい。ごめんね。お兄ちゃんが悪かった~」
岩田がまた猫なで声を始める。
愛里がキッチンテーブルから覗かせた顔をふるふる左右に振っている。
「だいじょーぶです」
「うんうん。そーか。そーか」
相変わらず、兄バカだ。妹が犯罪者になっても守るだろうな。
「いいかい愛里。お兄ちゃんたち今からここで勉強するからね。愛里は静かにしていてね」
覗いたまま愛里がこくこく頷く。
背中の羽根がぱたぱた揺れている。
岩田よ、なぜその調子を他の女子相手にやらない?
やれば喜ぶぞ絶対。僕とは違う黄色い叫びをして、気絶するかも。どんだけモテモテになることやら。
「か、かわいい……」
理性ではない、ほぼ本能。勝手に口からこぼれてしまっていた。
すると、愛里は口を丸めてカチッとフリーズ。白い小顔がアルコール温度計みたいに紅色にぐんぐん上昇してゆく。
「山柿。きっ貴様っ!」
響いた怒号に、はたと状況を理解したが、時既に遅くて、飛んで来た岩田に首根っこを掴み上げられていた。
ぶんぶん首を揺すられる僕。
く、苦しい……っ!
岩田は妹の事になると敏感に反応してしまうが、実際に行動したのは今が初めてだ。
愛里は顔色を変え、ばたばたとキッチン奥へと背中の羽根を揺らしながら駆けて行き、テーブルの横からひょいと顔だけ覗かせている。
「落ち着け岩田。違うだろ! 褒めただけだろ。『可愛いね、トキメキTVの最終選考大変だったね』と労をねぎらおうと思っただけで――」
これくらいで岩田が瞬間湯沸かし器になるのなら、謝罪文を公開したら僕は殺されるかもしれない。
「貴様から、劣情を感じたっ!」
「違うって!」
激しくもみ合っていたが、襟を掴んでいた岩田の手を振りほどく。
岩田は真っ赤な顔だ。直ぐに壁に駆け寄って、掛けてある日本刀を握ると腰の位置で構えた。すうっと息を吐き冷静を確保。右手はいつでも刀が抜けるように柄に添えたまま、足先をじりじりとカーペット上に滑らせる。
「本気か、おい……」
冗談なんかではない。どう見ても本気だった。
慌てて両手で万歳のポーズを作って見せる。
「僕がそんな感情を抱くと思っているのかっ? 大親友の妹を可愛いと思っただけで、それ以上の感情が宿るはずがないだろ」
岩田の目は据わったままだ。
愛里の事だとここまで感情が振り切れるのか? 異常だ異常だ。
「僕がこの子に何かしたか? 可愛いと褒めただけだろ?」
頼む冷静になってくれっ!
「僕とお前は中学校から続いている親友じゃないか。一緒に喜んだり悔しがったりした仲じゃないか。お前が嫌がる事を僕がすると思うか? 岩田よ」
「うむ。そうだな……」
岩田がぽつりと呟いて、大きく息を吐く。何度か肩で呼吸して、
「悪かったかもしれん。……いや、確かに親友を疑った俺が悪かった」
頭すら下げはしなかったが、日本刀を壁に戻してくれた。
愛里は遠くキッチンのテーブルから、恐る恐る顔を覗かせてこちらの様子を伺っている。
どうしょう……。
つい流れで愛里に何もしていないみたいな事を言い切ってしまった。
正確にはもうやってしまっているんだけど、取り返しのつかないような破廉恥行為を、やらかしちまっているんだけど……。
謝るつもりだったのに、岩田のママに土下座して謝罪するつもりだったのに、これじゃー言いにくいなんてもんじゃーないっ!
「愛里~ぃ。驚いたかい。ごめんね。お兄ちゃんが悪かった~」
岩田がまた猫なで声を始める。
愛里がキッチンテーブルから覗かせた顔をふるふる左右に振っている。
「だいじょーぶです」
「うんうん。そーか。そーか」
相変わらず、兄バカだ。妹が犯罪者になっても守るだろうな。
「いいかい愛里。お兄ちゃんたち今からここで勉強するからね。愛里は静かにしていてね」
覗いたまま愛里がこくこく頷く。
背中の羽根がぱたぱた揺れている。
岩田よ、なぜその調子を他の女子相手にやらない?
やれば喜ぶぞ絶対。僕とは違う黄色い叫びをして、気絶するかも。どんだけモテモテになることやら。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる