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★プロローグ 愛里
しおりを挟む――岩田愛里――
あたしが運命の人と出会ったのは小学三年生の時でした。
これから、そのお話しをしたいと思います。長くなりますが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
まだまだ寒さが厳しい二月。
お家の暖かいリビングで大好きな昆虫図鑑を眺めていたら、兄さんが高校から帰って来ました。
「ただいま愛里」
「おかえり~」
「急なだけどお兄ちゃん、あさってここで、受験勉強をするつもりだ」
「はあ……」
言っている意味が分かりません。
だって兄さんは、入試勉強を毎日しているのに……。
あたしは、ホットカルピスをふうふうしながら「ふう~ん」とお返事すると、「友だちを呼んで勉強会なんだ」と兄さんが清々しい顔で言いました。
「え――――っ!」
驚いて、あたしはカルピスを零してしまいました。
いったい何が起きたの……?
取り敢えず濡れてしまった大事な昆虫図鑑をテッシュで拭き取りつつ、――だめだめ落ち着かないと、何かの間違いかもしれないし――、と自分に言い聞かせていると、
「勉強会はリビングでするから、愛里は邪魔にならないように自分の部屋にでもいて、リビングには入ってこないで欲しいんだ」
「はあ……」
もうすっかり勉強会をする予定でいる兄さんに唖然としてしまう。
「いいんだって愛里。そんな顔しない。ママにはOK貰ってるんだから」
ママがOKしてくれた……?
信じられないけど、兄さんが嘘をつくはずないし……。
あたしのお家、岩田家には変わったルールがあります。
《自宅に他人を招いてはいけない》
自宅は神聖な場所。岩田家の人間だけが出入りを許される。小さい頃から教えられ、そう過ごしてきました。
だからお友だちと遊ぶのも、お外かお友だちのお家。お誕生会に呼ばれた事はありますが、お友だちをお家に呼んだ事はありません。
なのに、岩田家に他人が入る? 立ち入り禁止はどうしたの?
まさか、禁止が解かれたのでしょうか? だったらあたしも誕生日にお友だちを招待できるかもっ!?
希望の光がキラキラして、嬉しくなりました。
「じゃ、あたしもママにお願いしたらOKかな?」
誰を呼ぼうかしら、美咲は親友だから絶対でしょ、他にも五人くらい大丈夫かな?
「うーん。無理だろうなあ。愛里はまだ小さいから」
「ええ――っ!」
小さいって……小学生だから? 兄さんみたく高校三年生にならないとダメってこと?
不満だけど、そうなら仕方ありません。
それより、兄さんが楽しそうにしていたので、よかったと思いました。
兄さんの将来が不安だったからです。九歳も年下の妹がいうのもなんですが、兄さんは変人。
ぼっち変人なのです。
嘘じゃありません。
兄さんは友だちがいません。電話だって掛かってきません。お家で学校の話しも全然しません。一人でいるのが大好きで、告白してきた女の子までキツくあしらうほどです。ぼっち世界大会があったなら、あっさり優勝するほどの最強ぼっちなのです。
そのぼっち兄さんがお友だちを連れてくる?
よほどの物好き――――違う違う。兄さんと友人になってくれた良い人。心から感謝です。
それに岩田家初のお客さま。明後日が記念日になりそうです。
兄さんは邪魔をして欲しくないそうですが、折角のお客様に何もしないのはどうかと思います。
ママはお仕事が忙しいからたぶん留守。ここは妹のあたしがおもてなしをするべきじゃ?
そうです。美味しいと褒められた得意のクッキーを焼いて驚かせちゃいましょう。
『君が作ったの、これ? 君本当に小学三年生?!』
兄さんにも内緒で、クッキーサプライズです。
二人が帰ってきたら直ぐに食べれるように、リビングのテーブルに並べておくのがいいかもです。
たのしみたのしみ。
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