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豚間殺害計画

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 その夜。
 ふもとの豚間とんげん村。
 ワラで作られた集落の家々に灯りはない。
 豚どもは寝静まっていて、虫の鳴き声が聞こえているだけだ。

「どのお家に、パパが倒した豚がいるわけー?」

「近い家から順番に覗いて確認するしかないな」

「わかったー」

 ノブナガが豚間とんげん村に訪れるのは2度目になる。
 最初は、豚どもに採取されこの村の何処かの家の台所で料理の具材となった。
 そんなだったので、周囲の状況がまるで見えていなかったが、2度目の今は落ち着いて観察できている。

 電信柱があるのは人間村と同じ。
 違うのは電線が各家屋に伸びている事。
 ノブナガとねねが、手足の先を鉄製のカギ状に変形させ、家屋の壁面を登り窓の隙間から侵入した内部は、明治頃の日本だなと感じた。
 天井から傘付き裸電球がぶら下がる。
 水道はない。ガスもない。
 田舎だからだろう。
 トイレはぽっとんトイレ。
 
 寝室らしい10畳部屋の四方に蚊帳を掛け、その中で寝間着姿の醜いブタ人間たちが4匹仰向けで、ぶきゃぶきゃ、いびきをかいていた。

 顔が豚というだけで(身体も太っているけど)人間と大差ない。
 まあ、でもブタは所詮ブタ。
 みんな同じ顔に見えて区別がつかない。
 同じ種類の犬どうしの判別がしにくいのと同じだ。

「誰がそのゴゾンゴなの、パパ」

「尻にナイフが刺さったのだ。傷は深い。たぶん尻に包帯をしている豚がゴゾンゴ」

 別室のブタも確認した。

「包帯かー。このお家じゃないみたいだねー」

 ノブナガたちは、次々と家に忍び込んだ。
 他の家には、おんぼろ自転車。ちゃぶ台。ダイヤル式電話。猟銃まである。
 どれも日本のレトロを抱かせる品ばかり。
 前世の記憶があるノブナガにとっては、豚間とんげんが昔の日本を侵略した、乗っ取ったように思えてならない。  
 壁に掛ったカレンダーが日本語だったのには、怒りまで湧いた。
 
 パラレルワールド。
 ここはパラレルワールド。
 無限にある平行異世界のひとつに、俺がいるだけで、俺のいた前世が豚に侵略されたわけじゃない。
 そう仮説立てることで、ノブナガは自分を落ち着かせようとした。

「いたよパパ」

 ねねの呑気な声が届いた。
 尻に白い包帯をしたブタがうつ伏せで爆睡している。
 その近くには日本酒を思わせるガラスビンと湯呑。

「そ、そうだな。ゴゾンゴに違いない」

 家にはゴゾンゴしか寝ていないので、独身ブタだろう。

「パパー。
 ねねソードでやっつけちゃおうよ」

「……待て」

 チクリとする程度にしかならず、逆に目を覚まさせてしまい、俺たちが危ない。

「じゃ、どーすんのよパパ」

「俺たちのトレストゲン成分を使う」

 ノブナガとねねの身体には、ブタ人間に有毒な成分トレストゲンが含まれている。
 このトレストゲンを、ゴゾンゴの体内に投与する。

 問題は、どうやって投与するか。
 キノコの一部を切り取り、ゴゾンゴの口の中へ入れても、寝ながら食べてくれるわけない。
 自然にブタ人間の体内にトレストゲンを投与する方法。

「どうするのパパー?」

「胞子散布だ」

「えー、なんで」

「それでじゅうぶん」

「さっきしたばかりだけどー、もう発情しちゃったのー?」

「違うわい!!
 胞子にトレストゲン成分を加えた後、ゴゾンゴの近くで散布する」

「なるほどー」

 ねねが、右手だけに鉄成分を集中させて剣にした。
 同様に、俺が胞子だけにトレストゲン成分を集中させる。
 
「できるはず。やってみよう」

「わかったー」

 ガチッ!!

 ねねと一緒にやるにはやったが。

「成功したの、パパ?」

「うーん。トレストゲン入り有害胞子になったかどうかは分からない。 
 実験してみるか!」

「だね、パパ」

 ねねを連れて天井に登る。
 ゴゾンゴが寝るちょうど真上だ。
 ねねと同時に《胞子散布》をする。
 ブタ人間の呼吸と一緒に、胞子を吸い込むはずだ。

「えーっ! 親子でするのぉー? マジでぇ?」

 ここで拒否する?

「直ぐだから」

「実の娘をイかせようとする父親って問題あると思うんだぁー」

「イかすって……、胞子散布だけだろ」

「キノコにとって、胞子散布は神聖な子供作りだよぉー」

「直ぐに終わるから、なっなっ! 並んで出すだけだから! ちょっとだけだから!」

「隣に並んでイこうとか。一緒にイこうとか、ちょっと下心が見え見えなんだけどぉー」

「……」

「性の乱れだしー。後で近親相姦きんしんそうかんとかしないわよねー」

 どうやって?
 ノブナガは2本のキノコが交わる姿を想像しようとしたが、無理だった。
 
「黙ってるのは、図星なのねー、パパ。やらしー」

 めんどくさい! 超めんどくさい!  

 結局、ノブナガが先に《胞子散布》を行い、家から出た後に、ねねに《胞子散布》をする事で了解を得た。

「おうっおっおっおおおおおおおおっ! 
 えぐえぐえぐ――っ! えぐすだじい――――――っ!
 おうっおうっおっおっ、えぐえぐ――っ! えぐすだじいぃぃ――――――っっ!」

 キノコだけにしか届かない、ねねの絶頂する声。
 何度聞いても、すげー迫力だな、とノブナガは家屋の外から思ったのだった。


 ◆


 30分後。
 ぶーひーぶーひーと高いびきしているゴゾンゴ。
 まだ効果は表れていない。
 
 そもそも、トレストゲンが有害と聞いてはいるが、どれほど有害かは不明。
 めまいがする程度かもしれない。
 様子の経過を見守る事にした。

 うとうとしていたら、スズメの鳴き声で目が覚めた。
 朝だ。
 ノブナガとねねは、早朝まで寝ていたのだった。

 布団で大の字のゴゾンゴに近寄って確認する。
 死んでいた。

「パパ凄いー。これで人間への仕返しが消えたねー」

 ねねが喜んだ。

「うむ」

 ゴゾンゴが死んだという事は、それだけではない。
 胞子にトレストゲン成分が加わった証でもある。
 全長たった10cmの生物が、1600cmの豚間とんげんを倒す。
 非力だったノブナガを含めたキノコたちに、胞子散布という心強い武器が備わったのだ。
 
 だけど、不安はまだ残る。
 豚間とんげんは一匹ではない。
 ゴゾンゴが昨夜のミキ家の出来事を、知人に話してないのなら問題は起きないが、
 もし、仲間に相談していたらどうだろうか。
 ゴゾンゴの死因を、尻の傷のせいにするとは考えにくいが、怒りの矛先が人間村のミキたち家族に向けられる可能性は高い。
 
 そうでないことを祈りたい。
 そうすればあの家族は、昨日の仕返しは受けなくてすむ。

「大丈夫なんじゃーないパパ。
 だってあたしたちは高価なキノコなんだしー。
 ゴゾンゴは独り占めしたいはずだよー。このブタ人間は独り身だし、きっと誰にも話してないと思うー」

「そうだな。そうだといいんだが……」
 
 

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