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豚人間の世界

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 聞こえる声。
 人のようだ。

 ねねたちが話すのをピタリと止めた。
 百を超える子供たちも、胞子散布を止め、傘の先端を震わせる。

 落ち葉を踏む、枝を折る、雑草を刈る。
 接近しているのが分かる。
 
『怖いよぉパパ……。怖いよぉ』

 ねねも本能で危険を感じ取ったようだ。
 駆け寄って抱きしめてやりたいノブナガだったがキノコの身体では移動できない。

『大丈夫。じっとしていればなんとかなるさ』

 見守るしかできない。
 俺たちキノコは、生えているだけの人生なのだから。
 そう覚悟を決め、音の方を意識していると――。

「GOIUAAGOOYYAGO GAAYAOGKTBUUGOP」

 雑草をかき分けてやって来たのは、人間? 
 ――――ではない。
 人間そっくりの、頭部が豚の生物2匹。

「OYYAGAAYAO!!」

 豚たちは子供たちをせっせと摘み取って、背負いカゴに入れている。

『パパっ……。パパ……』

 ノブナガを中心に生え広がっているキノコ楽園が、瞬く間に崩壊していゆく。
 引き千切られ、か細い泣い声を上げたねねが、豚に取り上げられてゆく。

 助けたい。
 手を伸ばそうにも、その手はない。
 やめろっ! 
 叫んでも豚には聞こえない。
 
「GOIUAA」

 ついにノブナガにも豚の手が伸びてきて。
 
 ぶちっ!
 激痛が走った。
 持ち上がる感覚。
 地面が遠くなり、竹で作ったカゴに投げ入れられる。

 中は愛する子供たちが、きゅぴ……きゅぴ……と弱々しく鳴き、カゴの隙間からは一本のキノコもない地面だけが見えた。
 
 カゴは降ろされることなく、集落へと持ち込まれた。
 家屋に入り、壺の中へキノコを放り込んで蓋を閉めた。
 壺には食材がたんまり入っている。
 
 くそっ!
 このままだと、食べられて終わりだ。
 ノブナガは選択肢を出現させた。

《成長》
《行動》
《確認》

 うーん。
 選択するのが行動しかない。
 
《行動》カチッ!

《胞子散布》
《変形》 

 ネタが無い芸人のようだとノブナガは感じた。
 取り敢えずやったことがない《変形》カチッ!

《傘》
《柄》
《根》
《全体》

 思い通りに自分をカスタマイズ出来るコマンド群と理解。
 ブタに食べたくない、不味そうな物に変形してみる。
 
《全体》カチッ!
 
 むくむくと身体が変形する。色は変わらない。
 しばらくするとツボの蓋が開けられ、

「OYYAGAAYAO!!」

 何故かノブナガが一番に取り出された。
 最悪の物体(ウンコ)をイメージしたが、逆に目立ったようだ。

 豚が人型に進化したらしい生物が、ノブナガをまな板の上に置き、包丁で一口大に切って煮立った鍋の中へ投入した。
 中には唐辛子かハバネロか、強い刺激系が入っいるようで、キノコの肉片の断面からその成分が入り込み、激痛を感じた。

 やがて、その感覚、視界、意識が消えてゆく。

 所詮キノコ。
 食べられるだけの、呆気無い人生だった……。
 異世界転生なら、せめて動物系がよかったんだけど。



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