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理想の彼氏発見? その2
しおりを挟むそして昼食時間。
あたしと遠山くんの机はくっついたまま。
だけど、ふたりの気持ちはさっぱりと言っていいほど理解不能。
なにせ会話が無いんだもん、これを険悪と言わずしてなんと言う。
クラスメイトへ給食の配膳が全て終わり、クラス全員で『いただきます』の挨拶の後、昼食が始まった。
隣の席の遠山くんも普通に食事を始めていて、ホッと溜め息がでる。
流石に昼食くらいは自分の席に着いて食べるのだ。
もしかしたら、給食を持ってよその場所へ移動するのではないかと心配していた。
もしそうなったら、そこまで嫌われているんだ、とショックを受けるところ。
転校早々、いきなり隣の男子生徒に嫌われてるなんて最悪。
まあ、まだ嫌われたと決まったわけじゃないんだけど……。
「……」
あたしは遠山くんに話しかけ辛く思っていた。
言ってもまた無視されるかもだし、片言の冷たいセリフは聞きたくない。
だけど周りの生徒は近くの人と楽しく話しながら食事をしていて、あたしたちだけが無言で食べ物を口に運ぶ作業をしているみたいだった。
ああ、なによこの状態。
嫌だ嫌だ、なんとかしたい。
このままあたしも一緒になって無口になっていると、本当に最悪の関係が確定してしまう。
卒業まで後一年もあるんだ。それだけは避けなきゃ。
頑張って話しかければ、遠山くんだって、いつかは打ち解けてくる…………よね?
微かな望みを掛けて、前を向いたままもぐもぐと口を動かす彼に、できるだけ明るく爽やかに言葉を発してみた。
「遠山くんて、何でも食べられるの?」
こんな何気ないセリフだけど、超がんばったのだ。
待っているあいだ内心ドキドキ。またも無言だったら、心が折れちゃうよ……。
すると咀嚼していた彼は、ゆっくりと手前にある牛乳パックを手に取りストローを口に付けひと吸い。それから再びパンを口へ運びもぐもぐと。
「……」
返事がない。
まさかの無視?
いやいや……、たぶん……、聞こえなかったんだ……。
微かな期待を込め、そう思うことにした。
ガヤガヤと楽しそうに食事をしている周りの生徒を視界入れつつ、今は授業中じゃないわよね、とひとり確認もしたりした。
やっぱりダメか……、あたしは無視されているんだ……。
そう諦めかけたとき、なんか聞こえた。
「ああ……」
と彼の方から喉が鳴ったのだ。
もしかして……、今ので答えた……というわけ……なの?
だったら遅っ! 超遅いよっ!
ワザとですか? 舐められてる。
「や、やだあ、遠山くん。
あのね……、何でも食べられるの、と聞いたんだけど……」
苛立つ感情をグッと堪えて、苦労した出来うる限りの可愛い声で訊ねた。
だが遠山くんはあたしを見もしないで、視線は前方黒板付近。そんなに興味を引くものがあるのだろうか、とあたしも見だけど、なんにもない。
「食べられる物ならね」
あ、喋った……。
だけど皮肉っ!
性格悪いなこの子……。
でもいい。それでも一応会話はできたんだ。
普通の会話への始めの一歩だと思えばいい。
そんな事を考えつつ、あたしもいい加減食事をしなきゃね、とスープを飲もうとしたら、持ったスプーンをうっかり取り落としてしまった。
カチーンと床に響く金属音。辺りの生徒から注目される。
いっけない。なにやってんのあたし。
直ぐに羞恥心が湧き上がり、即座に拾おうとしたそのとき。
さっと、横から手が伸び床のスプーンを拾い上げる男子生徒。
遠山くん?
「あ、ありがとう」
意外に思えてならない。
直ぐにそう言ったんだけど、遠山くんは聞こうともせず前の教壇へスタスタ歩いてゆく。
何だろうか……、と想像する間もなく遠山くんは落としたスプーンを置いて戻ってくる。
そして、あたしのお皿にカチッと置かれた物は新しいスプーン。
うそみたい。あたしの為にそんな優しい事するなんて……。
嫌われてなんかない。嫌われてるはずがない。
それでもやっぱり無言で座る遠山くんがとてもシャイに見えた。
「あ、ありがとう。すごく嬉しい」
心からそう言った。
すると、一瞬ではあったけど、あたしと目線が重なって、だけど彼はすぐに自分の食器に顔を向けた。
そのときの遠山くんの表情――、なんか目が挙動ってる気がした。
それからまた食事を進める姿――、なんだか僅かに緊張しているように見えてしまう。
これって、遠山くんて、もしかして動揺しているんじゃ……。内心ガクブルなんじゃ……。
浮かんだ脳裏には、遠山くんからあたしへのピンク色の矢印がビイインと向いている。
確信はない。
だけどそう考えれば今までの彼の行動に説明がつく。
あたしを意識し過ぎるあまり、わざと無関心を装っていたんじゃないだろうか。
できるなら遠山くんの心を覗いてみたい。
だけど、どうやって……。
ピンと頭上に考えが浮かんだ。
彼の気持ちを確かめるいい方法――。
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