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理想の彼氏発見?
しおりを挟む二週間前、三つ歳上の彼氏からメールで別れを告げられた。
原因は浮気をした彼氏を、あたしが引っぱたいたせいだろうね、たぶん。
だけどそんなことで振るか普通?
浮気をしたのはそっちなんだから、振られるんじゃなくて、どっちかといえばあたしが振るほうでしょ。
それをビンタ一発で許してあげるんだから、感謝して欲しいのはこっちのほうなんだけど……。
まあ、女子にビンタされビビって別れたいなんて男子はこっちからいらない。
ママの紹介で悪いんだけど、やっぱり御曹司はダメ、ぼんぼん育ちはひ弱過ぎるよ。
だから、こんど引っ越してきたこの町で付き合うとするなら、ママの紹介じゃなくて、自分でよくよく選んで決めることにする。
まず頭が良くなくちゃ――。
やっぱりバカだと、将来が不安。
あたしのお婿さんになるかもしれないんだから、成績優秀じゃないとね。
それから、イケメンでないと――。
やはりあたしの美貌に見合う顔立ちをしてなくちゃ。
デートしてても変な注目を浴びちゃうしね。
性格は超真面目。硬派くらいでないと――。
フラフラ浮気性の男子にはいい加減飽き飽き。
いくらお金があってもダメね。
やっぱりあたしにゾッコンな堅物くらいが嬉しい。
そんな理想の彼氏は、こんな田舎町で見つかるだろうか。
ああ、神様……あたしにふさわしい素敵な人が現れますように――。
転校初日。
新しい学校で自己紹介を終え、得意のスマイルをしてみたところ、案の定、男子たちから黄色いどよめきが湧き上がった。
いつものことじゃん。ちょろい、ちょろい。
どこへ行っても、あたしの微笑に響かない男子などいないわね。
そんな自信満々で教室を見渡していると、一人の男子生徒が挑発的な睨みをあたしに利かせていた。
いるのよねぇ、ああいう反抗的なタイプ。
俺だけは他の男子とは違うぞ、と言いたげ感を出している人。
だけど嫌いじゃないわ。
なよなよっとしたぼんぼん育ちより断然良い。
シャープな輪郭に知的な鋭い目。
顔は幼いけどわりかしイイセンいっている、将来イケメンになりそうね。
「安城。わからない事があったら遠山に聞け。
クラス委員長だから面倒みてくれる」
彼が遠山くんか……。
先ほど、この教室に来る前、廊下に張り出されていたテスト結果で、学年一位に遠山響とおやまひびきと記されていた。
頭も良いんだ……彼。
あたしの横の席が彼だなんて、これは……なんだか恋の予感がする。
もしかして、さっそく神様があたしのお願いを叶えてくれたのがこの男子だったりして。
頭が良くて、顔もどちらかと言えば好みのタイプだし、取り敢えず彼氏候補にしてあげようかしら。
先生に促され遠山くんの隣の席に座ったあたしは、まだこの学校の教科書を持っていないので、隣の遠山くんと一緒に授業を受けることとなった。
机を並べて彼の教科書を二人で一緒に見るなんて、こんなご丁寧なお膳立てってあるかしら? あまりにも好都合過ぎて、早くくっついちゃえばっ! って言われているみたい。
これってマジ運命?
そんな期待をはらんで一時限目の授業が始まった。
「なにかが……おかしい」
意気揚々で望んだけど、真横に座る遠山くんは、なんとも超無口なのだった。
話しかけても、うんともすんとも言わない。真剣な顔して真面目に黒板の文字をせっせとノートに書き写しているだけ。
たしかに学力が学年一位だけあって、授業への集中力が半端ないのはわかる。
わかるけどね、あたしの声は聞こえているでしょうに?
もし迷惑なんだったら、『ごめんね、後で話しするからね』とか優しい言いようがあるでしょうに。
転校生したてで不安な女子が隣にいるんだから、もう少しは気を使ったらどうなのっ!
なんでそう愛想悪いのっ!
そんな愚痴を内心で呟きながらあたしは退屈な一時限目を過ごした。
授業が終わって休憩時間になると、女子生徒を中心に数人がやって来て優しく話しかけてくれた。
普通はこうだよ、遠山くん。
あたしは転校生なんだからクラスに馴染むまで親切にされるものなの。
優しいクラスメイトの振る舞いを見ているはずの超無口男子に、どう見てる? と視線を向けてみれば、先ほど書いたノートに目を通していた。
ふ、復習している……。
ぴくぴくと顔が引つるのを感じる。
なにこの人?
休憩時間にそんなことする人始めて見た。
元々こんな根暗な性格?
それとも極度の人見知り?
どっちにしても、たしかクラス委員長だよね彼は……、こんなじゃ全然不適格じゃないの?
折角、あたしの理想に近い男子だと思っていたのに、彼氏候補だと期待してたのに……。
見当違いだったのか、とガックリ諦め気味で他の生徒に目を向けると、偶然あたしと視線が会った男子が慌てて目を外らした。
なんて解りやすい態度だろうか、あたしが奇麗過ぎるから、あの男子は緊張してしまったのね。
あの男子ほどでないにせよ、遠山くんもそれなりにあたしに反応してくれたらどれほど良いか……。
次ぎの授業が始まっても同様に黙々とシャーペンを走らせている隣の勤勉少年を、あたしは恨めしく見つめた。
これから遠山くんとはずっとこんな感じ……なのだろうか。
――嫌だ。そんなの。
この重い空気は耐えられない。
彼氏にとかいう以前に、普通のクラスメイトとして普通に楽しく会話くらいしたいものだわ。
よしっ!
と気合を入れた。
思い切って遠山くんを褒めてみる。
褒められてイヤな人なんかいやしない。
おべんちゃらなんか好きくないんだけど、会話の糸口がなければ話にならない。
「ねえねえ、遠山くんって、成績学年一番なんでしょ? 頭いいのねっ」
そう声をかけると、遠山くんは首だけゆっくり回しこちらを向いた。
なんか怒ったように見えるけど……、そ、そんなことあるわけないよね。
褒めてんだもん……。
いつもこんな感じなのだろうと、自分を落ち着かせていると、
「……いま、話できない」
そのひと言に耳を疑うあたし。
遠山くんはくるりと前を向き、なにごとも無かったみたいに勉強再開。
なに、なに、なにぃ?
なにか悪いことしたあたし……っ?
褒めたのよっ! せっかく褒めていい気分になってもらおうと思っただけなのに……。
たしかに授業中は無駄話するのは良くないけど、そこまで邪険にする必要ある?
ちょっとこの子、性格おかしいんじゃないのっ。断るにしてもそんなブスッとした態度じゃなくて、もっと優しく言えないのっ?
言い返したいことは山ほどある。
あるけど、ここはぐっと堪えた。
授業中だし、皆んなからやかましい女子だと思われるだろうし、それに『いま、話しできない』と言うんだから、授業が終わればいいんでしょう?
休憩時間なら会話OKなんでしょう?
なら、授業が終わったら速攻で話しかけてやる。なら文句ないでしょ。
メラッと胸中に燃え上がる感覚。
ムキになったあたしは三時限目が終わるのをじっと待った。
チャイムが鳴り、先生が教室を出るのを見計らって速攻、
「あのね、とお――」
と呼びかける間もなく、遠山くんはすたすた歩いて行ってしまった。
な、なによあの態度っ!
おーい。そんなんありですかー。
休憩時間だったら話しても良いんじゃなかったのー?
情けない胸中の訴えも届くわけもなく、遠山くんは教室の端でたむろしている男子連中と楽しそうに会話をしていた。
聞こえてたはずだ、あたしの声。
無視されてなんか無性に腹が立つ。
だからと言って、意地で遠山くんを追いかけて男子のグループに加わるり会話をするのは流石にちょっと勇気がいる。
もしマジで行きでもしたら、あたしが遠山くんにラブだってクラスの皆んな誤解されそう。
そんなの嫌よ、絶対、超恥ずかしいじゃない。
遠山くんのことは彼氏候補って思っただけで、別にまだ本気で好きになったわけじゃないし、もしかしたら他にもっと素敵な人が現れるかもしれないし。
あたしの視界には他の男子と普通に会話をする遠山くんが映っており、それがとても悔しく思えてならなかった。
あたし以外だと普通に話すんじゃん。
なんでなんで、あたしとは話してくれないの。反感を買うようなことはしていないのに……。
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