75 / 78
旅立ち
24
しおりを挟むside ソラ
アレク様に当たる前にナイフを防ぐ。一撃が重く吹き飛びそうだ。一撃を防がれた相手は俺たちから距離をとる。
「こんな所で貴方と会いたくはなかったですけどね」
雲に隠れていた月が庭園を照らす。徐々に暗殺者の顔が顕になっていくと、想像していた通りの人物がそこに立っていた。
「いつから気がついていた?」
「全く気づきませんでしたよ」
「だったら何故」
「アレク様に協力して貰って、フリーになる時間を作ってもらったんです。それでそれを護衛の人に伝える。そうしたらスパイが殺しにくるかと思って。
そしてそれぞれに違う時間や日にちを伝えていました。朝の食堂や、昼の執務室、夜の庭園と変えて。そして夜の庭園でフリーになると伝えられたのがリークさん。貴方なんです」
「なるほどね。一本取られたわけか」
俺の言葉にニヤリと笑うリークさん。偽物でもなく本当にリークさんなんだろう。彼がなぜこんなことをしているのか…
「お察しの通り、俺は帝国のスパイだ。キメラによる襲撃も俺がやったことだ。本当は貴族達が殺すのを待っていたんだが、思いのほか暗殺者が弱いのとここの護衛達が強くて中々殺せなくてな。
痺れを切らした俺の雇い主がキメラを放つように言ったんだ。もう少しで殺せそうだったのに邪魔が入ったけどな」
「帝国はなぜアレク様を殺そうとしてるんですか」
「ここが貿易の拠点だからだよ。この大陸を攻めるにも食料や人が必要だ。それをスムーズに運ぶための拠点にしたいのさ。それに公爵が死ねば一時的に国が荒れるだろう。その隙を狙って戦争を仕掛けようとしていたわけだ」
おかしい…なんでこんなにも色々と教えてくれるのだろうか。何か企んでいるんじゃ……。
「敵を目の前に考え事はダメでごじゃるよ。ソラ殿」
次の瞬間リークさんは何かを投げたと思うと辺りは煙に包まれてしまった。驚くもすぐに探索を使い周囲の人の位置を確認する。
アレク様は無事だ…。護衛の2人も。そして隠れてこちらの様子を伺っていたライドも無事なようだ。
リークさんは近くにいないが、この場からどんどんと離れていっている。この方向は港がある方だ。
「アレク様、リークさんは港へと向かっています。追いますか」
「いや、よい。港にはクリスとロイがいるだろうからな」
「2人が?」
「あぁ。だから追わなくてもよい。2人が帰ってくるのをまつぞ」
「分かりました」
「ソラとライド。お前たちは宿舎で待て。護衛はネルとシオンに引き続き任せる」
「「はっ!」」
いつの間にかアレク様のそばにいた2人は返事をすると、アレク様はそのまま屋敷へと戻っていった。
隠れていたライドもゆっくりと出てくる。
これは…目に見えて落ち込んでいる。耳としっぽが垂れている幻覚が見えそうだ。
そりゃああんだけ仲良くしていた相手が敵国のスパイだったなんて、信じられないよな。ライドは相当リークさんに懐いていたし…。
なんと声をかければよいか考えていたらライドが勢いく自分の頬を叩いた。
「よし!ソラ、宿舎に帰るぞ」
「う、うん」
いつものライドだ。先程までの落ち込んでいる様子はなく、いつも通りだ。
俺たちは宿舎に帰り何か進展はないか待っていたが、招集がかかったのは次の日になってからだった。
次の日、招集のかかった俺たちは朝早くからアレク様の執務室に来ていた。部屋の中には護衛の任務中のネルとシオンさん、俺とライド、クリスさんとロイさんが居た。
「すみません。リークは逃がしてしまいました」
「構わん。他には」
「屋敷内にリークの他に10名ほどスパイがおりました。全て捕らえており現在地下の牢屋に入れております。捕らえられた人物の名前はーーー」
ロイさんが次々と捕らえていった人物の名前をあげる。その中には俺によく話しかけてきてくれたメイドの名前も上がっていた。
「以上です。どういたしましょう」
「とりあえず持っている情報をできるだけ吐かせろ。対処はその後だ」
「了解しました」
ロイさんが深々と頭を下げる。とりあえず今すぐどうにかなるわけでは無さそうだ。
「さて、ソラ、ライド、ネル。お前たちのおかげでリークがスパイだとわかった。何か褒美をやらないとな」
「いえ。俺たちは何もしてません。アレク様を危険に晒してしまいましたし…」
「別に危険になったとは思っておらんよ。俺には優秀な護衛がついているからな」
まぁここの護衛隊の皆さんならば心配しなくても良いだろう。
「けどお前たちが出してくれた作戦のおかげだ。ここは素直に褒美を貰っておけ」
「分かりました。有難く頂戴します」
ライドとネルを見て頷くと、アレク様に向き合い頭を下げる。俺は何もしてないのに貰ってもいいのかと考えるけど、ここは素直に貰っておこう。
アレク様は指を鳴らすと執務室の扉が開き、外から執事やメイドがたくさんの荷物を持って部屋の中には入ってきた。
これは一番最初にここに、来たことを思い出すぞ。まったく同じ光景だ。
次々と箱がどんどんと積み上げられている。今あるだけでも前回の倍はありそうなのにまだ運ばれてきている。いつまで続くんだこれ。
1
お気に入りに追加
1,253
あなたにおすすめの小説
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜
カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。
その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。
落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。
婚約破棄しろと迫られまして。
えんどう
恋愛
国民から愛され、絶世の美女と謳われている王女・アリアナに呼び出された侯爵令嬢のシャルロット。
突然の招待に緊張していると、王女から告げられたのは、シャルロットの婚約者であるアルフレッドと王女は想い合っているが、昔からの婚約者のシャルロットがいるせいで自分たちは結ばれないのだということ。
政略的な婚約でありながらもアルフレッドを慕っていたシャルロットが考えたのは、失恋のことよりも、新たな婿養子をどうするかだった。
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
悪役令嬢は努力します。
月島
恋愛
目が覚めたらファンタジー世界。
前世ではまっていた乙女ゲームの公爵令嬢リオン・クウォーツに転生していた主人公。しかしリオン・クウォーツは悪役令嬢で物語の最後には婚約破棄され国外追放される人物!5歳から始まる物語、主人公は努力して無事人生を全うできるのか!?
主人公がひたすら努力して周りとの関係改善していく中でのラブファンタジー。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
義妹が勝手に嫉妬し勝手に自滅していくのですが、私は悪くありませんよね?
クレハ
恋愛
公爵家の令嬢ティアの父親が、この度平民の女性と再婚することになった。女性には連れ子であるティアと同じ年の娘がいた。同じ年の娘でありながら、育った環境は正反対の二人。あまりにも違う環境に、新しくできた義妹はティアに嫉妬し色々とやらかしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる