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旅立ち

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side ソラ

アレク様に当たる前にナイフを防ぐ。一撃が重く吹き飛びそうだ。一撃を防がれた相手は俺たちから距離をとる。

「こんな所で貴方と会いたくはなかったですけどね」

雲に隠れていた月が庭園を照らす。徐々に暗殺者の顔が顕になっていくと、想像していた通りの人物がそこに立っていた。

「いつから気がついていた?」
「全く気づきませんでしたよ」
「だったら何故」
「アレク様に協力して貰って、フリーになる時間を作ってもらったんです。それでそれを護衛の人に伝える。そうしたらスパイが殺しにくるかと思って。

そしてそれぞれに違う時間や日にちを伝えていました。朝の食堂や、昼の執務室、夜の庭園と変えて。そして夜の庭園でフリーになると伝えられたのがリークさん。貴方なんです」
「なるほどね。一本取られたわけか」

俺の言葉にニヤリと笑うリークさん。偽物でもなく本当にリークさんなんだろう。彼がなぜこんなことをしているのか…

「お察しの通り、俺は帝国のスパイだ。キメラによる襲撃も俺がやったことだ。本当は貴族達が殺すのを待っていたんだが、思いのほか暗殺者が弱いのとここの護衛達が強くて中々殺せなくてな。
痺れを切らした俺の雇い主がキメラを放つように言ったんだ。もう少しで殺せそうだったのに邪魔が入ったけどな」
「帝国はなぜアレク様を殺そうとしてるんですか」
「ここが貿易の拠点だからだよ。この大陸を攻めるにも食料や人が必要だ。それをスムーズに運ぶための拠点にしたいのさ。それに公爵が死ねば一時的に国が荒れるだろう。その隙を狙って戦争を仕掛けようとしていたわけだ」

おかしい…なんでこんなにも色々と教えてくれるのだろうか。何か企んでいるんじゃ……。

「敵を目の前に考え事はダメでごじゃるよ。ソラ殿」

次の瞬間リークさんは何かを投げたと思うと辺りは煙に包まれてしまった。驚くもすぐに探索を使い周囲の人の位置を確認する。

アレク様は無事だ…。護衛の2人も。そして隠れてこちらの様子を伺っていたライドも無事なようだ。

リークさんは近くにいないが、この場からどんどんと離れていっている。この方向は港がある方だ。

「アレク様、リークさんは港へと向かっています。追いますか」
「いや、よい。港にはクリスとロイがいるだろうからな」
「2人が?」
「あぁ。だから追わなくてもよい。2人が帰ってくるのをまつぞ」
「分かりました」
「ソラとライド。お前たちは宿舎で待て。護衛はネルとシオンに引き続き任せる」
「「はっ!」」

いつの間にかアレク様のそばにいた2人は返事をすると、アレク様はそのまま屋敷へと戻っていった。
隠れていたライドもゆっくりと出てくる。
これは…目に見えて落ち込んでいる。耳としっぽが垂れている幻覚が見えそうだ。

そりゃああんだけ仲良くしていた相手が敵国のスパイだったなんて、信じられないよな。ライドは相当リークさんに懐いていたし…。

なんと声をかければよいか考えていたらライドが勢いく自分の頬を叩いた。

「よし!ソラ、宿舎に帰るぞ」
「う、うん」

いつものライドだ。先程までの落ち込んでいる様子はなく、いつも通りだ。

俺たちは宿舎に帰り何か進展はないか待っていたが、招集がかかったのは次の日になってからだった。




次の日、招集のかかった俺たちは朝早くからアレク様の執務室に来ていた。部屋の中には護衛の任務中のネルとシオンさん、俺とライド、クリスさんとロイさんが居た。


「すみません。リークは逃がしてしまいました」
「構わん。他には」
「屋敷内にリークの他に10名ほどスパイがおりました。全て捕らえており現在地下の牢屋に入れております。捕らえられた人物の名前はーーー」

ロイさんが次々と捕らえていった人物の名前をあげる。その中には俺によく話しかけてきてくれたメイドの名前も上がっていた。

「以上です。どういたしましょう」
「とりあえず持っている情報をできるだけ吐かせろ。対処はその後だ」
「了解しました」

ロイさんが深々と頭を下げる。とりあえず今すぐどうにかなるわけでは無さそうだ。

「さて、ソラ、ライド、ネル。お前たちのおかげでリークがスパイだとわかった。何か褒美をやらないとな」
「いえ。俺たちは何もしてません。アレク様を危険に晒してしまいましたし…」
「別に危険になったとは思っておらんよ。俺には優秀な護衛がついているからな」

まぁここの護衛隊の皆さんならば心配しなくても良いだろう。

「けどお前たちが出してくれた作戦のおかげだ。ここは素直に褒美を貰っておけ」
「分かりました。有難く頂戴します」

ライドとネルを見て頷くと、アレク様に向き合い頭を下げる。俺は何もしてないのに貰ってもいいのかと考えるけど、ここは素直に貰っておこう。

アレク様は指を鳴らすと執務室の扉が開き、外から執事やメイドがたくさんの荷物を持って部屋の中には入ってきた。
これは一番最初にここに、来たことを思い出すぞ。まったく同じ光景だ。
次々と箱がどんどんと積み上げられている。今あるだけでも前回の倍はありそうなのにまだ運ばれてきている。いつまで続くんだこれ。

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