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旅立ち

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「クリスの事が知りたいでこじゃるか?」
「はい。一緒に仕事をする方なので少しでも知っておこうかと」

次の日、ライドとネルと共に訓練所に連れて行って貰う。訓練所も当然のごとく広く、あちらこちらで色んな人が練習をしている。

「リークさんはクリスさんと一緒に仕事をして長いんですか?」
「そうでもないでごじゃる。拙者は1年前、クリスは半年前に護衛になったばかりでごじゃる。仕事中はフランクそうなんじゃが、プライベートでは誰とも関わらないからどうやって過ごしているのか誰も知らないのでごじゃる」
「そうなんですか」
「まぁ悪い奴ではないと思うでごじゃるよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「何話してるのかにゃ?」
「シオンさん。おはようございます。クリスさんの事を聞いていたんです」

後ろから突然声をかけられる。見なくてもシオンさんとわかる話し方だな。猫人族はみんなこんな話し方なんだろうか。
シオンさんの声を聞いたネルは俺を盾にしてシオンさんから隠れようとしているが、身長的に俺の方が小さいから当たり前のようにはみ出ている。けれどロイさんに怒られたからか、シオンさんがネルに飛びつくことはなかった。

「おはようにゃ。クリスかぁ。クリスは謎多き男にゃ。休日は何をしてるのかわからないし、なんの仕事をしていたのかも教えてくれないのにゃ。
自分のことは全然話さないから、名前と年齢以外はほとんど知られてないにゃ」
「そうなんですか」

困った。クリスさんの情報が集まらないぞ。意図的に自分の情報を隠してるんだよな。ちょっとクリスさんが怪しく見えてきた。

「それよりもあたしはソラっちと手合わせしたいにゃ」
「え、俺とですか?」
「そうにゃ。2日前の暗殺者や、その前のキメラ討伐もソラっちが倒したって聞いたにゃ。それを聞いて挑まないわけないにゃ!!」
「ソラ殿、やめた方が…」
「いえ、シオンさんお願いします」

リークさんには止められたが、俺はシオンさんと手合わせをする事に決めた。クアールではカイトさんと手合わせをしていたのだ。そう簡単にシオンさんに負けるはずがないだろう。

俺は訓練用の剣を構える。シオンさんは探検を両手に持っている。二刀流なんて初めて見た。

「じゃあ拙者が審判をするでこじゃる。危なくなったら止めるでごじゃる」
「わかりました」
「了解にゃ」
「魔法もスキル使用もありでごじゃる。殺さないようにだけはきをつけるてもらごしゃるよ。では始め!」

相手がどう行動するかわからない。まずは先手必勝だ。俺は速度強化のスキルを使用し一瞬で間合いを詰める。これなら簡単に終わりそうだ。シオンさんの額めがけて剣を突き刺す。が俺の剣はシオンさんに刺さることなく、いつの間にかシオンさんは目の前からいなくなっていた。

「遅いにゃ」
「終了。シオンの勝ちでごじゃる」

いつの間にか首筋にシオンさんの剣が当てられていた。リークさんの言葉を聞いてシオンさんは剣を納める。
シオンさんの動きはまったく見えなかった。速度強化のスキルを使用していたのに反応すら出来なかった。シオンさんはどれだけ早く動いていたんだ。

「2人は見えたか?」
「何も。ソラが向かっていったのは分かったが瞬きの間に終わってた」
「私もです。シオンさんの動きは見えませんでした」

「むふふー。あたしは強いのにゃ」
「シオンはこれでも護衛隊の中で上位を争う実力者なのでごじゃる。スピードだけでなら隊の中で1番でごじゃるよ」
「凄いですね。どうやったのか教えていただいてもいいですか?」
「そんな難しいことはしてないにゃ。こうグワーッと走って、シュバッとすればいいだけにゃ」
「グワーッ?シュバッ?」
「そうにゃ」

独特の擬音でわからない。これで説明になるのだろうか。ライドの方をちらっと見ると少し理解しているようだ。もしかして獣人にしかわからないとか?後でライドにも聞いてみよう。

「ま、まぁこんな風に手合わせでも素振りでも好きなように過ごしてもらって構わないでごじゃるよ」
「わかりました」
「もし拙者たちと手合わせしたい時は何時でも言うでごしゃる。休みであれば手を貸すでごじゃるよ」
「あたしも手伝うにゃ」
「ありがとうございます」

色んな人の鍛錬もみれるし、2人に手合わせをして貰えるなら常に自分の実力が把握できるぞ。


その後それぞれで鍛錬をしながら、リークさん、シオンさんに手合わせをお願いし全負けした。シオンさんはやはり速さについていけない。リークさんは速さはないけれど、気迫がすごく、流れるような刀さばきに手も足も出なかった。

今は夕食も風呂も住んだので、それぞれ部屋に戻って休んでいる。

「俺ってスキルの使い方が下手なのかな」
「どうしたいきなり」
「ほら、シオンさんに全負けしたろ?それも攻撃がかすりもしない。シオンさん速度強化のスキルを持ってるけどレベル8らしい。俺はレベル10なのに勝てないって、スキルの才能がないのかなって」

当然シオンさんのスキルはレベルマックスだと思っていた俺は落ち込んだ。俺の方がスキルレベルが高いのに、俺の方が遅いなんて絶対にスキルの才能がないに違いない。

「そうかぁ?多分種族の差だと思うぞ」
「種族の差?」
「俺もシオンさんも獣人族だろ?獣人族は他の種族に比べて速く動けるんだよ。元々が速いのに、それに加えてスキルが合わさって余計に速くなってるんだと思う。まぁシオンさんの場合はセンスもあるんだろうけど」
「そうなのか。知らなかった」

そんなことがあるんだな。他の種族でもあるんだろうか。今度調べてみよう。

けれど種族やセンスの差はどうやって埋めればいいんだろうか。やっぱり努力しかないよな。うん、頑張ろ。1ヶ月の間に2人から1回でも勝てるようにしなきゃ。

次の休みにはナナバ亭に行って、鍛錬もして、クリスさんのことも調べないとだ。なかなか忙しくなりそうだ。


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