上 下
53 / 78
旅立ち

2

しおりを挟む

次の日の朝、ライドとネルはリビングで突っ伏していた。どうやら二日酔いのようだ。

「頭痛てぇ…」
「世界が回ります…」
「飲み過ぎなんだよ」

俺は2人を置いて早めに寝たからいつまで飲んでいたのかは知らないが、朝リビングに来た時は寝る前より増えていたからあれからもずっと飲んでいたのだろう。

「まったく…ほら、これでも飲んで」

俺は貝のお味噌汁を2人にだした。地球では二日酔いにはシジミの味噌汁と聞いてたけどこの世界では何を飲むんだろうか。
朝ごはんは魚の干物と味噌汁、それにパンだ。このラインナップなら米を食べたいところだけど、この街で米を見たことがない。いつか見つけたいところだ。創ればすぐに食べられるのだけど、探す楽しみというのもあるからな。しばらくは我慢しよう。

「試験が今日じゃなくて良かった…」
「こうなるかもしれないと思ったんだよ」

ゆっくりとご飯を食べる2人を横目で見ながらササッと朝ごはんを食べ終える。

使った食器をシンクに持っていき部屋へと戻る。1年前までは殺風景な部屋だったが、今ではたくさんの物がある。魔法を勉強するために買った魔法書やいつか家に帰った時にアリシャに渡すつもりの人形、剣の練習をするための木の剣などだ。

「試験は明日だし、今日は何しようかなぁ」

魔法の練習や剣の練習は…明日に響くといけないから今日はやめておこう。それなら創造も…特に作りたいものもないな。

なんだかんだで何もしない1日は初めてかもしれない。いままで依頼や練習ばかりでまともに休んだことはなかった気がする。村にいた頃もスキルのレベル上げしてたから休んだりはしてなかったもんな。

「ちょっと2人に聞いてみよう」

2人はまたリビングにいた。少し復活したようだ。

「ねぇ2人とも」
「ん?どうした?」
「2人は休みの日は何してるの?」
「休みの日?俺は市場で武器や防具を見てまわってるかな。なんかアイデアがでるかもしれないし」
「私は本を読んでますね。本に集中するのもいいものですよ」

2人の休日の過ごし方が思い描いたもの通りですこし笑ってしまう。やっぱり各々ちゃんと休んでたんだな。

「ソラはどんな風にすごしてるんだ?」
「実は分からなくて…今までちゃんと休んだことがなかったから」
「そういえば何かしらしてたもんな。そうだな…可愛いねぇちゃんがいっぱいいる店に痛てぇ!!」
「ソラさんに変なことを教えないでください」

ライドが言い終わる前にネルがライドな頭を叩く。最初は畏まりすぎていたネルだけど、さすがに慣れてくれたようだ。敬語だけはやめてくれないけど。一応ネルが最年長なんだけどな。

「図書館に行かれてはどうです?」
「図書館?」

魔法の本を借りるために何度か行った事はあるけど、もう借りる魔法の本もなかったはずだけど…

「これからどこに行きたいか下調べするのもいいかもしれません。どんな国があるのか、どんな景色があるのか書いてある本があると思いますので」

そういえばこの街以外ほとんど知らないんだった。旅に出るなら他の国のことも知らないとだよな。

「ネルありがと。じゃあ図書館に行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
「おー」

善は急げと走って図書館へと向かう。そういえばいままで他の街のことなんて考えもしなかった。まぁ今の目標がBランクにあがることだったからな。それしか見えてなかった。

街の中心街にある図書館へと入る。現在のCランクではほとんどの本が見れるようになっている。AランクとSランクから閲覧できる本は厳重保管はされているらしく、この場にはないらしい。

「えーっと…世界地図がいいのかな」
「おや、ソラ君」
「あ、キースさん。こんな所で奇遇ですね」

そこには私服を着たキースさんが立っていた。普段は受付にいるキースさんが図書館内にいるのはなんか違和感がある。

「はい。ソラ君は何か探してるのかい?」
「他の街や国の事が書いてある本を探してて」
「ふむ…それならこの辺りがいいかもしれないね」

そういってキースさんは数冊本を取ると俺に渡してくる渡された本は【世界の国々】や【ここは押さえるべき!!世界の絶景百選】など書かれている。

「旅に出ることを考えているなら読んでおくと良いよ。オススメは一番下の本だよ。じゃあ明日待ってるね」

渡すだけ渡すとキースさんは行ってしまった。受付にいる時は俺たち以外に対応してなくて暇そうな感じがするけど、実は忙しい人なのかも。
俺は渡された本を持ったまま館内の読書スペースに座った。本を机に置き、何を渡されたのか確認する。

「【世界の国々】に【絶景百選】。【王族へのマナー】まである。他には…【人間と他種族】【奴隷の扱い方】?なんでこんなものまで…」

キースさんの言ってたオススメは奴隷の扱い方の本だろう。俺は奴隷の扱い方の本を手に取ると最初に読んだ。







「ふぅ。とりあえず渡されたのは全部読んだかな」

渡された本は意外とボリュームがあり、全て読むのに半日ほどかかってしまった。朝一に来たのにもう閉館時間だ。俺は慌てて本をあった場所に戻す図書館から出た。

「さすがキースさんセレクト。ほんとタメになったな」

特に奴隷の本についてはとても良かった。どの国が奴隷売買ができるのか書いてあった。ということはその国に行く時は注意しなければいけないと言うことだ。

さすがに狙われる事はないと思うが、警戒するに越したことはないからな。

「うーん。ずっと座ってたから体が痛いな。少し走って帰るか」

ゆっくりと走りながら家へと向かう。
いよいよ明日は昇級試験だ。もしBランクに昇級することが出来たらこの景色を見るのもしばらくなくなるんだな。少し寂しくなるな。

「って、合格前提で考えてたな」

昇級試験がなんなのか分からない以上必ず合格するという確信なんかない。
とりあえは明日頑張るだけだ。

「夢への第一歩。頑張るぞ」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~

あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい? とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。 犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

処理中です...