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新しい街
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しおりを挟む「ご馳走様でした」
夕食はとても美味しい。やはりこの宿のご飯は外れがない。外れはないんだけど……
「どうなさいました?」
「なんでもないよ」
ご飯を食べている間、ずっとネルが部屋にいたせいでゆっくりと食べることが出来なかった。じっと見られて食べるご飯がこんなにも喉を通りにくくするなんて初めて知った。
そんなネルだが今は俺が食べた食器を下に持っていってる。そんなことはしなくていいと言ったが、どうしてもと言われたためお願いしている。
「もう奴隷じゃないんだけどな」
奴隷としての行動が染み付いているんだろうか。あのままの態度を取られると他人から誤解されかねない。どうにかして止めさせないと…
「ただいま戻りました」
「あ、おかえりなさい」
戻ってきたネルは部屋の中に入るが入口で立ったままだった。どちらも何も言わないまま時間だけが過ぎていく。
「えっと……ネル?」
「ソラさん。お願いがあります」
「お願いってぇぇぇ!?ネルさん!?」
ネルの言葉にパッと顔を上げるとネルは自分の服を脱ぎながらこちらに来た。白い肌が微かに見えたが、俺は慌てて両手で目を隠す。
「な、何してるの。とりあえず服着て!!」
「申し訳ありません。こちらを見ていただけますか?」
指の隙間からゆっくりとネルを見る。ネルは俺に背中を向けている。着ていた服は全部脱いでおり前を隠しているのがわかる。
指の隙間からネルの背中を見ていると、髪に隠れた場所に何か描かれているのがわかる。
「それは?」
「闇の紋章です」
ネルが片手で髪を持ち上げると闇の紋章が露になる。白い肌に黒い紋章が映えてとても綺麗に見えるのだが、今言うべきではないだろう。
「事情は後でお話します。ソラさんお願いです。この紋章を消してください」
「え、でも消し方しらないよ」
「大丈夫です。私の言った言葉を繰り返して言ってください。“この地に集いし聖の精霊たちよ。闇の力が集まりしこの呪いを打ち消し、彼の者に祝福の光を与えよ デスペル”」
ネルの言葉の後に同じ言葉を呟いていく。詠唱が終わるとネルの背中にあった紋章が光り少しずつ薄くなっていく。徐々に光も収まると背中にあった紋章は全て消えて無くなっていた。
「あぁ、見える。見えるわ」
背中の紋章が消えるとネルは笑顔を浮かべながら涙を流していた。突然の涙に対処出来る訳もなく、俺はネルが泣き止むまでオロオロしていた。
「申し訳ありませんでした」
数十分後、落ち着いたネルは何度も俺に謝り頭を下げていた。先程唱えた魔法は思ったよりも消費魔力が大きかったようで、俺の魔力は枯渇寸前だった。
倒れはしないが気分が悪い俺はベットに寝かされている。
「いや、大丈夫だよ。それよりなんだったのか聞いてもいい?」
「はい。これまでの事全てお話します」
「私はエルフの里に住んでいました。エルフの里は森の奥深くにあり、人間たちは入れないような場所にあります。森は精霊の力も借りて、エルフ以外には場所さえも見つからないような所です。
10年前のある日私は友達と森の外に出てみようと言う話になりました。生まれて50年ずっと森の中で生活してきた私たちは刺激が欲しかったのです。大人たちからは森の外に出るなと何度も言われていましたが、精霊たちの力があると思い過信していました。
その後私たちは森の出口付近まで何度も出かけました。今まで見つかったことがないので、大丈夫だろうと思いその日も同じ場所に行ったのです。
そこにはいるはずのない人間たちが居ました。私たちは驚きと恐怖から走って逃げたのですが小さい体では大人から逃げられる訳もなく捕まりました。もちろん魔法を使おうと何度も試しましたが、魔法は1度も使えませんでした。
後で知ったのですが、魔法も精霊の力も封じる封魔石を持っていたようです。私と友達はエルフだと言うことが知られていたため闇の紋章を直接身体にかけられました。
その後人間たちはすぐさま森を離れていき、1週間ほど馬車で走りました。馬車には私と同じような小さい子が何人も詰め込まれていました。その子たちの絶望した顔は今でも夢に出てくるほどです。
その最初の街から色んな人に買われ、売られをしながら最終的にたどり着いたのが白銀の獅子チームです。彼等には依頼の報酬として格安で売られました。その頃には身体も傷つき歩くのもやっとの状態でした。魔法は使えませんがなんとかアイテムボックスやエルフとしての知恵を使うことが出来たので生き長らえることが出来ました。その後はソラさん達に出会えて今の状況です」
ネルの言葉に呆然とした。この世界の奴隷は借金を返済できなかった時になる借金奴隷と犯罪をおかした人がなる犯罪奴隷だけだったはずだ。
「なんだよそれ!!犯罪じゃないか!!」
「大人たちの言いつけを守らなかった私達も悪かったんです」
「でも…」
「それに私はソラさん達に出会えました。おかげで闇の紋章も解呪して頂いたし」
「そうだ、その闇の紋章って?」
先程の魔法、デスペルは消え去った魔法の本に書いてあったものだ。けれど書いてあったものと詠唱が違っていた。
「闇の紋章はその名の通り闇魔法です。禁忌の魔法のひとつで強制的に相手の精霊との絆を断つことが出来ます」
「精霊の絆が無くなるとどうなるの?」
「まず里に帰ることが出来ません。あの里は精霊の力によって守られているので。他にも自然魔法が使えなくなったりしますが…1番は自分の半身に会えないことです」
「半身?」
「はい。エルフにとって精霊は生まれた時からそばに居るもの、いて当たり前のものなんです。とても大切な存在なんです。そんな精霊に会えないこの10年間本当に苦しかったんです。本当にありがとうございました」
「俺はただネルが言った言葉を真似しただけだよ。俺の知ってるデスペルとは違ったようだし」
「ソラさんが知ってるのは詠唱を簡単にしたものだと思います。それだと解呪できない可能性があったので、ちゃんとしたものを言わせてもらいました。それにこの解呪の魔法は闇魔法と聖魔法の属性を持っていないと使えないんです」
「え…ほんと?」
「本当です」
俺ネルに自分の属性魔法のこと教えたっけ?教えたとしてもギルドに登録している風と聖しか教えないようにしてるはずなんだけどなんで知ってるんだ。もしかしてネルも鑑定が使えたりするんだろうか。でも俺がネルのステータス見た時にはなかったよな。
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