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新しい街
初めての街ー1
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「ようやく冒険に出発だー!!」
俺はベッドから降りるとゆっくりと体を伸ばす。昨日は俺の誕生日だった。朝から村の人達に祝いの言葉を言われ、最後の仕事もした。リャドやアリシャには泣かれたり、俺がみんなに料理を振舞ったりと忙しい1日だった。
やはり村をでるのは名残惜しいがこれから先帰ってこないわけじゃないからな。
朝の準備をするといつもの席に座る。既に父さんたちも座っていた。朝は寝坊助のアリシャまで起きている。
「おはようアリシャ。今日は早起きさんだな」
「アリシャがんばったよ。おにーちゃんとばいばいするためにおかーさんにおこしてもらったの」
ふふんと胸を張るアリシャ。ほんと可愛い妹だ。そんなアリシャの頭を優しく撫でるとみんなで朝ごはんを食べる。
「もう出発なのね。ソラ、お弁当を作ってあるから持って行ってね」
「ありがと。母さん」
「あー、何時でも帰ってきていいが、中途半端なことだけはするなよ。いつも言っていたと思うが冒険者たるもの」
「「信頼が1番。そのためにも任務の途中放棄など言語道断!!」」
「だろ?」
何十回、何百回と聞かされたセリフ。息継ぎのタイミングだってバッチリだ。
父さんは俺が合わせてくるとは思っていなかったようで驚いた顔をしているが「そうだ」と笑うと俺の頭を力強く撫でた。
少し恥ずかしかったが、久々に撫でられる感触に手を払うことは出来なかった。
朝ごはんも食べ終わるとそろそろ出発の時間だ。俺は母さんの弁当もアイテムボックスに収納する。
手ぶらだと怪しまれるため肩がけカバンを一つだけ持っていくが、中身は大して入っていない。
「ソラ、これも持っていきない」
母さんが手のひら程の袋を渡してくる。中を確認すると金貨がたくさん入っていた。
「母さん、これ…!」
「冒険者時代に貯めてたお金よ。村じゃあまり使うことがないからね。ソラに使ってほしいの」
「でも…」
「だからね……死なないでね」
母さんは泣きそうな顔で俺を抱きしめる。アリシャを見ると今にも泣き出しそうだ。俺は母さんの背中に手を回す。
「分かったよ母さん。貰うよ。ちゃんと強くなるから。手紙も書くからね」
母さんから離れるとカバンの中に袋を入れる。
「うん。行ってらっしゃいソラ」
「おにーちゃん。ちゃんとかえってきてね!!」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます!!」
俺は家族に挨拶をすると家を出た。別に二度と会えないわけじゃない。少し寂しいけど俺の夢のための大切な一歩だ。
家を出て1時間程歩いた。道は綺麗に整備されているわけではないが、小石などは避けてあり馬車も通れるようになっている。
村にも月に1度は近くの街の行商人が大きな馬車をひいてくることもあった。
「1番近いのは確かクアールの街だったよな」
ここからだとあと2時間程で着くはずだ。父さんから冒険者時代の地図を貰ったから道が変わっていなければこのまま道沿いにいけば着くはずだ。
地図をカバンにいれるとお金の入った袋を取り出す。
正確に数えてはいないが、ざっと100枚以上はありそうだ。
この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類だ。
銅貨は日本円で100円、銀貨は1000円、金貨は10000円、白金貨は1000000円となっている。
その金貨が100枚以上あるってことは、100万円以上あるって事だよな。
「こ、これはアイテムボックスだな」
もし落としたりしたらダメだと思い、手元に数枚だけ残して残りは全てアイテムボックスに収納する。
アイテムボックス内に入れる時には頭の中に【何】を【どのくらい】いれたのか頭の中に浮かぶようになっている。神様に貰った布は【転移の布×1】となっていたし、今回の金貨は【金貨×106】となっていた。
手元には5枚あるから全部で111万円か。怖すぎる。
前世では働いて稼いだお金は家に入れるものだと思っていたから家賃や生活に必要な分だけ取ったあとは、全て実家に渡していたから貯金なんてなかった。だからこんな大金手にするのは初めてだ。
「い、いまさら緊張してきた。落とさないよな」
アイテムボックスにいれているので落とす心配はないのだが、大金を持っているとどうしても心配してしまう小心者だ。
「どうかなにもありませんように」
そんなことを願いながら俺はクアールの街まで向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お、あれがクアールの街だな」
あれから1時間半ほど歩くと目の前に大きな門と奥にお城があるのが見える。街までまだ距離があるのに大きく見えるなんて、目の前で見るとどんなに大きいんだろうか。
そんな事を思いながら歩みを進めていくと検問待ちの列の最後尾を見つける。列は2つに別れていて、1つは馬車をひいている商人や家族連れだ。もう1つは剣や槍を持っているのを見ると多分冒険者達だろう。
俺は一応商人たちと同じ列に並ぶ。
「ボウズ。お前この国に入るのは初めてか?」
どこから話しかけられなのかと思えば、目の前に並んでいた男がこちらを向いている。赤い髪に緑の目の長身の男だ。歳は20前といったところだろうか。
「あ、うん。冒険者になりたくて今日村から出てきたんだ」
「へえー。冒険者志望か。こりゃぁ早いうちから唾つけとこうかな。俺はセト。よろしくな」
「俺はソラです。よろしく」
隠す気もなく俺にも聞こえる声で話した男、セトは名乗ったあと右手を差し出した。俺も同じように名乗りセトの手を掴んだ。
「検問までは時間が掛かるんだ。話でもして時間を潰さねぇか?」
「どうやって時間を潰そうか考えてたところなので、セトさんさえ良ければ是非」
「そんな畏まった喋り方はするなよ。もっと気軽に話そうぜ。俺のこともセトでいい」
「えっと…わかったよ。セト」
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