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第1部 転生

第1章 魔力覚醒

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 意識がはっきりすると俺は赤ん坊になっておりベッドに寝かされていた。前世の記憶が無くなっておらず驚き、高二で死んだため突然の子供扱いに戸惑っている。
 そして転生して五年が経った。
 この世界の言語や常識は覚えるのがとても簡単だったため不自然さなく生活できている。転生したとは思われていないようだ。

 ここで自己紹介をしておこう。俺の名前は朝山櫂斗《あさやまかいと》。転生後の名前はカイというほとんど変わらない名前を付けられた。しかも容姿が前世の五歳の時と変わらないのだ。いや、細部は異なっているのかもしれない。少なくとも俺は差異を認知できない。このまま成長すると、完全に転生前と同じ姿になるのだろうか? もうちょっと格好良く生まれたかった……。
 今の家族は両親に姉と妹だ。転生前は一人っ子だったためきょうだいというのが新鮮だ。
 父はモルト。森で猟師をやっている。寡黙だが家族のことを一番に考えてくれる優しい父だ。母はエマ。家事全般が得意で特に料理が上手だ。普段は優しいのだが、怒ると怖い。超怖い。トラウマになるくらい怖い。姉はヴェラ。温厚でいざというとき頼れる姉だ。俺の二歳上で容姿端麗。幼い姿でこれだから大人になったらどんな美人になるかわからない。近所の男子の大半が好意を持っているという噂だが、本人はそれに気がついていない。妹はフィー。まだ二歳なのに謎の行動力を発揮し、目を離すとすぐに消える。一瞬でも消える。っと。家族紹介を話しすぎた。
 次にこの世界について説明しよう。父さんから聞いた話だ。
 俺達が住んでいるのがガルモンド王国ライトア領。ガルモンド王国にあるたくさんの領地のうち、フィアリー公爵家が治めているところだそうだ。ライトア領は自然が豊かで森も多くしかし田舎というほどでもない、とても過ごしやすい場所だ。そして表だって貧困に苦しんでいる人が見受けられないほどには生活も安定している。我が家は森の近くにある一軒家だ。生活環境はほとんど日本と変わりなく不自由なく生活している。驚いたことと言えば、照明が電気の代わりに魔術具というものを使っていることだ。この世界には魔法がある。貴族家だけが魔力を持っており、魔法を行使できる。魔術具は利便性の高いものを魔力を使って平民にも使えるようにしたものらしい。また、この世界には禁忌の森と呼ばれている場所があり、魔界と繋がっているらしい。魔界には魔族が住んでおり危険だから近づくなとのことだ。たまに魔界から魔族が迷い込んでくるらしく、その対処を貴族家が担っているらしい。まあ魔族の中には人間との共存を望んでいる者もいるらしいが。今までの生活の中で異世界要素がなかったため突然のファンタジーさに興奮した俺だったが、平民である俺に大半のことが関係なかったので興味もなくなっていった。

 そんなこんなでさらに五年が経った。俺は十歳になり、フィーは七歳になった。フィーは姉さんとは違い明るく、活発な性格だ。きょうだい三人の歳が近いこともあり、一緒に遊ぶことが多かった。
 そして最近悩みができた。それは近所でよく知られている悪ガキのグレン、ヴァイス、パミラの三人のことだ。リーダー格のグレンが姉さんにご執心なようで、よくちょっかいをかけてくることだ。それは言葉によるものだったり、嫌がらせだったり方法は多岐にわたった。
 ある日、事件が起きた。その日は暑い夏の日だったため俺達きょうだいは家の近くを流れる川で遊んでいた。すると、
「よう」
 グレン達がやってきて、
「ヴェラ。今日も相変わらず静かだな。ほんとに生きてんのか?」
 そんなことを言ってきた。姉さんが黙っていると、
「チッ。いつも言われっぱなしじゃなくて、たまには言い返したらどうだ?」
 と囃し立てるように言ってきた。毎度のことに腹が立っていた俺は、
「グレン! 姉さんに変なことを言うんじゃねえ! さっさとあっち行けよ!」
 と怒鳴り返した。
「あぁ? 年下がナメた口利いてんじゃねえよ」
 グレンがこちらに近づいてくる。その姿を見て俺は冷静になり、自分の発言を後悔した。相手はあのグレンなのだ。悪ガキ達を率いるだけあって喧嘩の強いグレンなのだ。しかし姉さんやフィーを守るためにはここで引くわけにはいかない。俺はグレンと対峙した。
 そこからはもう一方的だった。そもそも体格が違う。俺は平均的な体格だが、グレンは同年代の中でも特に大柄で力も強いのだ。そんな相手に俺が敵うわけもなく、あっさりと地面に組み伏せられてしまった。
「さぁて。どうしてやろうか」
 グレンが右手を振り上げる。
(殴られる!)
 そう感じた俺は咄嗟に歯を食いしばったその時、
「もうやめて!」
 姉さんだった。姉さんの大声を聞くのは初めてかもしれない。
「もう、私達を苛めるのはやめてよ……」
「は? 苛めてるわけじゃねえ。遊んでやってるのさ」
「そんな……」
 グレンの言葉に姉さんが絶句する。フィーが姉さんの後ろに隠れる。それを見て俺の中で何かが弾ける。遊んでやってるだって? 一方的な苛めじゃないか。姉さんを傷つけて……、フィーを怯えさせて……、許さない。
「ふ……ざけんな」
「あぁ?」
「ふざけんなって……言ってんだ」
 体の中から"何か"が湧き出てくる感覚。次の瞬間、俺の体中の傷が癒え、痛みも引いていった。
「なっ……お前っ、それは!?」
「今までよくも……よくも姉さんに対して色々してくれたな!」
 力がみなぎってくる。グレンが後ずさる。俺はゆらゆらと立ち上がる。体の調子がすこぶる良くなっている。力が漲ってくる。俺は飽きずに何度も姉さんを傷つけてきたことによる怒りと力が漲ってきたことによる高揚感に支配されていた。反撃に転じるべくグレンに殴り掛かった。
「ぐっ……」
 グレンはまともな防御もせずに吹っ飛んで行き、数メートル後方の土手にたたきつけられた。
(何この威力……。あり得ない飛び方していったぞ……)
 ヴァイスとパミラがグレンに駆け寄るのを見ながらそんなことを思った俺は急に襲ってきた倦怠感により体から力が抜けていった。
「カイ!」
「お兄ちゃん!」
 姉さんとフィーの叫び声を聞きながら意識を失った。

 目を覚ますと、俺は姉さんに背負われていた。
「姉……さん?」
「カイったら、無茶するんだから」
「あれ? 俺は一体……」
「お兄ちゃんはグレンを殴り飛ばしたと思ったら急に倒れちゃうんだもん。びっくりしたよ」
「そうだったね……。心配かけてごめんね」
「それはそうとカイが急に立ち上がったと思ったら体から何かもやもやした物が出て……。なんだったのかな?」
「え、なにそれ? 俺知らないんけど……」
「はぁ……。とりあえずこのことは父さんと母さんに話しましょう」
「うわぁ。怒られる気しかしない……」
 俺の言葉に姉さんとフィーが笑いだし、俺もつられて笑った。

 家に帰った俺たちは両親に事の顛末を伝えた。母さんは「もう! 無茶するんじゃありません!」って怒ってた。まじ怖かった。その一方父さんは何かに驚いていた。「嘘だ」とか「まさか」とか小さい声で呟いていた気がするけど、それ以上何も言ってこなかったから追及はしなかった。
 その翌日からグレンの嫌がらせの対象は姉さんから俺に変わった。まあこれで姉さんが狙われることも少なくなるだろう。俺も男だからある程度なら抵抗できる。

 そんな日々を過ごして三年が経った。俺は十三歳になった。ますます転生前の姿に似てきた。姉さんは十五歳になった。昔から容姿端麗だとは思ってたけど成長するとやっぱり美人だ。可愛いというより綺麗って感じ。え? シスコンみたいだって? そんなわけないじゃん。俺には杏がいるもん。フィーは十歳になった。何故か成長するにつれて反抗的になってきた。少し寂しい気がする。そしてこの年……俺の秘密が明かされることになった。
 それは寒い冬の日だった。日課であるランニングを終え帰宅する途中、家の方向から大急ぎで走ってくる人がいた。父さんの猟師仲間のクレルさんだ。
「カイっ!」
「どうしたんですかクレルさん。そんなに急いで」
「大変なんだ! モルトが猟の最中に熊に襲われて重傷を負ったんだ! さっき家に届けたから今から医者を呼んでくる。お前さんはモルトのそばにいてやれ」
 それだけ言うと走り去っていった。
(父さんが……重傷!?)
 俺は家に帰り、父さんの寝室に向かった。父さんは布団に横たわっており、家族みんなが心配そうに眺めていた。
「あ、お兄ちゃん。お父さんが……」
 俺に気付いたフィーが声をかけてきた。いつもは明るい彼女がいつになく暗い表情をしている。ほかの二人も同様だ。と、そのとき
「……っ。うぅ……」
 父さんが急に呻き声をあげた
「あなた!?」
「「「父さん!?」」」
 俺達は父さんに駆け寄った。手を握る。このままでは死んでしまうかもしれない。前世に引き続きこの世界でも大切な人をを失うのか?そんなのは…もう嫌だ。あの悲しみを二度と味わいたくない。
「父さん。死ぬな、死なないでくれっ!」
 そう叫んだ瞬間、体の中で"何か"が弾け湧き出してきた。そう、まるで以前グレンを殴った時のように。母さんたちが息をのむのがわかった。しかし、それに構ってなどいられない。体からどんどん"何か"が抜けていく感覚がする。倦怠感が増して頭がふらつく。急に、抜け出ていた"何か"が止まり、得体のしれない疲労から意識が薄れていった。

 父さんが急に呻き出し、カイが手を握ったと思ったらカイの体から靄のようなのが出てきて……。私はその光景に既視感があった。カイがグレンから私を守ってくれた時のようだ、と。突然服の裾をつかまれる。フィーがカイをじっと見つめていた。
「お姉ちゃん……。お兄ちゃんどうしちゃったの?」
「私にもわからない……」
 急にカイの体がふらつく。私は咄嗟にその体を受け止めた。カイは意識を失っていた。そして父さんの体の傷が塞がっていた。おかしい。常人の治癒力じゃない。カイが何か……? 私はカイを寝室に運ぶため抱きかかえた。
 カイの重みを感じながら私は先程起こった不思議な現象に考えを巡らせていた。明らかに異常。得体のしれない何か。カイは普通の少年じゃないのかもしれない。そんなことを考えていたけどカイの寝顔を見るとどうでもよくなってきた。カイはカイ。どんな秘密があろうとも私の弟。私はカイの味方でいよう。そう決心したのだった。

 目が覚めると俺はベッドに寝かされていた。また意識を失ってしまったらしい。足元に重みを感じる。姉さんが布団に突っ伏して眠っていた。ずっと俺を看ていてくれたのだろう。窓の外が暗い。真夜中のようだ。俺は自分の身に起こったことを重い返した。父さんを助けたい一心でを握っていると、倦怠感が襲ってきて……
(父さん……。父さんは無事なのか?)
 俺は姉さんを起こさないようにベッドを出て父さんの部屋に向かった。部屋の中の様子をうかがう。規則的な寝息。眠っているようだ。どうやら命は助かったらしい。俺は安堵して部屋に戻ると姉さんが起きていた。姉さんは寝ぼけ眼でこちらを見ると、安心したように
「カイ……。体はもう大丈夫なの?」
 と尋ねてきた。
「うん。もう大丈夫だよ。ありがとう」
「ならいいんだけど……」
 姉さんの歯切れが悪い。こちらをチラチラと見てくる。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね……」
 そう言うと少しの間黙り込む。そして意を決したように俺を見て
「カイは一体何者なの? カイの体には何が起こっているの?」
 俺はその言葉を聞いてドキッとした。自分でもわからない。でも二度目となるとたまたまとは言いづらい。もしこの正体がわかったら、家族が離れていってしまうかもしれない。そんな恐怖から冷や汗が出てきた。
「……わからない」
 俺はかろうじてそう返事することができた。姉さんの反応は? ……侮蔑? ……拒絶? 嫌なイメージばっかり出てくる。
「そっか……。ならもう何も聞かないよ。おやすみ」
 俺の予想とは異なり姉さんの反応はあっさりとしたものだった。俺は拍子抜けする。安堵と共に何故?という疑問が浮かんでくる。
「……気味悪くないのか?」
「なんで?」
「だって……こんなよくわからない現象が俺の身に起こっていて…」
「どんなことがあろうとカイはカイだよ。気味悪いなんで思うはずないじゃない」
「……」
「じゃあもう遅いから寝るね。カイも寝てよ? おやすみ」
 姉さんはそう言うと部屋を出ていった。俺はしばらくの間呆然としていた。こんなに奇妙なことが俺の体に起こっているのに姉さんは気にしないという。そのことに俺は嬉しく、そしてまた感謝の気持ちが浮かんだ、それにしても姉さん優しいな。ヤバい惚れそう。実姉なのに……。

 翌朝。俺が起きて居間に行くと他のみんなが既に集まっていた。父さんも普通に生活できる程度に回復したらしい。しかし何やら思いつめた様子。俺のことだろうか。俺が席についたのを見届けた父さんは
「みんなに話がある」
 と切り出した。みんなの顔に緊張が走る。
「内容はほかでもない。カイについてだ」
 予想通りだ。今回で俺が倒れるのは二回目。父さんは前回、何かに気が付いていたようだし今回のことで確信したのだろう。姉さんとフィーが俺を一瞥する。
「三年前カイが倒れた時は半信半疑だったが今回のことで確信した。カイは……魔力に目覚めたんだと思う」
 俺、姉さん、フィーの目が丸くなる。母さんは驚いていない。母さんも気づいていたのだろう。
「ちょっと待って。魔力って貴族しか持ってないんじゃないの? なんでカイが……」
 姉さんが立ち上がり父さんに尋ねる。
「理由は分かっているが……すまない。秘密だ。まだお前たちは知らないほうがいいだろう」
「そんな……」
 姉さんが崩れるようにして席に座る。居間に沈黙が流れる。
「でも」
 そこで突然フィーが口を開いた。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんのまんまなんでしょ? なら今まで通りでいいんじゃないの?」
 フィーが……。あの反抗期のフィーが……。そんなことを言うなんて…。
「そうよね。そのとおりよ。そのおかげで父さんも助かったしね」
「そうだな。ありがとう、カイ」
 みんなが俺を見て微笑んだ。俺も一緒になって微笑む。
 それにしても秘密、か。母さんも知っているのだろうな。きっといつか話してくれるだろう。

 俺が魔力持ちであることが判明してから3年。俺は16歳になった。最早転生前の姿と一致している。もううちょっと身長高くなんないかなぁ。姉さんは18歳。立派な大人だ。綺麗なんだけど男っ気が全くと言っていいほど無い。姉さんのことを好きな人は結構いるのにね。フィーは13歳。反抗的な態度に拍車がかかってきた。相変わらず冷たくあしらわれるのは俺だけだが……。
 そんなある日、事件が起きた。
 その日は母さんに買い物を頼まれ、市場に行っていた。俺は率先して買い物の手伝いをするようにしている。色々な場所に行けば杏に会えるかもしれないからね。その日も市場で買い物を済ませ、用事はないけど杏らしき人がいないか探していた。結果は惨敗。今日も収穫はなかった。半ば落ち込んでついた帰り道。いつも通っている大通りを歩いていた。相変わらず大通りは人が多いな…。そんなことを考えていると、突然
「危ない!」
 と、叫ぶ声が聞こえた。後ろ振り返ると目の前に馬車が迫っていた。馬が暴れているため、制御がきかないだろう。俺はあまりのことに体が硬直し、思考が停止してしまった。次の瞬間、俺は宙に浮かび地面に叩き付けられた。肺の中の空気が出ていく。体中が痛い。息が苦しい。体が思い通りに動かない。路面に赤い液体が流れていくのが見える。俺の……血!? 相当な量だ。このまま死んでしまうのだろうか…。
 ……。
 ……。
 ……死にたくない。
 ……まだ杏に会えてないのに、まだまだやりたいことがたくさんあるのに死んでたまるか!
 その時急に体が熱くなった。以前のように"何か"が体から出ていく。体中にから痛みが引いていった。これは……。その正体に思い当たる前に俺の意識が薄れていった。

 カイが馬車に轢かれた数時間後、ライトア領領主の屋敷執務にて、ライトア領領主アラン・フィアリーは娘の家庭教師を誰にするか悩んでいた。すると
「失礼します」
 一人の男が入ってきた。アランが領内の様子を探るために一般人に扮装させている"影"の一人だ。
「どうした? 領内で何かあったのか?」
「それが……、大通りで馬車が暴走しまして、カイという少年が轢かれたのですが……」
「それがどうかしたか?それだけならわざわざ言う必要もないだろう」
「いえ、その少年が轢かれた後に治癒魔法らしきものを使用したのが確認できまして……」
「何だとっ!?」
 アランは突然立ち上がった。一般人が魔法を使うなんて前代未聞。驚いて当然だろう。部屋中を歩き回り数分間悩んだ末、アランは
「近いうちにそのカイとやらを呼び出す。準備しておけ」
「かしこまりました。」
 "影"が去った後アランは椅子に座り
「カイ……か。面倒なことにならぬといいが……」
 と呟いたのだった。

 目が覚めると俺は見慣れぬベッドの上にいた。家族みんなが俺を覗き込んでいる。
「み……んな?」
 そうだ……俺は大通りで馬車に轢かれて…。
「「「カイっ!」」」
「お兄ちゃん!」
 母さん、姉さん、フィーが抱きついてくる。父さんも隣で安堵の表情を浮かべている。どうやら病院に運ばれたようだ。それにしても……。
「重い……」
「「「あっ……」」」
 三人も乗っていたら流石に重い。三人ともすぐにどいてくれた。
「よかった……。本当によかった……」
 母さんは涙を流しながらそう言った。姉さんもフィーも泣きはらしたように目が真っ赤だった。
「ごめん……。心配かけたね……」
「カイが馬車に轢かれたって聞いたときは生きた心地がしなかったよ……。元気になってよかった」
 姉さんがそう言って俺の手を握ってくる。まるで俺の存在を確かめるかのように。そこで今まで黙っていた父さんが
「一つ問題がある」
 と切り出した。
「お医者さんに聞いたんだが、お前病院に運ばれたときほとんど無傷だったらしい。現場にはお前の血が残っているのに、だ」
「つまり……?」
「カイ、お前俺を助けてくれた時みたいに無意識に治癒魔法を使ったんじゃないか?」
「治癒魔法?」
「ああ。治癒魔法はその名の通り使った対象を治癒する魔法だ」
「なんで父さんがそんなこと知ってるの?」
 父さんは平民なのに…。
「昔色々あってな。それはそうと、どうなんだ?カイ。使ったのか?」
「使った……かもしれない。死にたくないって思ってたら痛みが引いて、意識を失ったから……」
「そうか……。これが領主様の耳に入ったら面倒だな……」
 そっか……。領主様の耳に入ったら…入ったら俺はどうなってしまうのだろう。
「とにかく。このことは家族だけの秘密だ」
 父さんの言葉にみんなが頷いた。
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