7 / 7
エピローグ
しおりを挟む
☆
よく晴れた日曜日の午前のこと――僕はある人を駅で待っていた。
僕は今まで通り、つまらない日常を送っていた。退屈という訳ではない。僕は今のこの瞬間が楽しみで仕方がない。
ほんの少し前の僕はなんの為に生きているのか、ただ、毎日仕事をしてゲームをしての日々を過ごしていただけのつまらない人生を送っていた。だが、今の自分と前の自分のつまらないというのは意味が少し違っていた。前の自分は面白みがなく、このまま変わらない毎日を過ごしていくだけの人生だと思っていた。しかし、今の自分はある人と出会ったことにより、今までの生活が激変したと言ってもいいくらい変わったのだ。そうゆう意味では断然今の方が良い方向に動いていると言えるだろう。だが、何故つまらないという点なのかは少し時が遡る必要がある。そう、あの時の決断の瞬間に時は戻ることになる。
「これが、彩子さんの答え……ですか?」
「はい?」
彩子さんはキョトンとした顔だった。
「違うのですか?」
「答えってなんのことですか?」
「いや、だから、僕と正式にお付き合いするってことですよ」
「やだな~私は誰とも付き合う気はありませんよ」
「ど、どうゆうことですか?」
「どうも、こうも、私はレンタル彼女としてここに来た――ただそれだけのことです。正式な交際とかガチな彼女になるとか、そんな考えは私にはございません」
確かに僕はレンタル彼女として依頼はしたが、その中身はどちらと本気で交際するのかという肩書きが付いている。なので、承諾した時点でどちらと交際するのか迷っていたと思っていた。それの決断が今のこれである。
「彩子さんはギリギリまでどちらかと交際するのか迷っていたわけではないということですか?」
「どちらの依頼を受けるのかで迷っていただけです」
そうゆうことか。通りで話がうまくいっていると思った。
「で、では、なぜ僕とデートをしようと思ったのですか?」
「人助けです」
「え?」
「宇尾島さんはモテる要素がいくつか感じられますけど、二ノ宮さんには残念ながら、今の時点ではありません。なので、レンタル彼女にも見捨てられたら可哀想だと思ったので、今回は二ノ宮様の依頼を引き受けることにしました。レンタル彼女を雇う人はモテない人が多いです。なので、私はモテない人たちに手を伸ばしたくなるのです」
「あ、そ、そうですか……」
僕はモテない男の代表なのかもしれない。彩子さんに人助けと言われ、情けをかけられたということになる。それがなんだか切なくなってくる。でも、そんな僕に手を伸ばしてくれる彩子さんは偉大だ。こんな僕を拾ってくれるだけで救われた気がした。
「では、僕と本気で付き合うことは一生ないのでしょうか?」
「一生という言い方をしますと、言い切れませんね。私の気が変わるかもしれないですし、可能性としては、ミジンコくらいはあるかもしれません。ま、ないと考えていいでしょう」
「なら、僕はそのミジンコくらいの可能性にかけてみたいと思います。彩子さんと繋がりがある限り!」
「ふふ、あなたもとんだ一途さんですね。私は向き合ってくるものは全力で受け止めますよ――レンタル彼女として」
彩子さんは最後の『レンタル彼女』という言葉を尊重させて言った。
「彩子さん、では、新たな一歩として夢の国に行きましょう」
僕は彩子さんに手を差し出した。
「ただのユニバーサルじゃないですか。でも、そうゆう言い方は嫌いではありませんよ。少しだけ女心がわかってきましたね」
彩子さんは笑いながら言った。自然と僕も笑みがこぼれる。
僕が初めて好きになった人、彩子さん。彩子さんは彼女であるが、彼女ではない。届きそうで届かない関係性。時間が経てば消える関係だが、また呼んだら再び一緒の時間がくる。今の関係に満足とは言えないけど、今はその関係が僕の生きがいである。彼女の笑顔が僕の幸せ。ずっと、ずっと傍にいたい。
彩子さんがストップウォッチを押した瞬間、その時間は訪れる。幸せの時間の幕開け。
僕は彩子さんの手を引いてテーマパークの地へ二人で踏み込む。
「そういえば、彩子さんの本名ってなんですか? もしかして彩子っていうのは偽名とか……」
「いいえ。本名です。私の名前は恋隠(こいかくし)彩子(あやこ)です」
「こいかくし……彩子さんらしい名前ですね」
「そうですかね。私はあまり好きではありませんが。なので、これからも私のことは彩子でお願いします」
「あの、彩子って呼び捨てで呼んでも構いませんか?」
「ずっと思っていましたけど、普通に彩子って呼んでくれて構いませんよ? 年上なんだし……それに敬語じゃなくても全然構いませんよ。堅苦しいですし堂々と言えばいいんですよ」
「え? そうなんですか? つい、目上の人に感じてしまって」
「平等ですよ、私達の関係は」
「そうですか……じゃ、これから呼び捨て、タメ口で言わせてもらいますね」
僕は勇気を振り絞って名前を呼んだ。
進展と言えば、呼び捨てとタメ口になったことくらい。でも、今はそれで構わない。だって、今が楽しければそれでいい。僕はこの一秒、一秒の瞬間がとても輝いている。僕の生きがい。目の前に待ち合わせをしている彼女が僕を見つけて、手を振って走ってきた。
僕も彼女と同じく手を振った。僕の幸せとは、このことを言うのだろう。本当の恋人になれるかどうかはまだ、先の話。僕は彼女の名前を呼んだ。
「彩子!」
「りっくん、お待たせ」
彼女は彼女であって彼女じゃない。
だって彼女はレンタル彼女なのだから――
完
よく晴れた日曜日の午前のこと――僕はある人を駅で待っていた。
僕は今まで通り、つまらない日常を送っていた。退屈という訳ではない。僕は今のこの瞬間が楽しみで仕方がない。
ほんの少し前の僕はなんの為に生きているのか、ただ、毎日仕事をしてゲームをしての日々を過ごしていただけのつまらない人生を送っていた。だが、今の自分と前の自分のつまらないというのは意味が少し違っていた。前の自分は面白みがなく、このまま変わらない毎日を過ごしていくだけの人生だと思っていた。しかし、今の自分はある人と出会ったことにより、今までの生活が激変したと言ってもいいくらい変わったのだ。そうゆう意味では断然今の方が良い方向に動いていると言えるだろう。だが、何故つまらないという点なのかは少し時が遡る必要がある。そう、あの時の決断の瞬間に時は戻ることになる。
「これが、彩子さんの答え……ですか?」
「はい?」
彩子さんはキョトンとした顔だった。
「違うのですか?」
「答えってなんのことですか?」
「いや、だから、僕と正式にお付き合いするってことですよ」
「やだな~私は誰とも付き合う気はありませんよ」
「ど、どうゆうことですか?」
「どうも、こうも、私はレンタル彼女としてここに来た――ただそれだけのことです。正式な交際とかガチな彼女になるとか、そんな考えは私にはございません」
確かに僕はレンタル彼女として依頼はしたが、その中身はどちらと本気で交際するのかという肩書きが付いている。なので、承諾した時点でどちらと交際するのか迷っていたと思っていた。それの決断が今のこれである。
「彩子さんはギリギリまでどちらかと交際するのか迷っていたわけではないということですか?」
「どちらの依頼を受けるのかで迷っていただけです」
そうゆうことか。通りで話がうまくいっていると思った。
「で、では、なぜ僕とデートをしようと思ったのですか?」
「人助けです」
「え?」
「宇尾島さんはモテる要素がいくつか感じられますけど、二ノ宮さんには残念ながら、今の時点ではありません。なので、レンタル彼女にも見捨てられたら可哀想だと思ったので、今回は二ノ宮様の依頼を引き受けることにしました。レンタル彼女を雇う人はモテない人が多いです。なので、私はモテない人たちに手を伸ばしたくなるのです」
「あ、そ、そうですか……」
僕はモテない男の代表なのかもしれない。彩子さんに人助けと言われ、情けをかけられたということになる。それがなんだか切なくなってくる。でも、そんな僕に手を伸ばしてくれる彩子さんは偉大だ。こんな僕を拾ってくれるだけで救われた気がした。
「では、僕と本気で付き合うことは一生ないのでしょうか?」
「一生という言い方をしますと、言い切れませんね。私の気が変わるかもしれないですし、可能性としては、ミジンコくらいはあるかもしれません。ま、ないと考えていいでしょう」
「なら、僕はそのミジンコくらいの可能性にかけてみたいと思います。彩子さんと繋がりがある限り!」
「ふふ、あなたもとんだ一途さんですね。私は向き合ってくるものは全力で受け止めますよ――レンタル彼女として」
彩子さんは最後の『レンタル彼女』という言葉を尊重させて言った。
「彩子さん、では、新たな一歩として夢の国に行きましょう」
僕は彩子さんに手を差し出した。
「ただのユニバーサルじゃないですか。でも、そうゆう言い方は嫌いではありませんよ。少しだけ女心がわかってきましたね」
彩子さんは笑いながら言った。自然と僕も笑みがこぼれる。
僕が初めて好きになった人、彩子さん。彩子さんは彼女であるが、彼女ではない。届きそうで届かない関係性。時間が経てば消える関係だが、また呼んだら再び一緒の時間がくる。今の関係に満足とは言えないけど、今はその関係が僕の生きがいである。彼女の笑顔が僕の幸せ。ずっと、ずっと傍にいたい。
彩子さんがストップウォッチを押した瞬間、その時間は訪れる。幸せの時間の幕開け。
僕は彩子さんの手を引いてテーマパークの地へ二人で踏み込む。
「そういえば、彩子さんの本名ってなんですか? もしかして彩子っていうのは偽名とか……」
「いいえ。本名です。私の名前は恋隠(こいかくし)彩子(あやこ)です」
「こいかくし……彩子さんらしい名前ですね」
「そうですかね。私はあまり好きではありませんが。なので、これからも私のことは彩子でお願いします」
「あの、彩子って呼び捨てで呼んでも構いませんか?」
「ずっと思っていましたけど、普通に彩子って呼んでくれて構いませんよ? 年上なんだし……それに敬語じゃなくても全然構いませんよ。堅苦しいですし堂々と言えばいいんですよ」
「え? そうなんですか? つい、目上の人に感じてしまって」
「平等ですよ、私達の関係は」
「そうですか……じゃ、これから呼び捨て、タメ口で言わせてもらいますね」
僕は勇気を振り絞って名前を呼んだ。
進展と言えば、呼び捨てとタメ口になったことくらい。でも、今はそれで構わない。だって、今が楽しければそれでいい。僕はこの一秒、一秒の瞬間がとても輝いている。僕の生きがい。目の前に待ち合わせをしている彼女が僕を見つけて、手を振って走ってきた。
僕も彼女と同じく手を振った。僕の幸せとは、このことを言うのだろう。本当の恋人になれるかどうかはまだ、先の話。僕は彼女の名前を呼んだ。
「彩子!」
「りっくん、お待たせ」
彼女は彼女であって彼女じゃない。
だって彼女はレンタル彼女なのだから――
完
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
年上彼氏に気持ちよくなってほしいって 伝えたら実は絶倫で連続イキで泣いてもやめてもらえない話
ぴんく
恋愛
いつもえっちの時はイきすぎてバテちゃうのが密かな悩み。年上彼氏に思い切って、気持ちよくなって欲しいと伝えたら、実は絶倫で
泣いてもやめてくれなくて、連続イキ、潮吹き、クリ責め、が止まらなかったお話です。
愛菜まな
初めての相手は悠貴くん。付き合って一年の間にたくさん気持ちいい事を教わり、敏感な身体になってしまった。いつもイきすぎてバテちゃうのが悩み。
悠貴ゆうき
愛菜の事がだいすきで、どろどろに甘やかしたいと思う反面、愛菜の恥ずかしい事とか、イきすぎて泣いちゃう姿を見たいと思っている。
女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集
春
恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。
【女性向けR18】性なる教師と溺れる
タチバナ
恋愛
教師が性に溺れる物語。
恋愛要素やエロに至るまでの話多めの女性向け官能小説です。
教師がやらしいことをしても罪に問われづらい世界線の話です。
オムニバス形式になると思います。
全て未発表作品です。
エロのお供になりますと幸いです。
しばらく学校に出入りしていないので学校の設定はでたらめです。
完全架空の学校と先生をどうぞ温かく見守りくださいませ。
完全に趣味&自己満小説です。←重要です。
サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。
風
恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。
飼主さんが大好きです。
グロ表現、
性的表現もあります。
行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。
基本的に苦痛系のみですが
飼主さんとペットの関係は甘々です。
マゾ目線Only。
フィクションです。
※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜
船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】
お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。
表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。
【ストーリー】
見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。
会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。
手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。
親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。
いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる……
托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。
◆登場人物
・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン
・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員
・ 八幡栞 (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女
・ 藤沢茂 (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。
エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる