クレーンゲームの達人

タキテル

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▲▼28プレイ

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「今日は僕の為に時間を作っていただきありがとうございます」
「担当の新島です。どうぞおかけになってください」
 後日、僕は千川の紹介でプログラマーの会社の面接を取り付けてもらい、珍しくスーツ姿で出向いた。着るのは就活依頼であったので数ヶ月ぶりになる。ネクタイもしっかりと締めて心までも引き締まった感じになる。面接に来たのはいいが、少し予想外の展開が待ち受けていた。面接を担当するのは新島と名乗る男の他に四人の男が横に並んでいた。計五人の面接官に僕は中央に置かれたパイプ椅子に腰掛ける形となっており、まるで公開処刑のような注目の浴び方だ。おまけに男たちは全員メガネであり、鋭い視線が僕に突き刺さった。かつて感じたことがない威圧に押し殺されそうになるが、ここで引いてしまっては僕の夢が遠ざかってしまうので打ち勝たねばならないシーンである。
「では、まずお名前と簡単な自己紹介をお願いします」
 新島にそう言われ、僕は背筋を伸ばして言った。
「鈴木裕斗。二十三歳。A型。大学を卒業後にゲームセンターで働いていましたが、正社員目前で店が閉店。その後はゲーム関連の店を転々としていましたが、どれも店がうまく経営できずに泣く泣く退社になりまして、現在は無職です。僕は子供の頃からゲームが好きで愛しています。いつか、ゲームをする立場ではなくゲームを作る立場になりたいと思うようになりました。と、いうのもゲームはやる人に笑顔にすることや仲間とともに一つの世界に引き込んで友情が芽生えることもできる素晴らしいものだと感じます。僕はそのゲームの世界をここで作り上げたいと思ったので御社に入りたいと強く思います。以上です」
 僕がこんな長いセリフをスラスラ言えるはずもない。しかも一回も噛まずになんて尚更無理だ。
全ては事前に予行練習したおかげだ。神谷に協力してもらい、神谷が面接官役で一晩中練習したのだ。神谷の的確な助言のおかげもあり、噛まずに言えたのでここは感謝すべき点ではあるのかもしれない。問題はここからの質問の受けごたえになる。どのような質問が飛んでくるのか未知数の為、アドリブになる。
 五人の面接官は資料である僕の履歴書をガン見する。五人分キッチリとコピーされているので一字一句逃すこともない。僕は緊張が高ぶった。
「鈴木君……だっけ? 職歴の最後の月が半年ほど前になっているけれど、その間は何をされていたのかな?」
 左端の細いメガネの男が質問した。いきなり痛いところを突かれた。だが、僕は変に言い訳をするつもりはない。憧れの企業に認めてもらう為にはありのままを話すことが懸命だと判断した僕は偽りもなくこう言った。
「はい。無職になってからはある連れに誘われて動画撮影をしてYouTube上のサイトにアップすることをしていました。僕が撮影の担当、そして連れが動画のメインという形で様々な動画を作ってきました。主にその活動が空白の時間のメインです」
 僕は発言した後、面接官の五人は難しい顔をしながらボソボソ話し出す。年配の方もいた為、意味が伝わらなかったようで知っている人が説明しているようにも見えた。
「なるほど、よくわかりました。YouTuberというものですね。最近有名な職業ですね。その動画撮影は何を撮影していなのでしょう?」
 五人の中心に座る新島が聞いた。
「主にゲーム動画を、さらに絞ればクレーンゲームの動画をメインに撮影していました」
 僕はハキハキと答える。
「クレーンゲームですか。それは面白そうですね。簡単に見えて実は奥が深い。私もやったことはありますが取れることはなかった」
 急に和やかな雰囲気になる。別の面接官に笑みが出始めた。
「プログラマーも同じく簡単に見えて実は奥が深いゲームを作ることが目標となっています。その点について鈴木君はどのようなプログラマーを考えているのでしょうか?」
 急に難しい質問が飛んできた。つまりはプログラマーとは何か? と、聞いているように見受けられる。僕は面接では絶対にしてはいけない沈黙、無言をしては印象が悪くなると引っ掛けてある為に場を繋ぐ為にも口を滑らせながら答えを探した。
「えーとですね。つまりは、その……きっかけだと思います」
「きっかけとは?」
 あっさりと面接官に返された僕は言葉に悩みながらも長年思い続けた理想のプログラマーについて語る。
「ゲームとは一人でやるものだと思いがちではありますが、そうではありません。自分以外の人と協力したり戦ったりしていくのがゲームの醍醐味だと思います。それは現実世界でも同じです。一人では何もできない。なら他の人に助けてもらったり助けてあげたりしていくのが人間です。しかし人とのコミュニケーションが苦手な人も中にはいます。僕は話題を集めて仲良くなれるきっかけを作るゲームを開発したい。それが僕の考えているプログラマーであります」
 僕の言葉に迷いはなかった。それが僕の考えているプログラマーなのだから。僕の発言に面接官は難しい顔をするも理解したように頷く。
「なるほど。よくわかりました。我々も同じように考えています。それでは面接の方は以上になります。良い返事ができそうですね」
 と、新島は微笑みながら言ってくれた。
「面接の方は以上ですが、次にスキルチェックの実施をしたいので別室の方に移動をお願いします」
 別の面接官に誘導され、別室に案内された。
 そこでは数学的なペーパーテストにパソコンの簡単な問題をやらされた。大学を出て、パソコンの資格を持っている僕から言わせればなんも問題もなく終わった。それから数日、企業からの返事が来たのはすぐのことだった。
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