クレーンゲームの達人

タキテル

文字の大きさ
上 下
24 / 31

▲▼23プレイ

しおりを挟む
「鈴木! そういえば賞金の半分は鈴木に渡るようになっていたんだったな。仕方がないから恵んでやるよ」
 神谷は王様にでもなったかのように鼻を伸ばしながら現金が入った封筒を僕にチラつかせた。こいつ一発殴ってやろうかと思うほど顔がやらしいがそのような思いを押し殺して封筒に手を伸ばす。
「頂き!」
 僕が封筒に手を伸ばしたその時だった。横から封筒を奪われたのだ。その賞金が入った封筒を手にしたのは柊祐奈だった。
「え? なに?」
 僕は状況が掴めず、柊祐奈を見て一時停止した。
「これは私にくれるって約束だったわよね? 有り難く貰っていくわ」
「ちょっと待ってよ。三位の賞金は貰ったはずでしょ? てっきり僕は何も貰えないと思ったからあげるって言った訳であって貰えたのなら話は別というか……」
「何よ! 男に二言があるっていうの?」
 僕は彼女のセリフに言い返せずにいた。これは男を黙らせる最も卑劣な下り文句みたいなもので言葉に迷う。
「それとこれとは話が別だよ」
 なんとか僕が捻り出した言葉である。だが、そんな発言にもすぐに彼女には打ち砕かれてしまう。
「私、毎日辛いの。これも人助けの一貫だと思ってくれたら嬉しいな。スートン」
 柊祐奈は上目遣いをしながら甘えるように言ってくる。おまけにYouTubeの僕の芸名をやらしく言ってくるのだ。僕は女の武器を目の当たりにした瞬間であった。
「ど、どうぞ。受け取ってください」
 いつの間にか彼女に乗せられ、僕が受け取るはずであった賞金を見送ってしまったのだ。
「あーあ」
 近くで見ていた神谷は馬鹿だなといったように声を漏らした。それは自分でもわかっていることだ。それ以上は何も言わないでもらいたい。
「神谷! 鈴木!」
 取るものを取った柊祐奈ははっきりと僕たちの名前を呼んだ。
「僅かな時間だったけど、あなたたちと共に大会に出られて少しだけ楽しかったわ。クレーンゲームの腕は認めざるを得ないほどに。これからは私なりに生きていくから多分、もう会うことはないわ」
 彼女なりに感謝の言葉なのだろうか。それとも投げやりの言葉なのだろうか。どちらにせよ、嫌には聞こえない。
「また、キャバクラに走るのか?」
 神谷の一言が柊祐奈に重くのしかかった。
「……悪い?」
 柊祐奈は逆ギレのように鋭い目線で神谷を睨みつけた。僕は見ていられなくなるほどソワソワしながら見ていた。
「悪くはない。ただそれは自分で楽しくてやっているのであれば何も言わない。でも、嫌々でやっているならそういうことになる」
「……ふーん。あなたが私に説教するなんていい度胸しているじゃない。でもね、これは仕方がないことなの。生きていく為にはお金がいる。自分のしたいことだけをして生きていく人間なんてまれよ。誰だって嫌なことをしてお金を稼ぐの。私もその一人よ」
 坦々と言う柊祐奈に対し、神谷は噛み付く。
「確かに自分のやりたいことだけをして生きていく人間は多くない。むしろひと握りかもしれない。でも、ゆうちゃんは他の道に進むことも大切だ。キャバクラよりも他のジャンルで才能を発揮できる場所があるはずだ。そんなところで働いていても幸せになれないよ」
「私の才能? あなたに私の何がわかるっていうのよ。それになんであんたにとやかく言われなきゃいけないの? 私の勝手よ」
 柊祐奈は興奮気味であった。神谷は地雷を踏んでしまったと気が気でなかった。
「ごめん。ゆうちゃんの人生だ。ワイがあぁだ、こうだ言うギリはないのは事実。でも、今回を気に仲間として一緒にいたいと思っているんだけど、どうだろうか? 友達になってほしい」
 神谷の正直な気持ちだった。それは僕も同じで柊祐奈とはこれからも良き仲間として有り続けたいと心のどこかで思っている。
「仲間って何よ。ゲーム仲間? そんなのお断りよ。知り合いに見られたらとんだ恥よ。私は仲間を必要としない。一人の方が気楽だしね。まぁ、せめてものギリとしてあなたたちの動画くらいは拝借してあげてもいいわよ?」
 これが柊祐奈という女であった。可愛い顔をしながら口を開くと毒を吐く残念な女。でも、それは彼女の素質であっていいところでもある。自分らしさをしっかり持っている。
「ありがたきお言葉頂きました」
 神谷は忠誠を誓うように言った。
 柊祐奈は自由気ままな猫だ。誰にも彼女を止めることはできない。そう、僕らは悟った。
「鈴木、最後にもう一度聞くけど、あんたの夢は何?」
 不意に僕は柊祐奈に質問された。
「僕は……」
 言葉が止まってしまった。本当は何がやりたいのか答えが出なかった。もちろん答えはプログラマーなのだが、今はYouTuberとして行きたいのか、それとも別のことをしたいのか混乱したのだ。
「夢はしっかりと持ちなさい。私みたいにならないように」
 柊祐奈は僕に完璧な答えを求めていなかった。今は考えろということなのだろうか。
「僕の夢は変わらない。ゲームを開発するプログラマーだ」
「果たしてそうかしら。私はYouTuberの方がお似合いに見えるわ」
「え? どうして?」
「さぁ、どうしてかしら。そんな気がしただけ」
 柊祐奈はいつものように貶すような言い方ではなく、笑みを浮かべながらそう言った。今の僕はその言葉の意味を知る術はなかった。
「じゃ、またね」
 柊祐奈は言った。
「また会えたら連絡先教えてよ」
 神谷が言った。
「いつか会える時を楽しみにしているよ」
 僕が言った。

 僕たち三人は短いような長いような、でも短かった時間を噛み締めて、チームは解散した。
 それから柊祐奈の素性はわからなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍青学園GCSA -ぷち-

楓和
青春
これは本編である『龍青学園GCSA』の、ちょっとした小話です。 ネタバレだらけ…というか、本編を見ないと意味不明になるので、本編を見ていない方は先にそちらを読み、その後でこちらを読んで頂けると幸いです。 龍青学園GCSAを気に入って下さった方には、感謝の気持ちで一杯です。 もし好きなキャラクターが居て、そのキャラクターの裏話など聞きたい…なんて素晴らしい方が居たら、ぜひご連絡下さい。

👩保健室の先生との思い出(現在連載中)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
「保健室の先生との思い出」を書いていきます。 一話2分ほどの短い作品です。

眠りの森の

奈月沙耶
青春
大学生になったばかりの聡は、無気力な日々を送っていた。機械的に大学に通い、授業が終われば病院にいる幼馴染の郁子の見舞いに行く。愛情の薄い両親に放っておかれてひとりぼっちでいる郁子のことを、聡はずっと気にかけ想ってきた。聡なりに郁子を守ってきたのだが。

OH MY CRUSH !!

文月 七
青春
一目惚れした女の子を探すために、倖尊は奔走する!

青空ベンチ ~万年ベンチのサッカー少年が本気で努力した結果こうなりました~

aozora
青春
少年サッカーでいつも試合に出れずずっとベンチからみんなを応援している小学6年生の青井空。 仲間と一緒にフィールドに立つ事を夢見て努力を続けるがなかなか上手くいかずバカにされる日々。 それでも努力は必ず報われると信じ全力で夢を追い続けた結果…。 ベンチで輝く君に

光の輪にはいって

すふにん
青春
自分の殻に閉じこもるようになってどのくらい経ったのか。 外界からの情報を遮断して、アパートの一室に閉じこもる主人公の霞。 そして、幼い少女の頃を思い出す。学校の屋上で、大空に両手を広げて彼女は この地球という閉じ込められた空間に住んでいる人々に伝えたいことがあった。 心はやがていつかみんなとシンクロする。 天使のように楽園へ羽ばたく時がやってくるまで……と、彼女の心はこの地球に向かって叫び続けた。 どうか、この光の輪にはいって。 この想いよ、届け。

肺が灰になっても叫べよ声を

古ノ人四月
青春
クラスメイトの奈々海さんは、高校三年生は三回目だと言った。肺炎を患った彼女は、酸素ボンベを背負って学校に通っていた。肺が弱ってしまったから、濃い酸素を吸えないと苦しいらしい。あの日もそうだった。出席日数を稼ぐために補習を受ける奈々海さんの隣で、僕はいつまで経っても決まらない進路を悩んでいた。 進路に悩む僕、肺炎の奈々海さん、全く別の目的で夏休み中の学校に居合わせただけだった。 僕と奈々海さんの距離が縮まったのは、なにがきっかけだっただろう。 消しゴムを借りたから? 財布を忘れたから? 怪談話に震えたから? それとも、夜の学校で不思議な体験をしたから? いろんなことがあった。だからこそ、どれか一つの出来事が特別だったわけではなく、どの出来事も僕と奈々海さんには必要だったのだと思う。 もうじき咲く春の花の芽に、あの夏を思い起こした僕は、そんなことをぼんやり考えていた。 これは、年上のクラスメイトと過ごした高校三年生の夏休みのお話。 この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事件などとは関係ありません。 のんびり毎日更新していきます。九月中には完結予定です。

今日もきっと8限目まで

佐野真
青春
憧れの高校に入学し、大人気サッカー部のマネージャーになった真(まこと)。 8限目までぜひお付き合いください。

処理中です...