クレーンゲームの達人

タキテル

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▲▼22プレイ

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「挑戦してもらうのはこちらです」
 優勝を決めるクレーンゲームの景品は定番のぬいぐるみであった。単純なだけにこれを一回で取っていかないと優勝はない。僅かなミスも許されないプレッシャーに神谷は勝つことができるのだろうか。
「では、クレーンゲーム優勝決定戦開始です」
 宇野が勝負開始を宣言した。
 神谷も影山も無表情で景品のぬいぐるみ一点を見つめていた。アームは動き出した。
 神谷も影山も手前の景品を一発取りで掴むことはせず、滑らせるように取り出し口に引きずり出した。
「はい。次の景品も狙って下さい」
 続けてアーム操作をする二人。だが、僅かなミスで勝敗は決まってしまう。影山はアームを操作するボタンを離す際にスライドするような形でボタンを離しているのだが、それがアダとなった。手をスライドした際にうまく滑らずにボタンから離れず引っかかってしまったのだ。本来止めなければならない位置を大きく過ぎてしまい、景品からアームが遠ざかってしまったのだ。景品獲得ならず。
 対する神谷はアームを手足のように扱える達人だ。まるでキーボードを打つかのようにその動きに迷いはない。思い描いたようにアームを操作した。その結果、神谷は連続でぬいぐるみの獲得に成功した。
「決まった! 優勝は神谷達人選手だ!」
 目を離せない一瞬で勝敗が決まってしまった。僕は自分が優勝したかのように喜んだ。
「やった! 神谷勝ったよ」
 僕は同意を求めるかのように隣にいた柊祐奈に言う。
「良かったじゃない。これで一躍有名人になれたわね」
 柊祐奈は他人事のように言うが実際どのように思っているのか僕にはわからない。もしかしたら素で言っているかもしれないし、そうでもないのかもしれない。
「優勝した神谷選手にはクレーンゲームのトロフィーと賞金百万円を贈呈します。ただし、神谷選手は鈴木選手とペアを組んでいた為、山分けという形になりますので間違えないように。優勝おめでとうございます」
 スタッフ一同拍手を湛えた。
 
「記念撮影を撮ります。神谷選手、影山選手、柊選手は前に来てください」
 スタッフにそう言われ、柊祐奈はなんで私が? と、いったような反応をした。よく見ると一位、二位、三位の凸の踏み台が用意されていた。
「ほら、ゆうちゃんは実質三位だから当てはまるんだよ。行ってきなよ」
 僕は彼女の背中を押した。彼女仕方がないといった感じで神谷たちの元に行く。配置についてカメラを持ったスタッフが位置につく。
「はい! 撮りますよ。はい、チーズ!」
 カシャッ!
 神谷は王様のように胸を張っていた。対する柊祐奈はカメラ目線ではない斜め横を見つめる。どこを見つめているのかわからない。影沼に至っては長い前髪で表情が見えていない。
 写真撮影も終わり、一同リフレッシュした気分でいる時、司会の宇野は柊祐奈に近づいた。
「はい。柊さん。これを」
 宇野は柊祐奈に何かを渡した。
「これは?」
「三位の賞金です。三十万円。おめでとうございます」
「え? 賞金出るの?」
「はい。一位が百万円。二位が五十万円。三位が三十万円です」
「そうなんだ」
「小さい字で書いてあったはずなんですがね」
 僕はチラシに目を凝らして見る。確かに三位までには賞金が出ていた。
「あ、ありがとうございます」
 柊祐奈はお金を受け取って嬉しそうにはしゃぐ。目標の百万円には程遠いけど賞金が出るだけでも嬉しいはずだ。
「優勝、勝ち取ったぞ! 鈴木」
 神谷は僕の元に来てトロフィーを見せつけた。この時のドヤ顔はとてつもなくいやらしかったが、優勝したらそのような顔になるのは間違いない。
「おめでとう。神谷。これでクレーンのチャンピオンだ」
 僕はとりあえず拍手をして褒めたたえた。
「一人じゃここまで来られなかった。鈴木がそばにいてくれたおかげだ」
 神谷は手を差し伸べた。僕はその意味を察し、手を握り返して握手を交わしたのだ。
 スタッフ一同、僕と神谷に大きな拍手が鳴り響いた。こうして神谷と僕のクレーンゲームの大会は幕を閉じたのだ。
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