9 / 31
▲▼8プレイ
しおりを挟む
とあるゲームセンターの外で初の動画撮影が始まろうとしていた。段取りの打ち合わせは事前にしてあるので後は撮るだけだ。
「そんな緊張しなくてもいいから。友達と動画撮っているって考えてもらえばなんとかなるから気軽にいこう」
神谷は軽い感じで言う。僕は動画を撮りながら喋っていくだけだから神谷よりは緊張しないけど、これがネットに広がると思えばかなり緊張する。
「じゃ、カウントよろしく」
「そういえばさ!」
僕は神谷の言葉を遮った。
「これ、ゲーセンで撮影するんだよね?」
「そうだけど?」
「店の許可は取ってあるの?」
「鈴木。友達と記念に写真や動画を撮る上でいちいち誰かの許可を取るか? 景品が取れる喜びを分かち合うのに他人の許可がいると思うのか? 違うだろ! 喜びは身内だけの共有だ。他人が踏み込んでいい領域ではない。そうだろ?」
つまり、神谷は店の許可を取っていないということである。僕は不安そうな顔をして神谷を見る。
「大丈夫だよ。撮影禁止なら普通、店の外に注意書きで書いてあるだろ。だが、そんなものは見当たらない。と、いうことは別に撮影してもいいってことだよ」
神谷の理論は「○○をしてはいけない」と書かれていなければ何をしても大丈夫ということだった。そんな無茶苦茶な理由で撮影をしようしているらしい。僕は少しどうかと思うけど、まぁ、ここは神谷の言うことに従おうと思う。
「カウントいきます。五秒前――四、三、二、一……スタート!」
僕は神谷にカメラを向けて撮影を開始した。
「はい! どうも! お初です。今回からクレーンゲームの解説動画を上げていきます。司会進行のクレーンゲームの神の達人ことカミタツです。以後、よろしくお願いします☆ そして、ワイの相棒の……」
「スートンです。解説役をします。よろしくお願いします」
僕は演説をするかのように落ち着いた口調で挨拶をした。
「はい! と、いうわけで、二人で立ち上げていきますので今後ともよろしくお願いします。では早速プレイをしていきま……しょうタイム!」
「はい。カット」
僕はビデオを止めた。神谷は無理にチャラ男みたいな口調で挨拶をした。まさか動画ではそのキャラで通すのかと僕は不安が募る。
「よし。次は現場に行こうか」
僕たち二人はゲーセンの店内に入った。そして、神谷は撮影する為の台を厳選する。店内のものを一通り回った神谷は一台の台に視線を送る。
「これにしようか」
神谷が選んだ台はフィギュアが入った箱の景品だった。今、人気アニメのヒロインのフィギュアである。置き方としては突っ張り棒が二本、斜めになっており、箱が横に置かれて左に向かって徐々に間が広くなっているもの。一般的に考えればアームで少しずつ左に移動させて回数を重ねて取るタイプのものとして伺える。
「鈴木! これを一回で取るからしっかりと撮影していてくれ」
なんと神谷はこれを一回で取ると宣言した。どう見てもこれは回数かけて取るタイプのもの。それを一回で取るというのだから本当にそんな事が可能なのかと思ってしまう。しかし、神谷は取ると言ったら必ず取るのだ。何と言ったって神谷のクレーンの実力はずば抜けているのだ。
「五秒前、四、三、二、一……スタート」
「はい! と、いうわけでこちらの景品を取りたいと思います。それと皆さんに宣言します。こちらの景品――これ一枚で取りたいと思います」
神谷はカメラに向かって百円玉を突きつけながら言った。僕だけではなく、カメラに向かっても宣言したので余程の自信があるのだろう。神谷は百円玉を投入した。お金を入れた後の神谷の目はさっきまでの穏やかな感じとは違って真剣そのものだった。無言で操作する神谷は僕が解説を加えていいのか迷いながら言う。
「こちら、回数を重ねてずらしていくタイプに思われるがどのように取るのか緊張が高まります」
と、思ったことを言った。
アームは箱の右端に狙いを定めて降下する。アームは降下する力で箱を押して一回転させて取り出し口に落ちていく。神谷は宣言通りに百円でフィギュアを取ってしまったのだ。
「こんな感じで取れました! では続きまして……」
「はい、カット」
僕は話の途中で打ち切るように止めた。
「なんで止める!」
神谷はこれから何かが始まろうとしていたところを止められて不服そうに言った。
「確かにクレーンゲームで景品を取っていく動画は面白いかもしれないけどなんか普通過ぎない?」
「普通の何が不満なのさ」
「なんていうか、こう――見ていて面白いというか、何か目的を絞って動画にするようなことというか……見る人の求めている何かを動画に盛り込むことが必要かなって」
僕は途中から自分でも何が言いたいのかわからなくなっていた。
「目的……視聴者の求める何か……うーん」
神谷は僕が出した単語を拾って考えた。言いたいことは伝わってくれたのだろうか。
「あ、そっか!」
神谷は何か閃いたように言った。
「鈴木! 視聴者の求めていることがわかった。さっそく撮影の準備をしてくれ!」
そう言って神谷は別の台に移った。
「そんな緊張しなくてもいいから。友達と動画撮っているって考えてもらえばなんとかなるから気軽にいこう」
神谷は軽い感じで言う。僕は動画を撮りながら喋っていくだけだから神谷よりは緊張しないけど、これがネットに広がると思えばかなり緊張する。
「じゃ、カウントよろしく」
「そういえばさ!」
僕は神谷の言葉を遮った。
「これ、ゲーセンで撮影するんだよね?」
「そうだけど?」
「店の許可は取ってあるの?」
「鈴木。友達と記念に写真や動画を撮る上でいちいち誰かの許可を取るか? 景品が取れる喜びを分かち合うのに他人の許可がいると思うのか? 違うだろ! 喜びは身内だけの共有だ。他人が踏み込んでいい領域ではない。そうだろ?」
つまり、神谷は店の許可を取っていないということである。僕は不安そうな顔をして神谷を見る。
「大丈夫だよ。撮影禁止なら普通、店の外に注意書きで書いてあるだろ。だが、そんなものは見当たらない。と、いうことは別に撮影してもいいってことだよ」
神谷の理論は「○○をしてはいけない」と書かれていなければ何をしても大丈夫ということだった。そんな無茶苦茶な理由で撮影をしようしているらしい。僕は少しどうかと思うけど、まぁ、ここは神谷の言うことに従おうと思う。
「カウントいきます。五秒前――四、三、二、一……スタート!」
僕は神谷にカメラを向けて撮影を開始した。
「はい! どうも! お初です。今回からクレーンゲームの解説動画を上げていきます。司会進行のクレーンゲームの神の達人ことカミタツです。以後、よろしくお願いします☆ そして、ワイの相棒の……」
「スートンです。解説役をします。よろしくお願いします」
僕は演説をするかのように落ち着いた口調で挨拶をした。
「はい! と、いうわけで、二人で立ち上げていきますので今後ともよろしくお願いします。では早速プレイをしていきま……しょうタイム!」
「はい。カット」
僕はビデオを止めた。神谷は無理にチャラ男みたいな口調で挨拶をした。まさか動画ではそのキャラで通すのかと僕は不安が募る。
「よし。次は現場に行こうか」
僕たち二人はゲーセンの店内に入った。そして、神谷は撮影する為の台を厳選する。店内のものを一通り回った神谷は一台の台に視線を送る。
「これにしようか」
神谷が選んだ台はフィギュアが入った箱の景品だった。今、人気アニメのヒロインのフィギュアである。置き方としては突っ張り棒が二本、斜めになっており、箱が横に置かれて左に向かって徐々に間が広くなっているもの。一般的に考えればアームで少しずつ左に移動させて回数を重ねて取るタイプのものとして伺える。
「鈴木! これを一回で取るからしっかりと撮影していてくれ」
なんと神谷はこれを一回で取ると宣言した。どう見てもこれは回数かけて取るタイプのもの。それを一回で取るというのだから本当にそんな事が可能なのかと思ってしまう。しかし、神谷は取ると言ったら必ず取るのだ。何と言ったって神谷のクレーンの実力はずば抜けているのだ。
「五秒前、四、三、二、一……スタート」
「はい! と、いうわけでこちらの景品を取りたいと思います。それと皆さんに宣言します。こちらの景品――これ一枚で取りたいと思います」
神谷はカメラに向かって百円玉を突きつけながら言った。僕だけではなく、カメラに向かっても宣言したので余程の自信があるのだろう。神谷は百円玉を投入した。お金を入れた後の神谷の目はさっきまでの穏やかな感じとは違って真剣そのものだった。無言で操作する神谷は僕が解説を加えていいのか迷いながら言う。
「こちら、回数を重ねてずらしていくタイプに思われるがどのように取るのか緊張が高まります」
と、思ったことを言った。
アームは箱の右端に狙いを定めて降下する。アームは降下する力で箱を押して一回転させて取り出し口に落ちていく。神谷は宣言通りに百円でフィギュアを取ってしまったのだ。
「こんな感じで取れました! では続きまして……」
「はい、カット」
僕は話の途中で打ち切るように止めた。
「なんで止める!」
神谷はこれから何かが始まろうとしていたところを止められて不服そうに言った。
「確かにクレーンゲームで景品を取っていく動画は面白いかもしれないけどなんか普通過ぎない?」
「普通の何が不満なのさ」
「なんていうか、こう――見ていて面白いというか、何か目的を絞って動画にするようなことというか……見る人の求めている何かを動画に盛り込むことが必要かなって」
僕は途中から自分でも何が言いたいのかわからなくなっていた。
「目的……視聴者の求める何か……うーん」
神谷は僕が出した単語を拾って考えた。言いたいことは伝わってくれたのだろうか。
「あ、そっか!」
神谷は何か閃いたように言った。
「鈴木! 視聴者の求めていることがわかった。さっそく撮影の準備をしてくれ!」
そう言って神谷は別の台に移った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
アナタはイケメン達に囲まれた生活を望みますか? ▶はい いいえ
山法師
青春
私立紅蘭(こうらん)高校二年生の如月結華(きさらぎゆいか)。その結華の親友二人に、最近恋人が出来たらしい。恋人が出来たのは喜ばしいと思う。だが自分は、恋人──彼氏どころか、小中高とここまでずっと、恋愛といったものとは縁遠い生活を送っている。悲しい。そんなことを思っていた結華は、家の近所に恋愛成就の神社があることを思い出す。どうせ何もならないだろうと思いながらも、結華はそこにお参りをして、彼氏が欲しいと願った。そして、奇妙な夢を見る。
結華は、起きても鮮明に覚えている意味不明な内容のその夢を不思議に思いながらも、まあ夢だし、で、片付けようとした。
が、次の日から、結華の周りで次々と妙なことが起こり始めたのだった──
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
アルファちゃんと秘密の海岸 第1話 根も葉もない話
たいら一番
青春
少女ミチと、謎の少女アルファちゃん達の徒然なるお喋り。7000字程度の短いストーリーなので、暇な時に、暇つぶし、話しのタネになるかも。女の子たちがあーだこーだ話してるだけ。
はかい荘のボロたち
コダーマ
青春
謎の天才ポエマー×美少女ラッ教祖サマ×ドMタマネギ男…『はかい荘』にて極貧生活!
家賃が払えず住んでた下宿を追い出された!
大阪シンは、見るも悲惨な建物──はかい荘にやって来る。
それが、はた迷惑な日々の始まりであった。
Great days
まゆし
青春
2018年、「能力使い」の存在が初めて公表された。能力使いとはその名の通り、人間の技術や身体的能力では絶対不可能なことを、特別な力を使って成し遂げられる人間のことを指す。一方で、能力使いについて詳しい研究は全く進まず、正に神から選ばれし人間としか言いようがなかった。その中で、能力使いにはある法則が存在するということだけが確認された。それは、能力使いはもれなく全員、必ず強大な霊感を持っているということである。
主人公の男子高校生、青井海は、16歳の誕生日、突如強大な霊感が発現し能力使いとなってしまった。元々お化けやホラーといった類のものが大の苦手な彼は、苦難の日々を強いられることとなる。しかし、ある女の子との出会いによって、彼の日常は大きく変化し始める。
学校生活や日常を営む中で得た心優しく愉快な仲間たち、能力を通して出会った様々な幽霊との関わり合いの中で、海は自分の生き方、命との向き合い方、そして正しい能力の使い方を学んでゆき、人として大きな成長の道を進むこととなる。そしてその能力と共に、人間の心の弱さと愚かさ、根本悪に立ち向かってゆく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる