クレーンゲームの達人

タキテル

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僕は職場を閉店に追い込んだ疫病神こと神谷達人に一言、ガツンと文句の一つでも言ってやろうと接触を試みたのだが、最終的に何故かその疫病神とYouTuberとしてコンビを組むことになってしまった。これだけ聞いたら一体どうゆうことなのか理解できないだろう。僕自身もこの状況に理解できていないのだから当然である。客と店員の関係でしか喋ったことがなかったが、普通に話してみると、何故か話が合うことが多々あったので不思議である。しかし、等の神谷は僕が店員だったということはまだ知らない。ただ、同じゲーム好きの無職としか思っていないだろう。つい、言いそびれてしまったがそのうち種明かしをしようと思う。ひとまず、まずはYouTuberという話。
 神谷がクレーンゲームをプレイして僕がその様子を撮影するという役割で話はまとまっている。それに加え、神谷は獲得した景品をネットで売る商売もしているので普通とは変わった稼ぎ方をしている。僕もそんなので稼げるとは思っていないが、現在僕は無職。その為少しでも稼げるものをしたかったので神谷の気まぐれに手伝う形となる。
「動画を撮る上で鈴木は顔出ししない約束だけど、コメントみたいな喋りはしてくれないかな?」
 と、神谷はお願いしてきた。
「それってテレビでいうナレーションみたいなやつ?」
「そうそう、流石に一人で動画を進行していくのは辛いからさ、喋り相手とか解説みたいなやつを頼むよ」
「まぁ、それくらいなら問題ないけど……」
「お! じゃ、頼むよ」
 流石に全国の人が見ているかもしれない動画に顔出しで出る勇気はなかった。僕みたいな地味な人が動画で見たら不愉快に感じるかも知れないからだ。それほど、僕は顔には自信がない。もしも『一緒に動画に写って頂点を極めよう』なんてお願いされたら百%お断りだ。しかし、声だけの出演ならまだ許された。声だけなら個人情報の心配はないからだ。単純に言えば恥ずかしいというのが一番の理由なのかもしれない。
 翌日の夕方からさっそく初の撮影をすることになった。
「鈴木! これが撮影するビデオカメラだ。落としたりして壊すなよ。これ、7万もしたんだから」
「な、ななまん?」
 僕は金額の大きさに驚くように声を漏らした。神谷はなんと事前にYouTuberの必需品であるビデオカメラを用意していた。このビデオカメラで動画を撮影して投稿しようというのだ。そしてあえて金額をバラしたのはその価値を判らせて大事に使うようにするためだと後から知った。こんなのスマートフォンの動画機能ではダメなのかと聞くと「そんな安い動画では真のYouTuberになれないだろうが!」であった。動画を撮るにしてもまずビデオカメラの品質を極めることから念入りに用意しているのでかなり本気でやるのだと実感する。動画を撮ってくれる人さえいれば後はスムーズに事が進むように様々な下準備を神谷はしていた。
「まず、一番大事なのはYouTuberのあだ名だ。まぁ、芸能人でいう芸名みたいなものだ。それを作っておくことで有名になった時、その名が世間を賑わすのだ」
 神谷は熱く語り始めた。
「はいはい。それで、その芸名というのは決まっているの?」
 僕は早くしてくれといった感じで面倒そうに言う。
「勿論、その名もカミタツだ!」
「カミタツ?」
「クレーンゲームの神の達人――略してカミタツだ。どうだ?」
「神なのか、達人なのかどっちかに絞れよ。てか、ダサい」
「ちなみに神谷達人を略してもカミタツになる。素晴らしいネームングセンスだろ?」
「……うー、うん。もうなんでも良いよ」
 神谷のネーミングセンスはさておき、どうやら『カミタツ』で名乗っていくようである。この際、名前なんて対して気にならないから僕には関係ないことだ。
「じゃ、それで決まり。鈴木の芸名はどうする?」
「え? 僕も決めるの?」
「当たり前だろう。二人で動画撮っていくんだから名前がないと呼ぶのに不便だろ」
「じゃ、鈴木で」
「おい! それただの本名だろ。真面目に考えろよ」
「そんなことを言われても自分のあだ名なんてわからないよ。子供の頃から今まで鈴木で通ってきたから今更あだ名なんて……」
「鈴木。 下の名前はなんだっけ?」
「裕斗だけど?」
「じゃ、スートンでいいだろ」
「スートン?」
 僕は生まれて初めて付けられたあだ名に困惑する。
「鈴木の『スー』に裕斗の斗で『トン』だ」
「随分、無理矢理な気もするけど……」
「いいじゃん。筋斗雲みたいな発音で面白いだろ」
「まぁ、なんでもいいよ」
 この際、諦めた感じで神谷の決めたあだ名でいくことにした。スートンか……石みたいなあだ名だとは口に出さないでおくことにした。
 カミタツとスートンというコンビ名で僕たちの動画撮影は始まった。
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