クレーンゲームの達人

タキテル

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何度も言うが、僕は疫病神の常識外れの実力で店泣かせの挙げ句の果てに店が閉店してしまい、職場を失った。と、いうことは僕には疫病神に対して生活を奪われたということになる訳であって文句を言ってやりたいのだ。別にごめんなさいと謝罪をしてほしい訳ではない。お前の並外れた実力のせいで職を失ったやつがいるんだぞと理解してほしいのだ。その実力の先には途方に暮れる者がいることをわかっているのかと言ってやりたい。
サービス業ではお客様は神様とも言うけど、僕はそのようには思いたくないという願望がある。確かにお客様があってこそ店として成り立っているのだが、全てのお客にそのように接することはちょっと違う。客でも常識がなっていないものがいれば追い出すことだってできるし、出入り禁止にすることだってやろうと思えば可能だ。変に下手に出る必要なんて全くないのだ。しかし、等の僕は新人ということもあり、そんな荒い行動をすることはできなかった。客と揉めることでクビにされたくなかったので嫌なことがあっても嫌な顔せず、笑顔で対応してきた。理不尽なことを言われても怒りの感情をグッと抑えて徹してきた。それが仕事なんだと働いていた当時は思っていた。その結果、クビというか閉店しまったのだが、どうせ辞めることになるのだったら追い出すなり出入り禁止にするなりとやっておけば良かったと後々になって後悔する。
 ここで疫病神の外見について話そうと思う。
 疫病神の年齢は二十代前半のやせ型の男である。見た目からして僕と歳はそう変わらないと思う。身長は百七十五~百八十センチといったところだろうか。僕の身長が百七十センチなので横並びになった時は疫病神の方が高かったのでそれくらいだと思う。次に髪型は茶髪のパーマをかけている。いつも無造作に見えるのでパーマではなくひょっとしたら寝癖なのかもしれない。ゲームセンターにひたすらこもっていてオシャレをする必要もないので寝癖の方がしっくりくる。次に服装だが、ジーパンにキャラクターもののパーカーを羽織っている。しかもそのパーカーはゲームセンターにちなんでぬいぐるみ系のものである。クレーンゲームのデザインのためにかなり目立つ。いかにもここの景品を取りに来たと言っているようなデザインなのだ。そんなパーカーが売っているのかと疑問だが、疫病神は日替わりでゲームにちなんだものを着ている。ゲーム好きの僕から見ればセンスあるが他人から見たら痛々しいと映るだろう。まぁ、価値観の問題だ。人それぞれ個性があってそれをどう思うかは人によって違う。
 疫病神はゲーム好きという以外は至って普通でそのへんの通行人として歩いているような普通の男だ。しかし、猫背で気が抜けているようなところがあり、目は死んでいる。動きもノロノロと遅いくせにゲームをすると目が活性するように見開くのでその切り替わり方は怖い。砂漠を歩いているところに水辺を見つけて生気を取り戻したかのような変わり方だ。
 次に肌はひたすらゲームをしているせいなのか白い。それに運動もろくにしていないのか手足は細い。それなのに体格というか堅いは良い。男らしく肩幅が広く、整った顔立ちであるので好きな女子は好きなのかもしれない。同じ男である僕の目から見ればできれば関わりたくないという印象だ。気に入らないことがあればすぐに手を出すようなそんなイメージであるからだ。
 外見としてはそんなところであろうか。
 さて、ここまで話したところで僕はついに疫病神に直接文句というか苦情を言いに行こうと思う。これをしない限り僕の未来は永遠にないと思うからだ。と、いうのも、また次にゲームの関わりがある職場に入った時、疫病神に邪魔をされてしまったら溜まったものではないからだ。警告というか注意というかとにかく僕は疫病神に物申さなくてはならない。
 では、どのようにそれを実現するのかというとまずは地元のゲームセンターに行くことだった。疫病神は当然、毎日のようにゲームセンターにいるということはどこかには必ず入り浸っているのだ。と、なれば次なる滞在場所は予想がつく。これまでに僕の行動を真似してきているのかと思うほど疫病神は僕のいる場所にいるのだ。ならば、僕が次の働きたい場所には疫病神がいることになるのだ。行動がワンパターンなので探し出すのは至って簡単だ。なので、僕は就業場所の視察も兼ねて疫病神がいるのか探した。
 自宅から電車で駅五つ目を降りてから十分くらい歩いた商店街の中にあるゲームセンターに来ていた。都会の中心にある駅なのでかなり大掛かりな店舗であった。三階建ての構造になっていて一階がクレーンゲーム、二階が格ゲーやら車のゲームやらゲームの場所、三階はメダルゲームを中心のした場所となっている。僕はこの場所はよく知っている。ゲームセンターもそうだが、都会ということもあり、周りには様々な店が並んでいる。歩いているだけで楽しくなるようなところだ。今回は周りの店には目も呉れずにゲームセンターに真っ直ぐ来た。目的はもう決まっている。疫病神がいるかどうかの確認だ。少なくてもここにいる可能性は充分にある。むしろいるだろう。僕の目の付け所は間違っていないはずだ。
 そんな期待を膨らませて僕は「セガフィールド○○店」に足を踏み入れた。店内には平日の昼間だというのに人が賑わっていた。流石、都会のゲームセンターということもあり多くの人が遊んでいた。僕は一階から順番に隅々まで巡回する。遊ぶ客の一人一人顔を伺いながら疫病神を探す。どうやら一階にはいないようだ。次に階段を登り、ゲーム機があるフロアへ足を運んだ。足を踏み入れた瞬間、ゲームの爆音が耳を刺激した。何台もの音が混ざり合っていたので、どれがどの音を出しているのかわからないほどだ。長時間こんなところに居続けたら耳がおかしくなりそうである。僕は耳を塞ぎながら一階同様、客の顔を伺いながら巡回したその時である。格ゲーのゲームを黙々とプレイする一人の男に目が止まった。どこかで見たことあるシルエットにどこかで見たことがあるぬいぐるみのパーカー。
 顔を見なくてもわかる。目の前で十字キーとボタンを激しい手さばきをしているこの男こそ、僕が探していた疫病神であった。
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