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10.一笑
しおりを挟む「さあ、今日も世のため人のため――」
「「「「――えっ……?」」」」
「あ、いや、俺のため悪のため……頑張るぞお前ら!」
「「「「おおっ!」」」」
酔いも醒めた翌日の昼頃、俺たちは冒険者ギルドを訪れていた。昨日Fランクの依頼を達成したことでこれからはEランクとなるので報酬も期待できそうだ。
……ん、三人組の男がニタニタと嫌らしい笑みを浮かべながら近付いてきた。誰だ?
「お、ラルフたちじゃーん」
「久しぶりだなあ」
「雑魚ども、元気にしてっかー?」
「「「ププッ……」」」
「……」
いきなりきつい洗礼だな。俺は知らないが、きっとラルフたちの知り合いなんだろうと思ったら、ラルフを筆頭に気まずそうに黙り込んでることから、悪い意味での知り合いなんだろう。
「聞いたぜー、例の召喚術師に見捨てられたそうじゃん」
「哀れだなあ」
「ま、金魚のフンでしかなかったししょうがねえよな」
「「「ブハッ!」」」
「……」
なんとも嫌な空気だが、ラルフたちはいずれも言い返せない様子で項垂れてるし、この絡んできた三人組からしてみたら最高の雰囲気ってところか。
これは俺の想像だが、これだけ小馬鹿にされてるってことは、例の横暴な召喚術師がいないと依頼を全然達成できないパーティーってことで有名だったのかもしれない。んで、それがもういない状態だからと絡んで来たってわけだ。
なんせ勇者パーティーを追放され、問題児扱いで敬遠されていた俺を仲間にするくらい、ラルフたちは追い詰められてたみたいだからな。
「てかさ、この見慣れない顔は誰なわけ?」
「誰だあ、こいつ?」
「ただの無能の仲間じゃねえの?」
「「「ププッ……」」」
「……」
今度は俺に絡んできやがった。まいったな。ラルフたちにしてみりゃ無駄に相手をして過去を掘り返されたくもないだろうし、その空気を察してスルーしようとしてたんだが、リーダーの俺まで無能扱いされたわけで、最早魔王のような存在になってる身としちゃ放ってはおけなくなった。
「お、おい、お前ら、この方をどなたと心得る!」
「そ、そうだよぉ! ディル様を怒らせたら、どうなるか知らないよ……!?」
「愚かな真似をなさいましたね……」
「ホント、無能はどっちよ!?」
「ククク……」
俺はラルフたちの声をバックに、不敵に笑ってみせた。多分、三人組にとってはなんとも不気味かつ嫌な空気になりつつあるはずだ。
「な、なんだ、まさかまた有能なの連れてきたわけ!?」
「やべえよやべえよ……」
「お、おい、逃げようぜ……って、こいつ見たことあんぞ!」
「「え?」」
「ちょっと耳貸せ!」
なんだ、やつらがヒソヒソと会話したあと、にんまりと笑ってきた。
あー、そうか、俺の召喚術を見たことあるやつがいたのか。まあ有名な勇者パーティーの一人なだけに知ってるやつがいてもおかしくないよなあ……って、これはまずいぞ。みんなにバレてしまう、俺が悪党でもなんでもない、ただの脱力系ガチャ召喚術師だということが……。
「こいつ、しょっぼい召喚術が原因で追放されたやつだって話じゃん」
「マジかよお。それが事実なら笑えるなあ」
「しかも底辺パーティー入りだぜ、こいつは傑作だろ!」
「「「ブハハッ!」」」
「……」
予期しない形で最悪の事態に遭遇してしまったが、今まで何度もこうした窮地を乗り越えてきた成果か、早くも俺の中に一つの案が生じていた。
「ディルの旦那……?」
「「「ディル様?」」」
「心配するな、お前ら。わはは……あははっ! ぐわっはっはっは!」
「「「っ!?」」」
三人組の笑い声とラルフたちの不安を掻き消すかのような俺の豪快な高笑いがこだます。
「いやー、これが笑わずにはいられるかってな」
「「「何!?」」」
「まあ聞けって。俺が勇者パーティーを追放されたことは事実だが、お前らの考えてることと真相は異なる」
「「「え?」」」
「俺はわざとああいう召喚術を使って、勇者パーティーを笑い者にしてやったのさ。その結果追放されたが、もうずっと険悪な仲だったから最高にハッピーだったぜ!」
「「「……」」」
やつら青い顔で黙り込んでる。俺の余裕の笑みを添えた台詞が相当こたえたんだろう。
「そうだっ! ディルの旦那は大悪人。ただで追放されるようなお人じゃねえ!」
「そうだよぉ、ディル様が本当にキレたらどうなるかわかんないもんっ」
「このギルドごと爆破しちゃうかもですねえ……」
「もう、やっちゃって!」
「うーむ、そんなに言うならやってもいいかな?」
「「「ひ……ひいぃっ!」」」
三人組が一斉にギルドから飛び出していった。いやー、また勝っちゃったな。勝ちすぎて申し訳ない。
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