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8.墓

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「お、おっ!? なんだ、てめえ、来るなっ! 来るんじゃねえ、この人質をぶっ殺すぞおいっ!」

「……」

 俺は構わず甲冑男に近寄っていく。召喚術の最大のメリットが、ほかの魔法職と比べると効果範囲が格段に広いということだが、それでも影響を与えるにはある程度ターゲットに接近しないといけない。

「お、お前、ふざけんな! それに、なんで笑ってやがる!? 何考えてんだてめえ!?」

 やつの言う通り、俺はこの状況で笑っていた。それが不気味だと感じたのか、やつの興味が人質ではなく俺のほうに向いているのがわかる。

 よしよし……俺はこれ以上刺激を与えるのは危険だと判断して足を止めた。あと数歩ほど歩けば召喚術の効果範囲にやつが入るが、確実に成功させるためにもこのデリケートな部分からはさらに慎重にいきたい。

「そうだ、動くなっ! てめえ、なんで笑ってるのか説明しろ!」

 当然だが、やつの興味を引くため笑顔はキープする。

「なんで笑ってるかだって? おかしいからに決まってるだろ?」

「はあ!? 何がおかしいんだよ、おい!」

 甲冑男の関心が俺のほうにどんどん前のめりになってきているのがわかる。今のところ順調だ。とにかく人質からやつの関心を遠ざけないといけないからな。

「太陽が……太陽がまぶしいのがおかしいんだよ!」

「は……? はあ……!?」

 おそらく、俺の意味不明な台詞でやつは冷静になり始めている。興奮が解け出している。俺が何をしてくるかわからないという恐怖が生まれてくる。つまり、俺に対する関心度はマックスに近い状態で目が離せなくなってるはずだ。

「てめえ、さては酔っ払ってるのか!? そうだな!?」

「……」

「お、おい、聞いてんのか!? く……来るなっ! 来るなああぁっ!」

 ときは来た。俺は甲冑男に一気に迫り、杖を掲げて召喚術を行使する。

「「「「「おおおおっ!?」」」」」

 やつの姿が視界から忽然と消え、周囲からどよめきや歓声が上がるとともにラルフたちが俺の元へ駆け寄ってきた。

「――ディルの旦那! さすがでありやす!」

「ディル様、すごぉーい!」

「素晴らしいですわ、ディル様……」

「一瞬でやっつけちゃったね、ディル様っ!」

「あ、ああ……」

 確かにやっつけた格好だが、俺はかなり気まずかった。なんせ、落とし穴を召喚してそこに落とした形になっていたからだ。何が飛び出すかわからない俺の召喚術らしいが、まさかこんな風になるとは……。

「た、助けてくれえぇ!」

「……」

 既に気絶している様子の人質ではなく、犯人のほうが助けを求めていて、みんな落とし穴のほうに気が付いてしまったみたいだ。今まで煽りに煽っただけに、ここからが問題になってくる。

「け、結構深い落とし穴っすね、旦那……」

「ほんとだぁー」

「これじゃ這い上がれませんねえ」

「しかも、あの体格じゃね……」

 そりゃ俺の召喚術はかなり強い部類だからな。見た感じはしょぼくても標的にとっては最悪の展開になるわけで。ただ、問題はその規模なんだ。これで納得してもらえるかどうか……。

「でも、なんかディルの旦那にしちゃあ優しすぎる結果のような気がしやすね……」

「うん……」

「そういえばそうですねえ」

「確かにー」

「……」

 どうする、どうする。このままじゃ舐められてしまう。そういうのが積もり積もって追放という結果につながってしまっただけに、俺の中には焦りの感情が生まれていた。だが、笑顔だけは絶やしちゃいけない。何か裏があると思わせるんだ……。

「――あっ……」

 そこでラルフがはっとした顔になる。

「わかったっす。このまま生き埋めにするつもりっすね!」

「……そ、そうだ。よくわかったな?」

 なるほど、その手があったか。まさに笑う門には福来り、だな。

「そりゃ、旦那がこの程度で済ませるわけねえって思っておりやした!」

「あうぅ、生きたまま埋められちゃうなんて、リゼ怖くてお漏らししちゃいそお……」

「わたくしなら、泣いちゃいますわ……」

「泣くどころか、気絶しちゃうよー」

「ハッハッハ! さあ、そろそろ生き埋めにしてやろうか……」

「ひ、ひいいぃっ! 助けてくれええぇぇっ!」

 甲冑男が必死に這い上がろうとするが、そのたびに俺が手を下すことなく埋まっていく様子。おいおい、本当に生き埋めになってしまうぞとヒヤヒヤしたが、そのうち兵士たちがやってきて男を捕縛し始めたので、俺は舌打ちしつつ内心安堵したのだった……。
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