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45話 完璧
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俺がまず使ったのは、もちろん【幽石誘導】という、現時点で最強と思われる攻撃スキルだ。
遠距離攻撃かつ誘導攻撃という長所を最大限に生かし、歩いて近づいてくるユユとかいう相手に向かってどんどん石をぶつけてやる……って、な、なんだって? 避ける動作すらしないだと……?
「ふむ……見えない石とな。中々面白いことをやりおるのう。じゃが、我には効かぬ。その程度か……?」
「なっ……」
やつの被っているフードもそうだし、見えない石がぶつかることによってローブがどんどん破けているわけだが、その余裕に満ちた台詞が示すように、石に押し出されることも、出血すらもなかった。
「……」
やがて、その正体が露になってくる。美少女といっても過言じゃないくらい、とても綺麗な顔立ちをしていて、頬の傷が余計に目立っていた。おそらくこれは元からあるものだろう。何故なら、服が破けて肌が覗いても、傷一つつかないからだ。むしろ、石が負けて砕け散っている状態。あんななに華奢で小柄な体なのに、なんて硬さ、重さなんだ……。
さっき戦ったモンスターもそうだったが、こいつは比較にならないほどだ。あれは手足が逆になっていたことから、多分ユユというやつは身体に改良を加えるスキルを持っていて、自身にもそれを応用しているんじゃないか。これだけ無数の石がぶつかってきている状態で、やつは今もなお歩き続け、まばたき一つしないという異常事態……。
ならばこれはどうだと、俺は【幽石誘導】に加えて【後ろ歩き】をセットにして使ってみる。
「――うぇっ……?」
俺の上擦った声が虚しく響く。ユユはしばらく後ろに歩いたかと思うと、またすぐに前進してきやがった。どういうことかと疑問に感じるも、やつの体をよく見ることで納得できた。やつはこっちに背中を向けて、顔はこっちを向いているんだ。
やはり、自分の体をも好きなように弄れるらしい。ダメ元で【蛇の巣】も併用したが、まったく動揺する素振りすらなかった。どうやらメンタルも強靭らしい。もしかしたらそういうのも改良できるのかもな。なんてやつだ……。
俺はこうしてる間にも石をガンガンぶつけてるんだが、やつは肌がいくら露出しても隠そうともせず、表情すら隙がなくて真剣そのものだった。
「くっ……」
握りしめる拳に血が滲む。俺はもう、なすすべがなかった。相手は油断も隙もない完璧な精神。だから一気に向かってこようとはせず、とにかく慎重に少しずつ近付いて来る。
ただ、それが逆にこっちとしては功を奏している部分もあった。一気に迫って来ればもう終わるし、考える時間を貰っているから。
この状況で、もし俺が焦って動けばバレてしまうだろう。自分という袋の中身がもう空っぽであるということに。最早これ以上の手段なんてないんだっていうことに……。
【幽石誘導】【後ろ歩き】【蛇の巣】――この三点セットは、エルフを含む人外対策を散々練ってきた結果生まれた完璧なものであって、これ以上優れたスキル構成なんてあるはずもない。それこそ、膨大なスキルシミュレーションを重ねてきた結果なんだから。
だから、迂闊には動けないんだ。やつがすぐ側に来るまでに、解決策を考えなくては……。
◆◆◆
「「「「……」」」」
一対一の戦いが繰り広げられる教会前からやや離れた場所にて、いずれも神妙な表情で見守っていたアッシュたちだったが、まもなくフォード側が明らかに不利と見るや、喜びを隠さなくなった。
「う……うおおおおおぉぉっ! ユユってやつ、マジつええっ! 微生物野郎の繰り出すわけのわかんねえスキルに対して、一切ものともしてねえっ! 勝てるっ……勝てるんだあああぁぁっ!」
「すっごぉーい! 硬いっ、しぶといっ……! 早くぅ……早くフォードを、パルル好みの醜悪なキメラモンスターに【改造】しちゃってーっ!」
「本当に、うっとりと見入ってしまうほどに素晴らしい耐久力ですこと……。フォードがいくら攻撃っぽいことをしたところで、ユユには全然効いていません。このままフォードを最悪のモンスターへと【改造】し、人としての尊厳をこれでもかと踏みにじってからやっつけてくださいましっ……!」
アッシュ、パルル、グレイシアの三名が拳を振り上げて大いに盛り上がる中、ハロウドがただ一人、しんみりとした物憂げな表情を作ってみせた。
「フォードさん、僕は決して忘れませんよ。あなたのことを……」
「「「ハロウド……?」」」
いかにも怪訝そうな視線が向けられる中、ハロウドは目頭を押さえてひざまずく。
「ウッ……ぼ、僕は悲しいのです……」
「「「悲しい……?」」」
「ええ……だって、もう今日限りでフォードさんの惨めすぎる愉快な姿を見られなくなるわけですからね。そう考えると、あまりにも勿体なくて辛く、悲しく感じるのですよ……。彼の存在は、見世物としてはあまりにも完璧すぎます……」
「「「確かに……」」」
「フォードさん……あなたが僕たちの目の前まで来て、自分が悪かった、パーティーに復帰させてくださいという言葉とともにひれ伏し、奴隷宣言さえしていただければ……そうすることさえできていれば、あなたを許して受け入れることも、もしかしたらできたのかもしれませんが、今更もう遅いですよ……」
「「「ププッ……!」」」
遠い目をしたハロウドの台詞により、アッシュたちのテンションは上がるばかりであった……。
遠距離攻撃かつ誘導攻撃という長所を最大限に生かし、歩いて近づいてくるユユとかいう相手に向かってどんどん石をぶつけてやる……って、な、なんだって? 避ける動作すらしないだと……?
「ふむ……見えない石とな。中々面白いことをやりおるのう。じゃが、我には効かぬ。その程度か……?」
「なっ……」
やつの被っているフードもそうだし、見えない石がぶつかることによってローブがどんどん破けているわけだが、その余裕に満ちた台詞が示すように、石に押し出されることも、出血すらもなかった。
「……」
やがて、その正体が露になってくる。美少女といっても過言じゃないくらい、とても綺麗な顔立ちをしていて、頬の傷が余計に目立っていた。おそらくこれは元からあるものだろう。何故なら、服が破けて肌が覗いても、傷一つつかないからだ。むしろ、石が負けて砕け散っている状態。あんななに華奢で小柄な体なのに、なんて硬さ、重さなんだ……。
さっき戦ったモンスターもそうだったが、こいつは比較にならないほどだ。あれは手足が逆になっていたことから、多分ユユというやつは身体に改良を加えるスキルを持っていて、自身にもそれを応用しているんじゃないか。これだけ無数の石がぶつかってきている状態で、やつは今もなお歩き続け、まばたき一つしないという異常事態……。
ならばこれはどうだと、俺は【幽石誘導】に加えて【後ろ歩き】をセットにして使ってみる。
「――うぇっ……?」
俺の上擦った声が虚しく響く。ユユはしばらく後ろに歩いたかと思うと、またすぐに前進してきやがった。どういうことかと疑問に感じるも、やつの体をよく見ることで納得できた。やつはこっちに背中を向けて、顔はこっちを向いているんだ。
やはり、自分の体をも好きなように弄れるらしい。ダメ元で【蛇の巣】も併用したが、まったく動揺する素振りすらなかった。どうやらメンタルも強靭らしい。もしかしたらそういうのも改良できるのかもな。なんてやつだ……。
俺はこうしてる間にも石をガンガンぶつけてるんだが、やつは肌がいくら露出しても隠そうともせず、表情すら隙がなくて真剣そのものだった。
「くっ……」
握りしめる拳に血が滲む。俺はもう、なすすべがなかった。相手は油断も隙もない完璧な精神。だから一気に向かってこようとはせず、とにかく慎重に少しずつ近付いて来る。
ただ、それが逆にこっちとしては功を奏している部分もあった。一気に迫って来ればもう終わるし、考える時間を貰っているから。
この状況で、もし俺が焦って動けばバレてしまうだろう。自分という袋の中身がもう空っぽであるということに。最早これ以上の手段なんてないんだっていうことに……。
【幽石誘導】【後ろ歩き】【蛇の巣】――この三点セットは、エルフを含む人外対策を散々練ってきた結果生まれた完璧なものであって、これ以上優れたスキル構成なんてあるはずもない。それこそ、膨大なスキルシミュレーションを重ねてきた結果なんだから。
だから、迂闊には動けないんだ。やつがすぐ側に来るまでに、解決策を考えなくては……。
◆◆◆
「「「「……」」」」
一対一の戦いが繰り広げられる教会前からやや離れた場所にて、いずれも神妙な表情で見守っていたアッシュたちだったが、まもなくフォード側が明らかに不利と見るや、喜びを隠さなくなった。
「う……うおおおおおぉぉっ! ユユってやつ、マジつええっ! 微生物野郎の繰り出すわけのわかんねえスキルに対して、一切ものともしてねえっ! 勝てるっ……勝てるんだあああぁぁっ!」
「すっごぉーい! 硬いっ、しぶといっ……! 早くぅ……早くフォードを、パルル好みの醜悪なキメラモンスターに【改造】しちゃってーっ!」
「本当に、うっとりと見入ってしまうほどに素晴らしい耐久力ですこと……。フォードがいくら攻撃っぽいことをしたところで、ユユには全然効いていません。このままフォードを最悪のモンスターへと【改造】し、人としての尊厳をこれでもかと踏みにじってからやっつけてくださいましっ……!」
アッシュ、パルル、グレイシアの三名が拳を振り上げて大いに盛り上がる中、ハロウドがただ一人、しんみりとした物憂げな表情を作ってみせた。
「フォードさん、僕は決して忘れませんよ。あなたのことを……」
「「「ハロウド……?」」」
いかにも怪訝そうな視線が向けられる中、ハロウドは目頭を押さえてひざまずく。
「ウッ……ぼ、僕は悲しいのです……」
「「「悲しい……?」」」
「ええ……だって、もう今日限りでフォードさんの惨めすぎる愉快な姿を見られなくなるわけですからね。そう考えると、あまりにも勿体なくて辛く、悲しく感じるのですよ……。彼の存在は、見世物としてはあまりにも完璧すぎます……」
「「「確かに……」」」
「フォードさん……あなたが僕たちの目の前まで来て、自分が悪かった、パーティーに復帰させてくださいという言葉とともにひれ伏し、奴隷宣言さえしていただければ……そうすることさえできていれば、あなたを許して受け入れることも、もしかしたらできたのかもしれませんが、今更もう遅いですよ……」
「「「ププッ……!」」」
遠い目をしたハロウドの台詞により、アッシュたちのテンションは上がるばかりであった……。
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