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3話 日常的
しおりを挟むスキル名:【降焼石】
効果:目の前に燃える石が降ってくる。
「おおっ……」
あれから俺は、【火の挑発】と【石好き】を【分解】で再構築して合体させ、よさげなスキルに変えてやった。【降焼石】は、敵の頭上に落としたいときに使える。
実際に使ってみたら、小さめなものから結構大きめなものまで、燃え盛る石がどんどん降ってきた。これならかなり痛い上、酷い火傷を負わせることも可能だ。このスキルが封じられた神授石を額に入れたことで、俺は【分解】と合わせて二種類のスキルを使えるようになったってわけだ。
たった二つのゴミスキルを弄るだけで、相当な有用スキルになったと思う。これが気に入らなければまた【分解】して再構築すればいいだけだし、自分で使うもよし、売って金にするのもよしで夢が広がる。
よーし、もっといいスキルを【分解】で作り出して所有するためにも、落ちている神授石を拾いに行こうか。ただ、今の俺は一人だから、下手したら狙われる立場ってことを忘れちゃいけない。この世界ではとにかく慎重に行動するべきだ。ということで、慌てずに夜が明けてからにすることにした。
この国には、王城を守るための兵士は大勢いても、市民を守るための兵士は極端に少ない。国が腐ってるっていうのもあるが、何より屈強な犯罪者どもが多すぎて対処が追い付いてない状態なんだ。
冒険者ギルドでさえ、今まで何回も破壊されてきたわけだからな。昨日までブイブイ言わせていた冒険者が、翌日には首だけの状態で路上に晒される、なんてのは特別珍しいことでもなくて、ゴミスキルがその辺に落ちてて、なおかつ有用なスキルが売買されてるような世界だから、割りとありふれた光景でもあった。
翌日の朝、俺はボロ宿『桃源郷』をあとにした。外はまだ肌寒くて薄暗いが、凶悪な犯罪者どももそろそろ眠りに落ちる頃なので、一番安全な時間帯だといってよかった。
「――おっ……」
「「「「「わーっ!」」」」」
「……」
子供たちの蹴った、石ころか何かが転がってきたので蹴り返してやったわけだが、よく見ると頭蓋骨なのがわかった。ああいうのがそこら中に転がってるせいか、都へ初めて来たときは正直びっくりしたが、今じゃ慣れたもんだ。
俺は弱みを見せないよう、自分は強いぞとアピールするように目を尖らせ、肩を怒らせながら歩く。これが結構というか凄く大事なことで、獲物を物色している相手に厄介そうな人物だと思わせることが肝心だ。
中には天を仰いで笑いながら歩いてるやつも見かけるわけだが、これは多分ヤバイやつだと思われることで自分を守ってるんだろう。
やがて周囲がほんのりと明るくなってきたところで、都の中心にある商店街が見えてきて、そこに名物である上半身裸のポポンガおじさんがいたので安心させられる。
「あ、ポポンがポンッ、あ、ポポンがポンッ、あ、ポポンがポン――」
「……」
俺が近付いたことで、立ち上がって自身の腹を叩きながら狂うように踊り始めた。
このおじさんと会話したことはないが、彼は多分頭が完全にイカれてるわけじゃなく、計算尽くでやってるんだと思う。小銭入れもちゃんと置いてあるし、金を投げてほしいっていうアピールの真っ最中なんだろう。
もちろん金がないのでスルーさせてもらうが、ポポンガおじさんは結構人気があるので食う分には困らないはずだ。ただ、比較的治安のいい場所だからこそできる芸当で、貧民街とかでこれをやっちゃうとまず生き残れないんじゃないか。
商店街を抜けると、目的地の教会が見えてきた。スキルが捨てられてるとしたら、あの辺が一番可能性が高いだろう。俺もスキルをあそこで受け取って、教会から出てきたときは投げ捨ててやろうかって一瞬思ったくらいだ。今考えると捨てなくて本当によかったわけだが。
神父が15歳以上の者にスキルを与える洗礼の儀式自体、深夜の零時に行われるので、拾うなら人気のない今の時間帯が狙い目だろう。
いくら貧民街と比べると治安がいいからって、それはあくまでも比較したらの話。こんなところでゴミ扱いされてる神授石なんか拾ってるのを見られたら、物乞いと思われてちょっかいを出されてもおかしくない。
なんせ誘拐事件なんてしょっちゅう起きてるからな。ターゲットは子供、次いで年頃の女が多いみたいだが、俺みたいな若い男でもそれなりに需要はあるらしい。想像しただけでゾッとするが。
「――っ!」
俺はとっさに物陰に姿を隠した。教会前に謎の人物がいる……。
うずくまって地面に手をやってることから、何かを拾ってるっぽいな。まだこの距離からだと、男か女かも、若いか年寄りかどうかも判断できない。はした金欲しさに神授石を拾い集めてる乞食なのかもしれない。確か、どんなゴミスキルでも銅貨1枚で買い取ってたやつがいたはずだし。
乞食も生活がかかってるわけで、俺が同じようなことをやろうとしたら怒り狂って襲いかかってくる可能性もあるように思う。もしそうなら面倒だな、どうしようか……。
でも折角ここまで来たんだし、今更引き返すつもりもない。もし喧嘩を吹っかけてきたら、【分解】で作った例のオリジナルスキル【降焼石】で撃退してやればいいんだ。
まもなく、俺は覚悟を決めて慎重に近付いていった……。
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