上 下
2 / 50

2話 分解

しおりを挟む

 アッシュたちに追い出されて一人になった俺は、その足で王都フォーゼリアの貧民街にあるボロ宿『桃源郷』まで来ていた。

 歩くだけで床が軋むような、薄暗くて小汚い宿なんだが、自分にはもうここくらいしか居場所なんてないんだ。

 銅貨10枚で泊まれるところなだけあって食事も出ない上、ガタガタの薄っぺらい窓から見える景色も最悪で、丸出しの洗濯物や魚の干し物等、生活感溢れるあばら家を見渡すことができた。

「――フォードお兄ちゃん、こんばんはっ!」

「おっ……」

 俺の泊っている部屋に、三角巾とエプロンをつけた看板娘のモモがやってきた。まだ10歳らしいが、しっかりしていて働き者なんだ。22歳の自分と比べても大差がないように思える。子供らしいところもちゃんとあって、人懐っこくて宿泊客からの人気も高いらしい。

「モモ、元気にしてたか?」

「うんっ!」

 ちなみに彼女の両親はというと、不幸にも有名な殺人犯に遭遇したことで惨殺され、祖母の伝手もあってこの宿『桃源郷』で7歳の頃から住み込みで働いているんだそうだ。

 まあ、この世界はそれくらいたくましくないと生きてはいけない。今いる都ですら治安の悪いところばかりで、いつどこで誰が殺されてもおかしくないわけだからな。

 俺も仲間たちから追放されちゃったし、単独行動なら尚更変な連中に狙われて命を落としてもおかしくない。なので、生き延びるためにはギルドで一から仲間を探すべきだが、まずはゆっくりと休みたい。話はそれからだ。

「あ、そうだぁ……。昨日、空き部屋のお掃除をしてたらね、こんなの見つけたんだよっ!」

「こ、これは……」

 モモがスカートのポケットを豪快にまさぐって、白い下着を公開しながら俺に見せてきたのは、ひし形の青い小石――神授石しんじゅせき――だった。

「フォードお兄ちゃんにあげるねっ」

「あ、ありがとう……」

 この神授石は、15歳以上になって教会で洗礼を受けることで貰えるもので、額に押し当てるとスッと入り、中に封じられたスキルを使うことができる。一人一つだけ使えるもので、俺の【分解】スキルもそうやって授かったものだ。

 逆に、要らないと思ったなら額に手を当てることで取り出し、捨てることもできるんだ。ただ、次に洗礼を受けて新しい神授石を受け取るには、教会のルールで一年ほど待たなきゃいけないみたいだけどな。あるいはどこかで神授石を買うか、拾うか……どっちにしても有用なものがそう簡単に手に入るはずもないわけだが。

 空き部屋にあったってことは、おそらくゴミスキルだからと捨てられたものだろうし価値はないと思うけど、折角だしありがたく貰っておくとしよう。

「あ、もう一個あったからあげる!」

「お、おう……サンキューな」

 また一つ神授石を貰ってしまった。スキルなんて一人一つしか使えないし、額に入れるのも取り出すのにも少し時間がかかるから、何個も持っててもしょうがないんだけどな。

「これからまだ仕事があるから、またねっ!」

「あぁ、モモ、頑張りすぎないようにな」

「ありがと! フォードお兄ちゃん、大好き……ちゅっ」

 モモが俺の頬にキスをして元気よく走り去っていくと、部屋の中は嘘みたいに静まり返ってしまった。本当に前向きな子だから見習いたいもんだ。

「……」

 一応、どんな効果なのか見てみるかな。俺はその辺に寝っ転がりながら、【分解】スキルで手元にある二つの神授石を分析アナライズすることにした。

【火の挑発】:下げた親指から火が降る。

「はあ……」

 親指から降るってだけでしょぼい火だってことがわかる。やっぱり、捨てられるのもわかるくらいとんでもないクソ効果だ。さあもう一つ調べてみよう。

【石好き】:目の前に石が出現する。

「……」

 な、なんじゃこりゃ……。

 こういうのを見てると、外れ扱いされてる俺のスキル【分解】もマシに思えてくるから不思議だ。まあ五十歩百歩だけどな。

 せめて、物だけじゃなくて何かほかに【分解】できればなあ。例えばこの【火の挑発】スキルとか……。

【火指】:火が指の形になる。

「えっ……?」

 ぼんやりと【火の挑発】スキルを眺めながら【分解】したいなんて思ってたら、スキル名も効果も変化してしまった。これは、まさか……スキルにも適用されるのか?

 よーし……今度は【石好き】スキルにも試してみよう。

【目石】:目から石が出て来る。

 確かに変わった。でも、両方ともしょぼいスキルだ。せめて二つを混ぜ合わせることができれば……って、二つのスキルの効果を組み合わせようとしたら一つになった。

【火石】:目の前に燃え盛る石が出現する。

 おおっ……。ゴミスキルであることには変わりないが、それでもこれは世紀の大発見だ。しかもだ、額に入れてみるとちゃんと入ったから、【分解】スキルの一種としてみなされてるっぽい。つまり、【分解】したものなら幾つでも同時に使える状態にできるってわけだ。

 凄いな、これ……。もう疲れなんて吹き飛んでしまった。

 この状態で【分解】スキルをもう一度使用すると、リセットされたらしくてまもなく額から二つの神授石が出てきた。分析すると【火の挑発】と【石好き】スキルにちゃんと戻ってる。

 よーし、またこいつらを【分解】してもっと有用なスキルにしてやろう。どんなスキルが誕生するのか、今から楽しみになってきた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

処理中です...