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1話 仲間外れ

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『グギイイイイイィィィッ……!』

 王都から少し離れたフィールドにて、ムカデ型モンスターの断末魔の叫び声が響き渡った。

 巨大ムカデが、俺の仲間たちの総攻撃によって頭部にあるコアを潰されたあと、ひたすら毒液を噴出しながら暴れていることもあり、少し離れて様子を見る。

 しばらくして、やつは完全に動かなくなった。さて……ようやく俺の出番が回ってきたってわけだ。

「「「「……」」」」

 仲間たちから、早くやれと言わんばかりの冷たい視線をぶつけられる中、俺は不気味な死骸が横たわっているところへ近付き、スキル【分解】を使用してバラバラにしてやった。これを袋詰めにして雑貨屋に持っていき、はした金に換えるのが俺たちの日課だった。

 生物以外であれば、ナイフなんか使わなくても瞬時にこういうことができるんだ。それ以外にはほとんど役に立たない外れスキルだからか、パーティー内じゃ孤立していて、今じゃ俺が何か話題を振ってもスルーされる始末だが……。

 ん?【分解】したものの中に、があって、確認してみると赤色の石だった。

凝魔石ぎょうませきだ……」

 これはモンスターを倒したとき、稀にドロップするレアアイテムだ。十匹くらい倒せば一回は出てくるただの魔石と比べると、内包するエネルギー量や価値が非常に高く、サウナや暖炉、調理、照明等に使われるもので、金貨1枚分の価値があるんだ。

「凝魔石だって!? うおおぉっ、レア出てるじゃん! これでしばらく遊んで暮らせるなっ!」

「あ……」

 嬉々とした顔で俺から凝魔石を奪い取ったのは、パーティーリーダーのアッシュだ。ずんぐりむっくりの体型で、【武力】という、片手で岩をも軽々と持ち上げられるスキルを持つ粗暴な男であり、酒が大の好物なんだ。

「ま、しばらくといっても、金貨1枚程度では一週間すら持たないでしょう。というか、まだ本物かどうかもわかりませんよ」

 喜ぶアッシュとは対照的に冷静な発言をしてみせたのは、火や風を自在に扱う【魔術】スキルを持つ長髪の男ハロウドで、仲間内じゃ主力としてだけではなく、戦略的にも軍師扱いで頼りにされている。

 確かに、凝魔石は彼の言うように色も形も普通の魔石とそっくりなんだが、俺のスキル【分解】には分析アナライズの効果もあるから本物だとわかるのにな……それだけ信用されてないってことだ。

「ちょっと貸してみてえ……。わおっ、本物の凝魔石だー。早速業者に売り払ってえ、みんなで美味しいもの食べよー」

【鑑定】スキルを持つツインテールの少女パルルが、得意げに凝魔石を掲げてはしゃぐ。彼女のスキルは物の価値を見抜くだけでなく、モンスターの弱点をコアのほかにも炙り出す効果があるので重宝されている。

「本物でしたか……。いいですわねえ。これから三ツ星レストランにでも参りましょうか……」

 最後に発言したのは、切断系以外のダメージならほぼ対応できる【回復】スキルを持つ、長い髪を後ろで一本結びにしたグレイシアだ。

 彼女は下級貴族出身ということもあって至って丁寧な口調だが、割りとはっきり物を言うタイプなんだ……っと、俺も仲間外れにされてるとはいえ、こういうときくらい話を合わせないとな。

「あぁ、レストラン楽しみだな」

「「「「……」」」」

 俺はそう発言してから少し経って気付いた。周囲からなんとも嫌な視線が絡みついてくるということに。

「フォード、お前は来なくていいから消えろってんだよ」

「は……? な、なんで……」

「へへっ……みんな、今の聞いたか? な、なんで……だとよっ!」

「「「ププッ……」」」

「こうして無様に笑われてるのを見てもわからねえのかあ? フォード、追放だ。お前の代わりなんざいくらでもいる」

「な、なんでこのタイミングで……」

「タイミングだあ? フォード……【分解】しかできない微生物のお前に対して、一番ダメージのあるやり方で追い出したかったんだよ。それくらいわかれよ。なあ、悔しいかぁ? でも、お前のしょぼい力じゃ俺たちには勝てねえよなあ……」

「……」

「フフッ……フォードさん、気分が優れない様子ですが、大丈夫ですか? これは僕が考えた作戦なんですが、みんな100%同意してくれましてね……。まあこれが現実というものですよ。無能は無能ゆえに迫害され、人の幸せというものを指を咥えて見守るしかできないのです……」

「そーそー! 無能のフォード、ねえ、今どんな気分? 辛い? 悔しい……? ププッ……それじゃっ、元気でねー!」

「さよなら、哀れなフォード。たった一年ほどの関係でしたけれど、老婆心ながら申し上げますわ。一刻も早くご自分を【分解】なされたほうが、今よりもずっと幸せになれるかもしれませんわよ……?」

「「「アハハッ!」」」

「……」

 俺が拳を震わせる姿に満足したのか、やつらの勝ち誇ったような笑い声が徐々に遠ざかっていく。確かにショックだしすっかり自信もなくなったけど、そこまで思いつめるほどじゃなかった。

 元々俺は孤立していたし、遅かれ早かれこうなるのは予想していたことだったから。やつらに対する怒りの感情よりも、これからどうすればいいのかっていう不安のほうが強い。

 それだけ、一人で何かをなすには色々と厳しすぎる世界なわけでな。だからこそ、どんなに邪険にされてもパーティーを抜けたくなかった。また仲間ができる保証なんてどこにもないから。

 ただ、希望を捨てなきゃいいこともあるはず。とりあえず、心身ともにどっと疲れたし、周囲も暗くなってきたから都へ戻って宿で一休みするか……。
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