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百十一段 俺の手で殺さないと意味がないからな
しおりを挟む魔法陣の中から染み出すように現れたのは、黒くて丸い球体だった。目玉猿の頭部よりも一回り大きいそれはゆっくりと上空に上がっていき、あっという間に俺たちを見下ろす形になった。
「し、師匠ぉ、どうしましょう……!」
ラユルが慌ててる。あのボス、なんか偉く不気味な雰囲気を醸し出してるからそれもわかる気がする。
「とりあえず《念視》でボスの中身を確認してみる。ラユルはまだ何もするな」
「はぁい!」
「アシェリは引き続き、《ホーリーガード》しててくれ」
「あいよ!」
「リリムも今まで通りモンスターが増えすぎないように《ブーメランアックス》で適度に処理しててくれ」
「合点」
「アローネもこれまでのようにホムの誘導、頼むぞ」
「わかったわ」
最近知ったことだが、ホムは持ち主の錬金術士が自分の思うように動かすこともできるらしい。《トランス・マインド》というスキルでチェンジするみたいだ。だから俺に敵を流すための誘導はアローネがやってくれている。自動にして声で指示するやり方もあるが、それだと逃げたり隠れたりと予測しない動きもやってしまうため不安定になるらしい。
「あとティア、モンスターに速度の支援を」
「え……シギル様、それマジですか?」
「マジだ」
「……わ、わかりました……《クイックムーブ》!」
ボスを相手にしつつ目玉猿も強化する。これも対人戦でクエスに勝つための厳しい修行の一環だ。
《念視》でボスの構造を確認してみたところ、空っぽだった。心臓がないということは体全体が心臓というパターンだな。それだと再生しそうだが、試しに近寄って《微小転移》でバラバラにしてみるか。
というわけで、《イリーガルスペル》《微小転移》《集中力向上》はそのままで、《念視》と《マインドキャスト》を外して《テレキネシス》を入れた。
「――はっ……」
ボスから何か光線のようなものが出てきたと思ったら、それがこっち目がけて勢いよくジャンプしてきた目玉猿に命中した。……一瞬で粉々だ。まさかあいつ、動いたものに反応して攻撃するのか……? しかも俊敏かつ速度が掛かった目玉猿を一発で仕留めるなんて……。
「みんなそこを動くな!」
俺は力の限り叫んだ。動作をぴたりと止めたことで隙だらけと見たのかモンスターが次々と襲い掛かってくるが、ことごとくボスから飛び出してきた光線によって一撃でやられていた。見ると【ディバインクロス】のほうにも同時に光線が向かっていて、同じように目玉猿が砕け散っているのがわかる。
あいつらも俺の叫び声で察したのか微塵も動かなくなったな。ここにいる仲間はもちろんあいつらにも死なれたら困る。俺の手で殺さないと意味がないからな。
一時的に《微小転移》と《中転移》を入れ替えてここからボスをバラバラにしてみたが、やはりすぐに再生した。どうやって倒すんだこんなの……。《微小転移》で間を置かずに壊し続ける必要があるんだろうか。ただ接近しようにもさすがにこの光線をかわし続けるのは無理があるしな……。
お、エルジェが火属性攻撃魔法《フレイムバースト》をボスに向かって放ったが、効いてる様子はない。続いてビレントも聖属性攻撃魔法《ホーリーブレス》を掛けたがダメだ。ほかにも色々試していたが、空に浮いた不気味な球体はびくともしなかった。色んな属性魔法に耐えてたし多分魔法耐性自体が相当に高いんだろう。物理攻撃ならもしかしたら通用するかもしれないと思ってリリムに《ブーメランアックス》をやらせてみたがダメだった。
どうしようか考えている間に俺に近寄ってくる目玉猿がどんどん光線にやられていく。これじゃ練習にならんな。ボスより先に俺のほうが激怒(バーサク)状態になりそうだ。このままじゃ癪だから光線を出させないようにするか。
まず、ティアにモンスターに対する速度を止めてもらってラユルに倒させるんだ。もうボスは出現してるんだしモンスターを集めるための火が消えても問題ない。
「ティア、速度はもういい。モンスターは俺じゃなくてラユルが倒すから、消耗したら《アストラルヒール》を掛けてやってくれ」
「承知いたしました、シギル様」
「それじゃ、行きますっ。《テレキネシス》!」
「《アストラルヒール》!」
ラユルとティアのコンビによって、【ディバインクロス】に襲い掛かろうとするモンスターを含めてボスから光線が出る前に倒しきっていた。今回はもう時間制限で消えるだろうが、最後に意地は見せることができた。……ん? なんかボスの様子がおかしいな。ぐらぐら揺れてる。まるで光線が放てずにイライラしてるみたいだ……。もしかして、これって激怒条件なんじゃないか?
同じようなことが続いてからまもなく、ボスの体色が真っ赤になった。やはりそうだったか……。
って、なんだ? 点滅してる。しかもその間隔が徐々に早くなっていく。妙に嫌な予感がして、ボスの出方を探るべく《微小転移》でちょっと動いてみたら攻撃してこなかった。これって、もしかして……激怒状態になると逆に動かないやつを攻撃するようになるってことじゃないか? 試しに何度も動いてみたが攻撃してこない。やはりそうだと確信した瞬間、点滅が止まった。
「みんな、今度は止まらずに常に動くんだ!」
俺はまたしても目一杯叫んだ。それでみんなあっちこっち動き始めたところで、棒立ちのグリフのほうに光線が飛んでいった。さすがにまずいと思ったが、寸前でしゃがみこんでかわした。というかあれ、しゃがんだというより腰を抜かした感じだな。危ない……。ヘタレな性格が逆に幸いした格好だな。もう少しで復讐相手が一人減ってしまうところだった……。
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